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新リーダーはリア充である

 花房麻里奈(はなふさまりな)(四十二歳・独身)のリアルは充実で満ちている。


 勤務先はJR新橋駅から徒歩数分、人気就職先ランキング上位の大手広告代理店・白鷗堂(はくおうどう)


 制作に携わったCMは、炭酸水から高級マンションまで数知れず。


 一緒に仕事をした有名人は、星の数。


 会食で飲んだ酒の量は、サントリー山崎蒸留所で熟成を待つウイスキーの樽の数はくだらないだろう。


 残業・徹夜・接待・海外出張が当たり前の激務の彼女を支えるのは、数多(あまた)いる”ダーリン”の存在だ。


 今日の待ち合わせ相手は金曜のダーリン、外資金融マンのヤスヒロ(四十四歳、バツイチ)。


 JR渋谷駅新南口の改札を出ると、すぐ正面に立っている長身・細身・しかし筋肉質・そしてハンサムという、おいおいそんなのマジで存在すんのかよという、女性の理想を詰め込んだような男が手を振る。


「ごめ~ん、待ったあ?」


 長い茶髪の巻き髪を揺らしながら、麻里奈が笑顔で駆け寄る。


「俺も今来たトコ。お疲れ」

「ヤスもお疲れ~!アタシもうお腹ぺこぺこよ~」

「こっち、イタリアン予約してあるから」


 高級ホテルの中のイタリアンレストランへ、腕を組んだままエスコートされる麻里奈。


 ワインリストの中から今日の気分でボトルを一本選びそれで乾杯、運ばれてくるコース料理を堪能し、食事が終わって店を出た二人は阿吽の呼吸でエレベーターホールに向かい、エレベーターの中で早速体を密着させる。


「ヤスとスるの久しぶりなのになんかそんなカンジしないわよね?」

「な。俺たち相性バツグンだかんな」

「んふふっ、どれくらいアタシのこと覚えてるかしら」


 いい歳した大人なんだから部屋の中に入るまで待ちなさいよ、と言われても聞かない勢いで互いの体をまさぐり合い、ようやく辿り着いた部屋の中央に鎮座するベッドに飛び込む。


「アタシは上と下のどっちが好きでしょう~!」

「両方だろ~」

「あっはは!正解~!」


 お熱い夜を過ごし、週末ならではの朝寝を楽しみ、ブランチをしてから解散。


 電車に揺られて帰る先は豊洲のタワーマンション、併設のスーパーで買い物をしてから部屋に上がる。


 洗濯と掃除をしてお茶で一息ついた後は周辺を軽くランニング、近所の桜の木のつぼみの膨らみ具合を確認して春の訪れを感じる。


 日曜日は大学時代からツルむ悪友その一・橘雨季(たちばなうき)(大手飲料メーカー勤務・独身)が飼い猫七匹と暮らすために間借りしている一軒家に遊びに行き、可愛い猫達とじゃれ合って過ごす。


「ああ~ん、ネオノエちゃんパピヨンちゃん!今日も可愛いでちゅねえ~!!」


 子猫の時から自分に懐く二匹を抱え床でゴロゴロし手土産の猫缶を食べさせていると、無限に分泌されるハッピーホルモン・オキシトシンが日頃の疲れを吹き飛ばしていくのを感じ、自分の生活は、この上なく完璧だと実感する。


「麻里奈ちゃーん、おばあちゃんが昇進のお祝いにすき焼き用意してくれたって」


 悪友その二・ぶりっ子の元アイドル張本梓(はりもとあずさ)(大手総合商社勤務・独身)に呼ばれたので、同じ敷地内に建つ母屋に飛んで行く。


 雨季が住む一軒家は元々家主のおばあちゃんの息子一家が住んでいたが空き家になったため、現在はご近所さんである雨季が間借りしている。


 おばあちゃんは息子家族がいない寂しさを猫の世話と、孫同然となった雨季達との交流で紛らわすことができ、雨季も格安賃料で猫達と一軒家に住めているので、これは非常にwin-winな賃貸借契約だ。


 残りの悪友・ITオタクの奥野純子(おくのじゅんこ)(システムエンジニア・独身)とグローバル才女の西谷響花(にしやひびか)(外資ローファーム勤務・バツイチ)も交え、歓声を上げながら鍋を囲む。


「麻里奈さん、昇進おめでとう、すごいわねえ」

「ありがとう~おばあちゃん~!お肉美味しい~~~!!!」

「白鷗堂ってグループリーダーが一番キツイんじゃない?」

「いやー麻里奈ちゃんなら楽勝でしょー」


 来る新年度から麻里奈は昇進し中間管理職になる。


 仕事と責任は増えるが給料も増える、麻里奈のリア充ライフはより一層キラキラ具合を増すのだ。


「まあねえ~、さっそくめんどくさい仕事がいっこ割り当てられたけど」

「なに?」

「内定者研修の監督だって。入社してからでいいのに今から研修してんのよ」

「え~三月中から研修じゃあ卒業旅行とか行けないじゃんねえ」

「ホント、こっちも年度末で忙しいのにさあ・・・」


 溶き卵にくぐらせた牛肉を頬張り、その美味しさに感激して気を取り直す。


「・・・ま、配属したら即戦力になってもらってなきゃ困るっていうのも分かるし、自分の為だと思ってムチ振るってくるわ」

「ちょっと麻里奈、お手柔らかに、だよ。最近の子はウチらと育った文化が違うんだから」


 雨季の忠告をハイハイと言って日本酒で流す。


 この時、麻里奈が心の中で


(ゆーてもダルいわ・・・)


 と、思っていたこの内定者研修の監督。


 これがのちに、麻里奈の運命を大きく変えることになるとは、本人もまだ気付いていなかった!

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