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激突!令和の大運動会!

「え~~~、参加者の皆さんはチームTシャツを着用の上~、ご自身のチームの待機エリアでお待ちくださーい。Tシャツの左上に名札シールが貼られていることをご確認くださ~~~い」


 業務を途中で切り上げ集合した、夕方十六時のイベントホール。


 縦長の会場は半分が競技スペース、半分が参加者の待機スペースとなっており、中はすでに赤・青・黄・緑・黒のTシャツを着た社員であふれ、ザワザワとしている。


 赤のチームTシャツに着替えた広告プランニングディビジョン第二部・総勢七名!


 石葉常務チームの待機エリアに移動し周囲を見渡し、お隣の青いTシャツの須賀専務チームの向こう、黄色の乃田専務チームの向こう、緑の朝生副社長チームの向こう、黒いTシャツ古泉社長チームの中に奏士の姿を探していると


「おい、麻里奈・・・」


 部長が小声で耳打ちする。


「なんか・・・石葉常務チーム・・・年齢層高くないか・・・?」


 自陣に目線を戻すと、人のことは言えないがやや高齢な社員達がソワソワしながら身を小さくしている。


「大丈夫なんスか・・・綱引き一発でギックリとかやっちまわないスかね・・・」

「これ半分は介護保険徴収されてるだろ・・・」

「再雇用が五人もいるぞ・・・」


 覇気に欠ける石葉常務チームとは対照的に、古泉社長チームの盛り上がりはハンパない。


「勝つぞお~~~古泉社長チーーーム!合言葉は~?!」

「努力!」

「友情!!」

「勝利~~~!!!」


 イエ~~~イ!!!という歓声と共に、ペンライトや手作りうちわを全員が振り回す様子に古泉社長は満足気だ。


「なんかあっち、エネルギーに満ちてますね・・・」


 そりゃそーだ、と麻里奈は内心で悪態をつく。


 新卒全員+その新卒のOJT担当の同期全員という、二十代のスーパーピチピチフレッシュパワーがブチ込まれた先が社長チームなのだ。


「コレ、めっちゃ忖度(そんたく)入ってるだろ・・・」

「広報のすることなんてこんなモンですよ!」


 Tシャツの赤に違和感を感じるほど辛気臭さを漂わせる石葉常務チームの参加者を見ていると、本当になんのためにここにいるんだと悲しくなってきた麻里奈だが、自分の説得で参加している他のメンバーがいる手前あからさまに退屈な顔はできない。


「ま!私達は私達で楽しみましょう!」


 明るく振舞っていると、いよいよ開会式が始まった。


 古泉社長の開会の挨拶に始まり、尾渕(オブチ)会長のご挨拶が続き、そして司会進行を務めるゲストお笑い芸人コンビの紹介、プログラム説明、最後に特典として優勝チームには一人一万円分のクオカード進呈が発表されると、会場は大いに盛り上がる。


「クオカード欲しいっス!!」

「それじゃあ頑張るわよ!!」

「ウッス!!!」


 金券に目がくらんだ参加者達は、誰も彼もが全力で競技に取り組む。


 麻里奈と宮城は第一競技のシッティング玉入れで、両腕を振り回しながら玉をブン投げまくる。


 第二競技の総当たり綱引きでは部長が消防団運動会で培った綱引き術を伝授、引いて引いて引きまくり他を圧倒する。


「えー現在の順位は!一位が須賀専務チーム!二位が僅差で石葉常務チーム!三位が古泉社長チームでございます!」


 全体的にガチムチ体育会系が多いような気がする須賀専務チームがリードし歓声を上げるが、平均年齢最高齢の石葉常務チームも二位という成績に盛り上がる。


「お~い、このまま頑張るぞ~!」


 メガネを掛けた恰幅の良い石葉常務がハッパを掛けると、一同「ハイ!」と返す。


 しかし第三競技の大縄跳びから石葉常務チームには暗雲が立ち込める。


 脚力の落ちた中年達、なんと、大繩を跳ぶことができない。


 社長チームの青年達が軽快なジャンプでカウントを積み上げていくのに対し、こちらはゼロのまま大繩が足元で弾かれ続けるという失態を晒す。


 続く第四競技の台風の目では、そよ風の如く見事な鈍足でビリを記録。


 第五競技の空中椅子対決では誰もが「ヤメろよ!」と制止したにも関わらず、「俺が巻き返してやる!!」と言って聞かない再雇用の翁寛平(おきなかんぺい)(六十四歳)が腰痛で倒れご退場となった。


「中間発表です!一位古泉社長チーム!二位須賀専務チーム!三位乃田専務チーム、四位朝生副社長チーム、そしてどうした、石葉常務チームが五位に転落です!」

「石葉常務チーム~!大丈夫ですか~?息してますか~?」


 他チームの笑いを誘う芸人コンビの見事な司会であるが、こっちは全く笑えない。


「それでは第六競技!全員参加マルバツクイズ~!!」

「白鷗堂に関するクイズを十問出題します!正解だと思った方はこちらマルのエリア、不正解だと思った方はバツのエリアにご移動ください!この競技は勝ち抜き形式、外れた方は待機エリアまでお戻りいただき、最後まで勝ち残った参加者全員にそれぞれ十ポイントで~す!!」


 この第六競技、会社に関するクイズならジジババが揃う我らの有利と誰もが思った石葉常務チームであったが、第五問目で早くも全員敗退した。


「お前らさあ・・・、愛社精神って言葉知ってっか?」


 赤いTシャツを着た本部長二人がすでに、石葉常務から静かな叱責を受けている。


「・・・俺、来年の昇進ないかもな・・・」


 部長もすっかり肩を落としてあぐらをかき、クオカードが遠ざかった宮城に至っては隅で他の女子達と賭けポーカーに熱中していた。


(・・・ホントにあたしなんのために参加したんだろ・・・)


 最終競技・借り人競争の準備が進められる様子を眺めながら水分補給する麻里奈は、そういえば写真を全然撮ってなかったことに気付く。


「いよいよ最終競技の借り人競争です!準備中の今のうちにルールをご説明いたします!」

「各チーム三人の挑戦者にはこの、前方に用意されたテーブルの上のお題封筒を一つ選んでいただきます!中に書かれたお題に合う借り人を探し、見つけたら手を繋いでテーブル前まで戻り座ってください!」

「皆さん、そんなモンかよ~って思ったでしょ?コレ難しいですよ?なんとお題は百種類あります!」


 ええー?!という声の中、芸人コンビは運営が一生懸命お題封筒を並べるテーブルに近付く。


「これですね、お題がレベル一から十まで設定され、それぞれに十個あるので百個のお題なんですよ!もちろんレベル一のお題は見つけるの簡単なのでポイントも十ポイントです!でも!レベル十のお題はレアキャラ探しなのでポイントは百ポイントですよ!」

「ちょっと中見さしてもらっていいですかね~」


 コンビの片割れがレベル一のお題封筒を開け、吹き出す。


「・・・『人間』、出ました」


 会場にドッと笑いが起こる。


「レベル十は何でしょうね~」


 もう一人が封筒の中の紙を引っ張り、イヤ、コレムズいんちゃう?と叫ぶ。


「・・・『東大理Ⅲの入試問題が解ける人。実際に解いてもらいます』」


 会場にさらに大きな笑い声が響き、「いないいない!」という声があちこちから聞こえる。


「まあこんな感じで、挑戦者の皆さんはご自分のチームの成績状況も考えつつ、封筒を選んでください!」

「一度開けた封筒のお題は必ず借り人探しに行ってください。自分のチームにいなければ他所のチームから探してもいいですからね。皆さん協力し合ってくださいね、だんまりはダメですよ?可哀そうなんでね」

「もし借り人が見つからなかったらお題を交換しに戻って結構です!その時、借り人が見つからなかった封筒は運営スタッフさんにお渡しください!」

「各チーム三人、計十五人の借り人が終了したらお次はジャッジの時間です!お題に適した人をちゃんと見つけられているか、我々が合格か不合格かを判定し、合格の場合のみポイントが加算されます!」

「できる限りレベルの高いお題で借り人を見つけましょう!」


 歓声と共に最後の競技が始まり、各チームから三人の挑戦者が立ち上がる中に、奏士の姿を見つけた麻里奈。


(奏士君が挑戦者なんだ・・・ちょっと遠いけど写真撮っておくかあ~・・・)


 ヨーイ、スタート!の声と共に一斉に走り出した十五人を応援する大歓声と音楽が会場を盛り上げまくるが、被写体の奏士が動いているせいでちっともきれいに写真が撮れない麻里奈はスマホをポケットにしまい体育座りで丸くなる。


(あ~なんか疲れた・・・帰ったらシャワー浴びて寝るか・・・)


 いや、やっぱバスタブに浸かった方がいいか?と考えていた、その時だった。


「花房リーダー!!」


 目の前には、突如現れた奏士の姿。


「へ?」

「すみません、来てください!」


 奏士の手が、麻里奈の手首を掴む。


 立ち上がらされ、座って応援する参加者の中を手足を踏まないように練り歩いたと思ったら、一気に手首を引かれたまま前方目掛けて走り出す。


(え、何?!何がどうなってんの?!)


 そのままお題が置かれたテーブルまで辿り着き、転がるように座り込む二人。


 奏士は、麻里奈の手首を掴んだまま、離さなかった。

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