紅の少女
王宮内では不可解な病が流行っている。そんな中、隣国の病をたった一人で治したという噂の人物を探すため、王宮を出たヴィル。そこで出会ったのは初対面であるのに軽い態度で教養がない紅の髪を持つ少女だった。
「触るな!」
私は突き飛ばされ、尻もちをつく。地面に倒れた衝撃でずきずきと全身に痛みが走る。
「よかった、無事みたいだね」
急な出来事に驚いたが、どうやら私は目の前の見ず知らずの紅の髪を持つ小娘に突き飛ばされたらしい。
「ふーよかった、危ないっ危ないっ」
娘は汗を拭う仕草をする。
「いいや、何もよくはない。人を突き飛ばしておいてその態度か!?」
私は、まるで街を救ったヒーローのような娘の態度に苛立ちを隠せなかった。
「ごめん、こうでもしないと危なかったからさっ。命の恩人とでも呼んでほしいくらいだよ」
娘はそう言い、私の手を取り、立たせてくれた。
自分に非がないとでも思っているかのような軽い態度にまた苛立ちがこみあげてきた。
「さあさあ、この命の恩人に感謝しなさいっ」
「はぁ!?何を言っている?こっちは突き飛ばされたんだぞ?感謝するものか!」
「なによ偉そうに!あんた本当に死ぬところだったんだからね?」
「死ぬ!?何を言っている?まずはそっちが突き飛ばしたことを謝るべきだろ!」
初対面で人を突き飛ばしておきながら、ため口で話しかけて、おまけに命の恩人などと。なんとも教養がない小娘だな。
するとその娘は、私の顔をじっと見つめて笑顔になった。
「君、この辺の人じゃないでしょ?だからあの花を触ろうとしたのね~!」
喜怒哀楽が激しく、面倒なやつだ。
目の前の小娘は土で汚れた白色の上衣の上に赤と黒を基調にしたケープ状の羽織と赤色のスカートの民族衣装を着ている。辺りを見渡すと、みな似たような衣装の人々が行き交っているが、この者の衣装の汚れ具合に関しては周囲とはまるで違う。スカートの裾は泥遊びしたかのように汚れていて、靴は履いておらず、露になった素足も同様である。
「この辺りでこれは死の花と呼ばれていて有名なのよ」
「死ぬ!?触れただけでか…?」
「そう、美しい虹色の花びらから出る匂いで虫たちを呼び寄せて獲物を捕るの。猛毒で一瞬触れただけでも死に至るといわれているわ。こんなに美しいのに猛毒を持っているなんて信じられないでしょ?」
小娘は早口な物言いで目を輝かせている。
私はようやく突き飛ばされた理由を知り、この娘がいなかったら私は今頃、空の上だったことを考えると身震いした。とりあえず助けてくれたことに感謝するべきだろう。
「無知ですまなかった、助けてくれたこと感謝している」
「どういたしましてぇ、やったぁ、やっと認めてくれた!じゃあ、今日から私は君の命の恩人ね!」
誰かの命の恩人になったのって初めてぇと呑気にいう姿を見て、またイラっとした。この者に弱みを握られたような気がして。
「良い旅を~それじゃ!」
そう言うとこの娘は、笑顔を向けてあっという間に去ろうとする。しかし、私はその娘の腕をふいに掴んでしまう。この村にわざわざ足を運んできた理由をふと思い出したからだ。
「この辺りで病を治せる者がいると聞いたのだが、何か知らないか」
この者なら何か知っているかもしれない、直感でそう思い、聞いてみる。私はつばを飲み、神頼みするかのように娘の返答を待つ。
「えーそんなすごい人がいるのね!でもね、私はなーんにも知らないっ」
私の祈りは届くこともなく、軽い調子で答えが返ってくる。
「少しのことでもいいんだ、何か知らないか」
なんでもいい。些細な事でもいいから何か情報が欲しい。私は、とにかく必死だった。
「ただの噂なんでしょそれ、本当かどうか分からない噂を信じたの?君って面白い~!」
娘は楽しそうに話す。一瞬イラっとしたがなんとか抑えた。私以外の者がこの小娘にそう言われたらきっと掴みかかるだろう、そんなことを想像して器が大きい私でよかったな、感謝するといい、ふとそう思う。(さきほど感情的になってしまったことは除くが)
しかし、この者の言い分通り、確信なんてない噂を信じて勢いでここまでやってきてしまったことは事実なのだ。
「そうか…私にできることはやっぱりないのか…」
無能な自分にできることは何もないような気がして目に涙が浮かぶ。
「役に立てるかは分かんないけどさ、話くらいは聞けるよ」
小娘はそんな私を励ますかのように笑いかける。何も状況は変わらないと思うが、私はことの経緯を全て話すことにした。
この者と出会う数時間前…
続
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