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カリスマホストの助言

 西麻布のビルの一室、アイアンで型取られた『()()』という店の表札が下げられた天然オーク材の重厚な扉を押し開けた先は、薄暗い照明の中にシックで落ち着いたバー空間が広がる。


 六人分の椅子が設置されたバーカウンターと、その後ろの壁際にはソファ席と小さなテーブルが間隔を空けて五つ並んでおり、一目でテレビ局の人間だと分かる男性二人が密談をしているのが目に入った。


「アリスちゃん久しぶり、来てくれたんだ」


 バーカウンターの中に立つのは、輝くブロンドヘアとサングラスが眩しい王子様のようないで立ちの長身の男性。


 テレビに雑誌に、見ない日はない超人気カリスマホスト、オーランド様である。


「久しぶり~!開店おめでと~!!」

「ありがと、ここ座りなよ」


 アリスがオーランド様の目の前の椅子に座り、麻里奈もその隣に座る。


「アリスちゃんのお友達も来てくれてありがとうね」

「あ~!いえいえ~!!」


 さすがの麻里奈も気の利いた言葉が出てこない。


 何せ目の前にいるのは超人気カリスマホストで実業家でもある、


 あの!


 オーランド様である。


「アリスちゃんの友達にこんな美人さんがいるなんて俺聞いてなかったけど、最近仲良くなったの?」

「ウチの会社のCM担当で~、実は大学の先輩だったの。麻里奈だよ」

「あ、はじめまして、白鷗堂の花房麻里奈と申します・・・って、なんかすみません、営業してるみたいで・・・」


 麻里奈が無意識に差し出した名刺を両手で受け取り、オーランド様は輝く笑顔で


「白鷗堂じゃ毎日激務だよね、最初は甘いのにしよっか」


 そう言い、御自らシェーカーグラスを振りアリスと麻里奈に鮮やかなルビーレッドのカクテルを差し出した。


「それじゃーあ~、オーランドの開店祝いとお、我が鳳来(ほうらい)不動産のCM好調を祝してえ~、カンパ~~~い!!!」


 上機嫌にグラスを掲げるアリスにつられて麻里奈もグラスを高く持ち上げる。


(・・・コイツ絶対二軒目だな・・・)


 すでに酔いどれの気配を漂わせ、アリスはグビグビとカクテルを飲み干す。


 しかし仕方がない。


 この、取引先であり大学の後輩にもあたる有栖川寛子(ありすがわひろこ)(三十八歳・独身)は大手不動産会社・鳳来不動産の統括部長。


 麻里奈に負けず劣らず仕事は激務、おまけに同じ会社勤務で幼馴染の相棒・ヒロが現在アメリカ駐在中で会えなくて寂しい想いをしているのだ。


「ニューヨークだから時差は十三時間でしょ~?今向こうは朝だから電話しても絶対出ないし~・・・」

「辛いねえ、電話も満足に出来ないと」

「早く帰ってこないかな~!送り出したのはアタシだけどさあ~!」


 この有栖川寛子、鳳来不動産の創業者で鳳来不動産ホールディングス会長の曾孫娘である。


 よって、鳳来不動産における大体のことはアリスの意思で動かすことができ、愛しのヒロのアメリカ駐在も本人の希望を叶えるため、アリスは涙を呑んで海外事業部への人事異動をねじ込んだのだ。


「はあ~~~!!!ヒロに会いたいよお~~~!!!」

「アリスちゃんお代わりは何がいい?」

「オススメで!」


 オーランド様は手際よく新しいカクテルを作りながらアリスの際限のない恋バナに耳を傾けていたが、


「麻里奈ちゃんも毎日大変でしょ?ここでくらい盛大にグチっていいんだよ」


 と、輝く笑顔で麻里奈を労う。


「ねえ麻里奈は最近どうなの~?」

「いや、アタシは別に・・・」

「ってことは誰かいるでしょー!」


 アリスに近郊報告を迫られるが、こんな初めて来た場所で、しかも有名人の前で、新卒ボーイに首ったけだなんてのたまう程自分は品性失くしちゃいない!


 そう思っていたのだがカクテル三杯で麻里奈は全てをゲロった。


「なんかもう泣きたい気分よ!アタシバカみたいじゃん!!漫談よ漫談!!!」

「てか新卒男子が射程圏内なんてさすが麻里奈だねえ~・・・」

「いやーいいじゃん、もっと聞かせてよ」


 アリスもオーランド様も興味津々で麻里奈の嘆きを聞き入る。


「ハートなんてアタシらの世代じゃ好きなヤツにしか送らないんだって!誤解招くんだから、こうやって!!」

「だーから、新世代男子になんて惚れるもんじゃないんだって~」

「惚れたくて惚れてんじゃないわよ!!」

「男はタメ!ぜえったいタメ!それ以外認めませえ~ん!!」


 カクテルをグビグビ吞みながらクダ巻く酔っ払いを、愉快そうに眺めるオーランド様。


「ねえ~オーランドさまあ~!二十歳年下の男子なんて望みうすい~?」

「どうかなー絶対ないわけじゃないからね」

「そうよね?!ないワケじゃないわよねえ?!」

「でもその男の子が麻里奈ちゃんのこと確実に好きでなければ麻里奈ちゃんが好きにさせるしかないよ」

「それが難しいのよお~~~!!!」


 麻里奈のあの手この手の作戦は連戦連敗、費用対効果マイナス、打つ手ナシの所まで来ているのである。


「麻里奈ちゃんのフィールドではダメだったのかあ・・・」


 オーランド様はバーカウンターの作業台に両手を付き身を乗り出すようにして考え、そして麻里奈に提案した。


「いっそ何もしなければ?」


 麻里奈は面食らい、酔いがちょいとばかし醒める。


「え、何もしなくちゃどうにもならないでしょ・・・?」

「いやさ、待てば海路の日和あり、って言うじゃん。麻里奈ちゃんの思惑で上手くいかなくても、他の人が用意した全然無関係の思惑の中だったら逆に何か変化あるかもしれないよ」

「押してダメなら引いてみろってコトねー、確かに麻里奈ってバカみたいに押しまくってそう」


 イスラエル製戦車とか言われたのを思い出し、痛いところを突かれるが、オーランド様に言われるとなんか効きそうな案である。


「分かったあ!あえて何もしない!!」

「そうだよ麻里奈ちゃん、イイ女は嘘でも余裕を醸してなきゃだよ」

「え~麻里奈にできんのお~?」


 茶々を入れるアリスを無視して、カリスマホストのアドバイスに従うことにした麻里奈。


 雑念を排し、心を無にするべく毎晩寝る前のルーティーンとして瞑想を取り入れ、あまりダラダラとオフィスに残らないよう家でできる楽しみを作るために、『進撃の巨人』を全巻大人買い。


 漫画を読み切った後は、スーパーで買ってきた野菜と鶏肉をテキトーに切って煮込むだけの鍋料理を作る。


 しかしそれだけでも案外精神の安定になり、調子に乗って手作りパンにまで挑戦し夜中に小麦粉をこねこねするとより一層気分転換になった。


(あたしに必要なのは無の境地だったのね!!)


 帰宅後の一人料理教室を楽しむうちに時間が経ち、以前ほど頭の中が奏士で埋まらなくなり始めた頃ー


 白鷗堂広報部によるイベント告知が全社員に向けて発信された。


『十八年ぶりに復活!白鷗堂・大運動会開催のお知らせ!!』

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