廃坑と鉱山ゴーレム
あっという間の休日だった。PT召集の日だ。
朝食をとり、部屋で支度を済ませ、冒険者ギルドへ向かった。
丁度ギルド前で三人と鉢合わせる。
「よーし今日も頑張りますか!」俺が言うと
三人は「はい!」と元気に答えた。
「さーて今回は依頼を選ばせてもらってもいいかな?」
「リーダーにお任せします。」「いいよ~!」「承知しました。」
三人の了解を得たので掲示板に向かう。
依頼書に目を通す。ほうほう、鉱山のアルミナ鉱石回収。
面白そうだな、みんなに相談してみよう。
依頼書剥がすと三人の待機している場所へ向かった。
「こんなのがあったけど、どう思う?」俺は依頼書をみんなに見せた。
俺は口頭で説明する。
「鍛冶屋のアルミナ鉱石回収依頼。ドワーフの鍛冶職人 スティーリ・レイズハンマル氏の
依頼で、マジック効果の付いた武器防具を生成する時に使うアルミナ鉱石が切れてしまったそうだ。
そのアルミナ鉱石は以前、普通に採掘できたのだが、ゴーレムマスターの気まぐれで
様々な鉱石をゴーレム化してしまったため、鉱山は廃坑
つまり実質ドロップ品目当てのアルミナゴーレムの討伐依頼となる。
依頼はアルミナ鉱石3個。 報酬は銀貨 4 枚 1人あたり 銀貨 1 枚 乗合馬車で約半日の道のり。こんな感じだね。」
「はいはーい、しつもーん!アルミナゴーレムの弱点は何ですかー?」メディアは聞いてきた。
「わからない、ギルド嬢ならいろいろ知ってるかもしれない、とりあえず聞いてみよう。」俺が答えると。
「りょーかーい!」メディアは答えた。
三人はギルドの中入り、依頼書を掲示しつつアルミナゴーレムについて聞いてみた。
「その依頼はもう何度もあるから知ってるわよ。」と受付嬢
「是非教えてください。」俺が聞く。
「アルミナゴーレムは酸化アルミニウムを元にしたゴーレムね
物理斬撃はほぼ効かないわ。
半導体特性があるから、雷撃魔法で魔力回路がショートさせると動けなくなるわね。
炎魔法で結晶構造が脆くなり、衝撃で粉砕、こんな感じかしらね。できそう?」
「メディアちゃん、できそう?」これは完全にメディアの双肩にかかっている依頼だなと思いつつ俺が聞くと
「わかんないけど多分できると思うよー♪」との返答。大丈夫か?心配だ。
「まぁダメなら逃げればいいか。」俺が言うと
「もっと信頼してよねっ!」メディアはふくれっ面をしている。
俺は依頼書にサインをして皆でルートロック鉱山行きの乗合馬車へ向かう。
馬車へ乗ると三人は雑談をしている。
俺は馬車から見える風景をぼんやり眺めていた。
半日かけてルートロック鉱山の乗合場についた。
御者に4人分の運賃を払うと皆馬車を降りた。
4人で登山だ。暫く上ると切り立った崖にぽっかり穴が開いている。
ここが廃坑ルートロック鉱山だ。
「メディアちゃん基本ゴーレムは魔術回路だったり半導体で制御されているから
取り合えず出会ったら雷撃お願いね。あ、でもクレイゴーレムは火で硬化するから
初っ端から火でお願い。」
「りょーかい!今回はあたしの独壇場ね!」誇らしげに言う。
「頼んだよ、俺は基本的に盾役をするからね。
あとゴーレムは基本的に力が強い。負傷の可能性もあるから
ナタリーちゃん頼むよ。クリスもバフお願いね。」
「承知しました。」「お任せ下さい。」
「よし、行くぞ。」俺は先頭になってルートロック鉱山廃坑に入った。
「我らが神よ、子羊たちの行方を照らしたまえライト!ダブル!」
二つ光源がナタリーの頭上に輝く。
「いいね!以前より段違いに明るい。」そう言うと廃坑を進んでいく。
前方に黒い影、何らかのゴーレムだろう。
近づくと粘土質のゴーレム。
「クレイゴーレムだな。」俺が言うとメディアは詠唱を始める。
「炎の精霊よ!ここに集いて圧して爆ぜよ!エクスプロージョン!」
10m四方に炎が広がり爆発した。
「やるじゃん!」俺がそう言うとメディアは得意げだ。
地面にはコアが転がっている、念のために壊しておくか。
俺はコアに剣を突き立てた。
「一階だから弱いゴーレムというか多分こいつばかりだろう。」
一応慎重に進んでいこう。迷路を進んでいると通りすがら
何匹もクレイゴーレムはいた。その都度メディアが処理する。
コアは俺が破壊する。
皆の冒険証はレベル23になっていた。
下の階への階段が見えてきた。ただ、そこにはクレイゴーレムが
5匹溜まっていた。
「数の暴力という言葉もある厄介だな…」俺が言うと
「かえって好都合よ♪今使ってる魔法は範囲魔法だからね
一網打尽、むしろおいしい状況よ♪」そう言うとメディアは詠唱を始める。
「炎の精霊よ!ここに集いて圧して爆ぜよ!エクスプロージョン!」
溜まっていた5匹は爆発四散した。
レベルは全員24になった。
俺はコアを破壊しつつ「雑魚だけど経験値は美味しいな。」そう言うと
メディアは「そうでしょそうでしょ」と得意げだ。
「さて、地下二階へ降りるか。」三人は真剣な面持ちで頷く。
俺が先頭で階段を下る。暫くすると黒い影が見えた。
「さてどんなゴーレムかな?」俺は呟く。
消えた…次の瞬間俺は思いっきり頭を殴られていた。
「こいつ…早い…!」頭が衝撃でグングラン揺れる。
「リーダー!すみません!疾風の如く!その四肢に加速を!ファスト!」
「烈火の如く!その四肢に剛力を!ストリグ!」
「鋼の如く!その身に纏うは不可視の鎧!ソリド!」
クリスは慌てて俺に魔法をかける。
「速度!力!防御の魔法をかけました!」
「あぁ…ありがとう…」頭が部分的に鋭利な刃物で切り付けられたように負傷し流血する。
「我が神よ、傷つきしこの者に癒しを!ヒール!」
間髪入れずにナタリーは詠唱し俺の頭に手を置いた治癒の光が傷を癒す。
痛みは消え脳震盪もいくらかましになった。
この素早さオブシダンゴーレムだな!
「助かったよナタリー。」俺は再び剣を構える。
「メディア!雷撃だ!」俺は叫んだ。
「任せて!風の精霊よ!ここに集いて電荷分離せよ!ライトニングストライク!」
宙に現れた雷撃がオブシダンゴーレムに直撃する。
内部の微量な鉄分に反応して、動きが止まったな!
俺はオブシダンゴーレムに飛び掛かった!
「うおあぁぁ!」剣の柄を思いっきりゴーレムに叩きつけた。
オブシダンゴーレムの体はガラスのように砕け散り霧散し地面にコアが落ちた。
俺はコアに剣を突き刺する。オブシダンというのは黒曜石の事で汎用性が高い。
一応持って帰るか。破壊したコアをバックパックに詰める。
「すみませんでした、影が見えたら私はリーダーに即バフを掛けますね。」クリスは言った。
「頼んだよクリス。」そう言うと、また俺が先頭となり先へ進んだ。
途中数体のオブシダンゴーレムと遭遇したが
コツがわかってしまえば連携で楽勝だ。
迷路を進んでいくと更に下の階段が現れる。
地下三階か。情報ではここにアルミナゴーレムがいると聞いている。
「気を引き締めてゆくぞ。」
「はい!三人は気合の入った返事をした。」
「疾風の如く!その四肢に加速を!ファスト!」
「烈火の如く!その四肢に剛力を!ストリグ!」
「鋼の如く!その身に纏うは不可視の鎧!ソリド!」
会敵する前にクリスに補助魔法をかけてもらった。
三叉路を真っすぐ進もうとすると
横の道にいたアルミナゴーレムに俺は不意を突かれる。
硬く力強い腕で殴られ俺は無抵抗に壁に叩きつけられる。
「ガハッ!」血を吐いた、内臓にダメージが行ってるな。
「我が神よ、傷つきしこの者に癒しを!ヒール!」
俺に駆け寄り胸に手を置く暖かい癒しの光が俺を包む。
アルミナゴーレムは俺に駆け寄ったナタリーに狙いを定めて突進する。
「させるか!!」奴の足に剣を叩きつけ転倒させた!
「メディア!」俺は叫ぶと
「風の精霊よ!ここに集いて電荷分離せよ!ライトニングストライク!ダブル!!」
二本の雷撃がアルミナゴーレムに直撃する。
半導体特性があり、魔力回路がショートし制御不能となる。
あっちへフラフラこっちへフラフラ制御を失っている。
「炎の精霊よ!ここに集いて圧して爆ぜよ!エクスプロージョン!」
アルミナゴーレムは500度以上の熱を受けると結晶構造が脆くなり、衝撃で粉砕しやすくなる。
爆発四散してコアが地面にゴロリと転がる。俺はコアに剣を突き立てる。そしてバックパックにしまう。
「皆ありがとう、不意打ちには気を付けないとな…さらに慎重に行こう
不意打ちに気を付ければ、行ける相手だ。」俺が言う。
「あっ!みんな見てレベル上がってるよ!26になってるー!」
本当だ、経験値もおいしいなんて当たりの依頼だったな。
「よし、行くぞ!」
俺たちは慎重にアルミナゴーレムを索敵し2体を始末した。
これで依頼は完了だ。でも何となくあと2体ほど倒した方がいい。
そんな感がした。アルミナゴーレム2匹屠りコアを回収し帰途についた。
帰り道ではオブシダンゴーレム6匹(当然コアは収集)
クレイゴーレムは3体ほどだっただろうか。レベルは皆28になっていた。
ダンジョンの外は目が眩むほどの眩しさだ。
馬車に乗り、ギルドへ戻ると、受付嬢曰く
直接鍛冶屋スティーリ・レイズハンマルに届けてほしいとの事。
報酬も直接受け取りらしい。4人は鍛冶屋へ向かった。
扉を開ける。レイズハンマル氏は無言で剣を鍛えている。威圧感が半端ない。
「あ…あのギルド依頼でアルミナ鉱石お持ちしました。」
「おぉ!お前さんたちがこなしたのか?!」突然こちらを向くレイズハンマル氏
「えぇ。」
「すげぇな!まだ年端も行かないのに!驚いたぜ!」
俺はレイズハンマル氏に近づくとバックパックからアルミナ鉱石を取り出した。
「1・2・3・4・5依頼は3個だったはずだが5個もあるぞ!」
「えぇ、まぁ何というか、サービスです。へへ。」と笑う。
「それじゃ先ず報酬からだな!」銀貨を4枚手渡される
「ありがとうございます」俺は言う。
「俺は借りっぱなしってのは性に合わねんだ。」
「何か剣を鍛えてやろう。俺の作ったものは業物だぞ。」そう言うとニヤリと笑う。
「お前さん達ルートロック鉱山廃坑に行ったのか?」
「はい。」
「それじゃオブシダンゴーレムも倒したろ?」
「はい。」
「コア、オブシダン鉱石は持ち帰ったか?」
「はい、一応。」
「よし、それを出せ、業物を作ってやる。」
「え?いいのです?」
「借りは返しとかないとな!オブシダン出してみろ。」
バックパックからゴロゴロとオブシダン鉱石を出す。
「うん、こんだけありゃ行ける、ちょいと待ってな。」
カン!カン!カン!オブシダン鉱石を剣の形に整える。その際アルミナ鉱石を二個混ぜる。
黒く光を反射する剣がどんどん形を整えられていく。
「そもそもオブシダンは衝撃に弱いが。アルミナ鉱石を混ぜたオブシダンソードははな
黒曜石の分子結合を強化し極めて衝撃に強い剣となる
しかもアルミナ鉱石の特性でマジック効果がランダムにつく
これはなかなかの業物になるぜ。」
カン!カン!カン!レイズハンマル氏の額い汗がにじむ。
30分ほど待っただろうか。
「よし坊主!完成だ!俺もそんなに詳しくはないんだけれどよ。
多分付加されたマジックは二つ
一つ目は元々オブシダンは魔力伝導率が高いんだが
通常の何倍かの魔力伝導率が付与されたと見た。
エンチャント系の威力が上がるぜ!
後は切れ味も倍ぐらいになる魔法効果が付いてる。
お前さんついてるな!これ結構な値段になるぜ!
金に困ったら売ってもいいぞ、ガハハハハ!」レイズハンマル氏は豪快に笑った。
「まぁ銀貨20枚ぐらいにはなるぜ!」レイズハンマル氏はサムズアップした。
「それ…依頼料より高いじゃないですか受け取れませんよ!」俺は言う。
「ついたマジックが良かっただけだショボいマジックだったら銀貨一枚ぐらいだ。
お前さんは運がよかった。それだけだ。
それに俺は気分よく貸し借りなしにできる。もってけ!」
「そ…そうですか…お言葉に甘えます、何かありましたら、またご用命ください。」
「おう!そうするぜ!じゃあな!」
そう言うとレイズハンマル氏は、また無言で金床にハンマーを打ち付け始めた。
俺たちは1礼をすると扉を出た。
「うーんこれは問題だぞ。これだと俺だけ報酬が高くなってしまう。
売って山分けにしたほうがいいな。」俺が言うと最初にかみついたのはナタリーだった。
「その剣には、レイズハンマルさんの真心がこもっています。私は売却には反対します。」
続いてクリスティーナ
「私も売却には反対です、今後依頼で強い敵と戦うことになればアドバンテージになります。」
そしてメディア
「アルは考えすぎ!もらえるものは貰っておけばいいの!」
皆に反対されてしまった。それもでもいいのだろうか…。
「はいサッサと報酬の銀貨を一枚渡して!」メディアは言う。
同時に皆手を出す。
銀貨を一枚ずつ皆に渡す。
「本当にいいのか?」俺は再度聞くと。
「あーもう!くどい!解散!」メディアは言うと皆散り散りに帰途についた。
1人ポツンと残った俺は罪悪感でいっぱいだった、ただ3割ぐらいはワクワクしていた。
皆ありがとう。俺は恵まれているな。
俺も宿屋への帰途についた。