名前がない!
「ちょっとどういうコトよおおおお!!!!!」
出社早々、麻里奈の絶叫がフロアを駆け抜ける。
朝早く広報部から運動会参加者宛に一斉送信されたメールには、チーム分け表とプログラムが添付されていたのだが、部長を含めた麻里奈のグループが振り分けられた石葉常務チームに肝心の奏士の名前がない。
他のチーム分け表を目を皿のようにして探すと、奏士がインしているのはなんと古泉社長チームの方であった。
「た~・・・け~・・・ち~~~~!!!」
怒り心頭で蹴破った広報室のドアの向こうでは、呑気にコンビニ中華まんを頬張る武智の姿。
「テメエ何悠長に肉まんなんか食ってんだよオラァ!!話ちげーじゃねえかよクソがぁ!!!」
「うゴホっ!!」
封印していたチーマーの姿を解き放ち、武智の胸倉を掴み持ち上げ肉まんで窒息させる。
「なに・・・がっ、だよ・・・!」
「アタシのグループ全員同じチームになってねえぞ!!!」
「しただっ・・・おゲっ!」
嘔吐寸前だったので仕方なく解放すると、真っ赤な顔でゼエゼエしながら武智は反論する。
「ちゃんとオマエんトコの奴一緒になってるだろーがよ!」
「なってねえよ!片山が一人社長チームだろうがあ!」
プリントアウトしたメンバー表を見せつけると、武智は
「・・・ああ~新卒か・・・しゃーねーだろ、他の新卒が全員同じチームがいいとか言ってんだからよ」
「はあ?!」
武智いわく。
新卒女子がゴソっと参加申し込みをしたのだが、備考欄に
『新卒社員はみんなで同じチームがいいです。』
と全員で記入してきた。
さらには別の新卒男子が
『OJTの先輩と同じチームを希望』
と書き、そのOJTはOJTで
『同期と同じチーム希望』
と書いて申し込みしたという。
メンバー分けはまったく公平にシャッフルで決めようとしていたのだが、そんな希望を書かれては広報としても無視することもできず、仕方なしに参加者の希望を優先してチーム分けは行われ、特に何も記入していなかった奏士はそれに引っ張られてしまったのだ。
「同じチームにしてやんなきゃ当日ボイコットとか言い出しかねないだろー?山野部長もこれでいいって」
「いいワケないでしょ何ワガママ通してんのよ!交流イベントなのに知り合いが全員同じチームだなんて!!」
「それ人に言えたクチか・・・?」
袋の中から今度はピザまんを取り出し食べ始める武智。
「お前は自分のグループの奴一緒になってるから寂しくないだろ」
「そういう問題じゃないわよ!なんのためにこんなバカらしいイベントに参加すると思ってんのよ!!」
「バカとはなんだ!お前に愛社精神ってモンはねーのか!!」
「あるわけないでしょ、アンタいつの時代のオッサンよ!!!」
武智に見切りをつけ、麻里奈は広報室を飛び出す。
冷静を取り戻すために女子トイレに駆け込み、化粧直し用のスペースで瞑想と深呼吸を繰り返すが、しかし腹立たしさは一向に収まる気配を見せない。
「何がハラ立つってさあ!」
自分の割り振られた石葉常務チームの名簿をテーブルに叩きつける。
「片山はいる!」
”片山優美 経理部 大西グループ”。
「奏士もいる!」
”松本奏士 アートディレクショングループ”。
「しかし、片山奏士がいない!!」
わめき散らしダブルのバーボン一気飲みで大泣きする麻里奈を、アリスとオーランド様が苦笑いで見つめる。
「センスなさすぎだろ広報~~~!!!」
「広報全然悪くないでしょ、新卒なんだから運動会くらい仲良しの子がいた方がいいじゃん」
「会社でも運動会とかやるんだね~」
「なんか今結構流行ってるみたい、ウチにもそういう話あったし」
プログラムを眺める二人に麻里奈はさらにカラむ。
「しかもこの種目見た?!シッティング玉入れとか綱引きとか借り人競争とか!!全然お触り系がないの!!!」
「当たり前でしょ、このコンプラのご時世にわざわざ炎上するようなことする大企業がどこにあるのよ」
「しかもチームTシャツ配られる!!!」
「えーすごい本格的なんだね、高校の体育祭思い出すね」
「ピタT着てアタシのFカップで奏士君を悩殺する予定だったのに!!!」
「アンタみたいな遠隔セクハラ女対策でしょ」
酔った勢いでしょうもない計画を暴露し、アリスに虫を見る目で見られる麻里奈。
お代わりしたバーボンをちびちび舐めながらまたも苦労が水の泡となったことを嘆くが、オーランド様は優しく慰める。
「チーム違くても同じイベントに参加してるんだから、次の日とかにその話題で盛り上がれるじゃん」
「でも一緒に競技に出れない・・・」
「これ、席にいる時間だって結構あるんでしょ?その時に全体の写真撮ってるていで話しかけたら?」
「そうよ、みんな楽しんでるー?記録用の写真撮るよー、って」
二人にそう言われ想像してみるが、イマイチ盛り上がりに欠ける。
(やっぱご縁がないのかな・・・)
意気消沈の麻里奈と比べ、新卒社員達は楽しそうにハチマキやうちわの用意をしていく。
そして、十二月十五日、決戦の日。
麻里奈の恋が今度こそ進展する”かも”しれない、運動会当日が訪れた!!