これって運命?
ドジっ子新入社員の片山奏士が同郷で、小中学校、生誕病院まで一緒だったという事実が判明して以来、麻里奈は奏士が気になってしょうがない。
「これって運命だと思わない?!」
鼻息荒く今の状況を報告する麻里奈だが、悪友達は白い目で見つめる。
「たかだか同郷ってだけで運命感じるとか・・・」
「麻里奈ちゃん、チョロ過ぎ~!」
雨季はつまらなそうに猫達の体をブラッシングし、梓はケラケラと笑い飛ばす。
「何でよ?!そうそうないでしょこんなシチュエーション!!」
「いや~結構あるっしょ~」
純子が新しく買ったアイフォンのセットアップをしながらテキトーに答える。
「地方行けば幼稚園から高校まで一緒ってのが当たり前らしいじゃん」
「それは田舎の話でしょ?!こっちは首都!!」
「首都だったら尚更珍しくないでしょ、私立の内部生とかどうなるのよ」
ソファの上で英字新聞を読んでいた響花が鋭い指摘をする。
「あたしらは全員外部生だったけど小学校から大学までエスカレーターの連中は全員運命共同体ってことになるじゃない」
「そうそう、他の私立でも幼稚園とか小学校からずっと一緒の友達いてもイチイチ運命なんて感じないって」
「それとこれは別でしょ?!アタシと奏士君は偶然職場で出会ったと思ったら実は色々ニアミスしてたのよ!」
ニアミスか~?と四人は口を揃える。
「てか勝手に運命感じる前に先方様の意向を確認しなきゃでしょ」
「そうだよ~!麻里奈ちゃんだけ盛り上がっててもイミないよお~?」
「独り相撲は空しいだけだからねー・・・」
「その新卒ボーイは麻里奈のこと好きなの?彼女とかいるんじゃない?」
悪友達に「どうなん?」と見つめられ、麻里奈は待ってましたと言わんばかりに最近の奏士の様子を語る。
「彼女はいないってこの前言ってたし!とにかくね!めっちゃ距離近いのよ、書類渡す時とか!もうね、この距離よ、この距離!!」
両手で十五センチ程度の間隔を作り”この距離”を実演して見せるが、純子は
「うーん・・・それは単に書類渡すためにその距離だったんじゃ・・・?」
と、いぶかしげである。
「いや、それだけじゃなくってね!もうめっちゃ笑顔なのよ!アタシが出勤した時とか、手止めて顔上げて満面の笑みで挨拶してくれるのよ!!」
「・・・それは性格じゃーないかな・・・?」
響花も、「なんだそんなモンかよ」という表情を隠さない。
「何でよ!他の人にはここまでじゃないの!」
「それは麻里奈が上司だからだよ」
「それか運命を信じたいがゆえに脳が見せてる幻かもよ~?」
おお、そうに違いない、という結論に至り悪友達はこの話題についてそれ以上の興味を失い、夕飯は何を食べようかとそっちの話題で盛り上がり始めた。
(も~~~!何なのよ!!真面目に聞いてくれたっていいじゃない!!!)
薄情者!と憤慨して、足元に寄って来たネオノエとパピヨンを抱きしめながら床の上で不貞腐れる。
自分の自意識過剰なのかと思ってみても、しかし奏士の態度はどう考えても自意識で片付けられる程度のものと思えない。
麻里奈が重いものを運んでいればすかさず飛んで来て一緒に運んでくれる。
手を伸ばしてものを取ろうとすればすかさず取って渡してくれる。
デスクの上に置いた飲み終わりの紙カップ、ペットボトル、お菓子の袋、鼻をかんだちり紙まで、奏士が集めてゴミ箱に捨てに行くのだ。
そんなある日、前夜の会食で飲みまくったのが響き二日酔いで出社した時のことだった。
午前中の部内会議で部長が「お前もトシだな!」とイジったせいで二日酔いなのが皆に知れたのだが、午後にトイレから戻ってくるとデスクの上に付箋付きの葛根湯が一本置いてある。
付箋にはこう書かれていた。
『これ飲んで元気出してください!! 片山』