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新卒君はドジっ子である

 前半はダーリン達との色欲にまみれた時間を過ごし、後半は雨季の家に泊まり込みおばあちゃんの家の敷地でキャンプをするという大充実のゴールデンウィークが終わり、麻里奈は仕事オンモードで出社する。


 五月も半ばになるとどの組織も新しい体制に慣れたからか本格的に案件が動き出し麻里奈の忙しさも増していくが、しかしOJT宮城の苦労の方が日に日に増していく。


「片山ァ!!オメェまたやったのかよォ!!」

「申し訳ありません!!!」


 今日もフロア中に宮城の怒声と奏士の謝罪が響く。


「おーい麻里奈ぁー、ちょっと様子見てこい」


 部長に親指で「GO!」と支持を出され、ヤレヤレと麻里奈は立ち上がり二人のデスクに近付く。


「二人とも声のトーン落としなさい。それで奏士君は今度は何をやらかしたの」

「まーた先方の部長CCに入れるの忘れてメール出して担当に言われたんスよ」


 PCの画面をのぞくと、メールに


『先日から常々、再三、何度も言っておりますが茂木部長もCCにお入れください。』


 の一言が見える。


「この人超~~~細かい人やからちゃんとやらんとイケんって言ってんやぞ!」

「も、申し訳ありません・・・!!!」


 ドラゴンの如く火を()く宮城とプルプル震える奏士。


(・・・まあ、LINE世代はCCなんて気にしないわよね・・・)


「奏士君は次からちゃんと気を付けるように。メール出す前にちゃんとCCに入れたかWチェックして習慣化できるようにしなさい」

「は、はい・・・」

「宮城さんはフォローの電話入れておいて。結構お怒りだったら報告」

「ウス」


 二人に指示を残しデスクに戻ると、隣のお誕生日席の部長がすかさず声を掛ける。


「大丈夫そうか?」

「ん~・・・・・」


 二人で首を伸ばし様子を見る。


 社用スマホ片手に頭を下げる宮城の隣で、自分も一緒になって宮城の通話相手にペコペコする奏士。


「いい奴ではあるんだけどなあ・・・」


 部長がため息を吐く。


 部門配属から早一か月、奏士は非常に真面目に、一生懸命に業務に取り組んではいるものの、それはそれはおっちょこちょいが過ぎるのだ。


 ミーティングで顔を合わせた先方の会社名を間違え宮城を青ざめさせ、これから郵送しようとする契約書をシュレッダー投下し宮城をキレさせ、他社への提案書と見積もりを違う会社にメールで送り宮城を失神させた。


「まあ、様子見しましょう。この前まで大学生だったんですから」

「でもヤラかし方が豪快だろ」

「そんなもんですよ~、新卒なんて・・・」


 笑顔で部長に中間管理職の余裕を見せつけたその瞬間、


「わあーーー!!!」

「オメェ何で何もないトコでコケんだよ毎度毎度!!」


 絶叫と共に転んだ奏士がブチ撒けた書類が、花吹雪の様にフロアに飛散する。


「・・・あんな新卒今までいたか?」

「・・・まあ、新種ということで・・・」


 さすがに苦笑にもならず、前途多難な奏士の教育をこれから一年担う宮城を気の毒に思わずにはいられない。


 しかし奏士は持ち前の真面目さで、毎日毎日、ノートに日誌の如くその日の仕事や注意されたことを、丁寧に丁寧に、書き留めているのだ。


「まあ~だから憎めないと言うか、しょうがねえなって感じと言うか・・・」


 お疲れの宮城を労うために焼肉に連れて行った際、宮城はハイボール片手に奏士のひたむきさを語る。


「ドジっ子やけどやる気が違うんスよね~・・・ちゃんと仕事覚えようって気合を感じるんスよ・・・。だからアタシも熱が入っちゃうっていうか・・・」

「じゃあ今んとこ上手くやれてるな?」


 イイ感じに焼けた牛タンを宮城の皿に甲斐甲斐しく運びながら、部長が詰め寄る。


「あーハイ、鍛えたるって思えます」

「よし、問題ないな!ほら食え、俺が焼いた肉だから残すなよ!」


 宮城は嬉しそうに焼肉を頬張り、麻里奈も部長の分のホルモンを網の上でグリルする。


 宮城の証言どおり、奏士はドジはするものの、ミスを減らすように日々のToDoを付箋に書いてはモニターの端に張って、剥がしを繰り返し、夜はせっせと日誌を書き、先輩達とのランチに混ぜてもらい色々と話を聞いているようだった。


(ふふ・・・頑張るといいわ、若者よ・・・アタシに釣り合う男への道は険しいんだからね・・・)


 奏士の成長を高みの見物する麻里奈。


 そんなある日、遅ればせながら奏士の歓迎会が開かれ、仕事終わりに部署の皆で向かった先は新橋の居酒屋。


 和気あいあいと酒を飲み料理をつついていると、部署の一人が奏士におもむろに問いかけた。


「片山君って出身どこなの?」


 奏士は噛んでいた唐揚げを飲み込んでから答える。


「実家は今埼玉の川口市ですけど、出身は赤羽です」


 麻里奈の耳が反応する。


(ん?赤羽?)


「へえ、偶然ね、ウチも実家赤羽よ」


 麻里奈がそう言うと奏士は喜びを帯びた表情で驚く。


「え?本当ですか?僕、高校まで赤羽に住んでたんです!」

「そうなの?もしかして近所?中学どこだった?」

「赤羽第三中です!」

「うそっ!一緒じゃないの!!」


 ええー?!と一同が盛り上がり、なんと中学校だけでなく小学校、さらには産まれた病院までも麻里奈と奏士は同じ所であることが判明した。


「すごーい超偶然じゃないですかー!!」

「普通ねえよなあ」

「高校が一緒だったとかはたまにあるけど病院も一緒?!」


 やいやい盛り上がる周囲の温度が徐々に遠ざかり、麻里奈は思考の海にゆっくりと沈んでいく。


(小・中だけじゃなくて病院まで一緒の人が同じ職場ってどんな確率よ・・・)


 ちら、と目線を送った奏士と目が合うと、奏士は恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに照れ笑いで答える。



(そんなことある?運命じゃあるまい・・・)



 そこまで考え、麻里奈はとんでもない結論に至った。



(え、なに?もしかして・・・運命なの・・・?)

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