復活開催!社内運動会
「ダルすぎっすよ・・・コレ強制っすか・・・?」
会議室の机に突っ伏す宮城の表情は死んでいる。
宮城だけでなく部の一同、お通夜の様な雰囲気を漂わせているのは言うまでもなく先日広報から送られた運動会の告知メールのせいである。
「おお~悪いな、待たせた!!」
勢いよくドアを開け部長が飛び込んでくるが、誰もが暗い顔をしている光景にギョッとし
「なんだオマエらどうしたんだよ!誰がヤラかした!!」
と叫ぶが、奏士がおずおずと開いたパソコンの画面を見せると大きくため息を吐いて席に着く。
「コレなあ~・・・ったく誰が発案したんだかなあ・・・」
部長も苦虫を嚙み潰した顔で腕を組む。
誰もが、ヤダ、出たくない、広報だけでやってろ、ポスター張り過ぎ鬱陶しい、と拒否反応を隠さない。
「時代錯誤も甚だしいよなあ~・・・死んだイベント復活させるとか」
定例会議の後、そのままみんなでランチに流れたのは会社の中では言い辛いコトを言うため。
もちろん、”社内運動会”とか言う全社総スカンのイベントの悪口である。
「ホントに嫌なんッスよ!これスルーでいいッスよね?!」
「ああ~いいぞいいぞ、聞かれても撮影の立ち合いとでも言っとけ」
「ノリ気なヤツがいないってトコがウケるよな~」
「そりゃそーだよ、あんなセクハライベント」
麻里奈を含めた中堅社員はかつて新入社員だった時分から廃止になるまで、若手という理由だけで毎年運動会に参加させられた世代である。
当時の運動会がいかに”カオス”だったかを知らない世代に語ってやると、若手達の顔色がみるみるうちに青ざめる。
「騎馬戦なんて尻とか太ももめっちゃ触られるのよ!」
「二人三脚は絶対男女だったし!」
「中間結果で下位のチームは男は裸ネクタイ、女はブルマとかあったよな」
「バブルの時なんて参加の副賞がコンドームだったんだぞ」
宮城が絶叫し、目を丸くする奏士は恐らく理解が追い付いていない。
「とにかくナイナイ!今から十二月十五日は外出の予定立てよう!」
「なんなら有休入れとけー」
おおー!と一致団結し、午後の仕事に戻るためにぞろぞろとお会計に移る。
会社ビルまでの道のりを歩きながら過去の運動会の思い出話を語り合う中堅組だったが、そういえばキャタピラ競争がきっかけで付き合って結婚したカップルがいるという話になった時、麻里奈は突如白昼夢を見た。
広い体育館。
歓声の中で進む競技はバスケ。
赤のビブスを着る自チームが対戦する相手は、青のビブスを着るよく分からないどっかのチーム。
残り時間十秒、スコアは二十対二十一、二点取らなきゃ負ける局面。
宮城が出したパスを受け取りボールを持った奏士が、屈強な黒人選手三人に囲まれ身動きが取れなくなる。
「奏士君こっちよ!」
敵を振りほどき走り出した麻里奈と目が合うと、奏士はボールを投げ、受け取った麻里奈は華麗なドリブルで敵地に切り込もうとするが、ワラワラと現れた黒人選手達が立ちはだかる。
窮地に陥った麻里奈から、ゴールまでは十メートル以上。
残り四秒、麻里奈は意を決する!
ボールが飛ぶ。
Fカップのバストが跳ねる。
麻里奈の手を離れ弧を描いたボールはそのままゴールに吸い込まれ、大歓声と共に逆転勝ちが確定する。
「ウオオオオオオ!!!!!」
「いえええええーーーーー!!!!!」
雄叫びが上がるなか、皆で抱き合う麻里奈の視界が奏士を捕らえる。
「花房リーダー!!」
「奏士君!!」
お互いに向かって走り寄り・・・
一目もはばからず抱き合いその場に倒れこむ二人・・・
(コレだああああああああああ!!!!!!!!)
落雷に打たれるが如き衝撃が麻里奈の前頭葉を刺激、今世紀最大のアイデアが浮かぶ。
オフィスに戻ると一人足早に、ある場所に向かった。