過去と現在
翌朝食事をとり数日分の宿賃を前払いし
宿屋の部屋で考えていた。
勇者かぁ…何でもできるということは…
逆に言えば、スキルの振り方次第で
やりようによっては何をやってもダメという事になりかねない
『十で神童、十五で才子、二十過ぎれば只の人』なんて諺もある。
それだけは避けなければならない。
お気づきかもしれないが、俺は人生二週目。記憶の範囲内ではの話。
日本という国にADHDを持つ者、団塊ジュニア世代として生まれ
悲惨な人生を送った。何をやっても上手くいかず
上の世代からも下の世代からも叩かれ奴隷というのは
ああいう状態を指すんだろう。
ただ自害直前の四半世紀は楽しかった
インターネットという技術があり
若かりし頃バカだった俺が人並みになれたのは
あれのお陰だろう。おっと話が逸れた、閑話休題と行こう。
二の轍を踏むわけにはいかない
前回とは違って今回俺に配られたカードは
ポーカーで言えばロイヤルストレートフラッシュだ。
ここは王道を征く冒険者パーティーを組むべきではなかろうか
よし!そうと決まれば行くは冒険者ギルドだ!
俺は剣とバックパックを携え部屋を出
冒険者ギルドへと向かった。
その道中ふと考えた、いや待てよレベル7って
パーティーで拾ってもらえるのか?
素質は勇者でも、内面は陰キャだぞ、そこも問題だ。
前世ではMMOで遊ぶにしても常にソロプレイだった。
1人でレベル上げ、そこそこ美味しいレアを狙いつつポーションがぶ飲みで
ソロでダンジョンにこもっていた。
一方コミュ力強者は弱い段階からPTを組み
俺がソロでプチレア拾っている頃には
レイドボスを共闘で倒し特級レアで荒稼ぎをしていた。
今回俺はコミュ強側を目指さなければならない。
と考えている間に冒険者ギルドに着いた。
ギルドの受付にPTメンバー募集を聞いてみた。
「坊やPT希望なの?」ギルドの受付嬢が聞いてくる
そうだ、失念していた俺は合計すると60歳になるジジイだが
この世界ではまだ10歳だ。
「えぇ、まぁその同じレベルの人たちがいればと…」
その後はテンパってて、何を言ったのか詳しく覚えてない。
「あら!あなた勇者じゃないのー!きっと希望したら入れてもらえるわよ♪
というか、あなたリーダーになってPT結成した方が良くないかしら?」
受付嬢は言う。
確かに勇者と言えばリーダーのイメージがある。
言うても俺はそういう器ではない
コミュ障リーダーの組織とか考えただけでも頭痛が痛い。
「いえリーダーとか無理なので、応募の形でお願いします。」
俺は言った。
「そう?じゃあ募集掲示板に張り出しておくわね!」
受付嬢は言ってくれた。
その日は、それでギルドを後にして俺は墓場に行き
『ダンスウイズスケルトン』というわけで
スケルトン狩りで金を稼いだ。ドロップの骨を換金すると
銅貨600枚になった。悪くない。
その足で宿屋へ戻り部屋のシャワーで
死臭にまみれた体を洗い流し。水も滴るいいコミュ障よろしく
一階でディナーをとって部屋に戻った。
夜の帳は下りていて、部屋のランプには淡い光がゆらゆら燃えている。
今回の俺はこれでいいんだよな?自問自答しながら眠りに落ちた。
(時間経過)
翌朝支度をして冒険者ギルドへ向かう。
『はーい二人一組になってー』前世先生の嫌な言葉が脳裏に甦る
冒険者ギルドの扉を開け真っすぐ受付カウンターへ向かった。
「昨日パーティー加入希望で申請しましたアルトゥールです。
どんな状況でしょうか?」
「あなた引っ張りだこよ!現在12PTから採用希望が来てるわ!」
受付嬢は言った。
才能という配られたカードでこんなに差が出るのか…
複雑な気持ちを抱えつつ、採用希望PTの自己紹介に目を通した
昨日で俺のレベルは10になっていた。
ちょっと待て、平均レベル50のPTから誘いがある
PT内で倒した敵の経験値は幅10のレベル帯でしか
公平に経験値は入らない。
となると育成して戦力しようという事なのだろう。
だがしかし俺は借りを作るのが嫌な性分なんだよな。
そういうのを除いて経験値が公平に入るPTを選んだら3つに絞られた
パーティー名一つ目 † 邪眼を封じし者達 †
うん。この世界にもダガーとかあるんだな。
同じ転生者とか転移者か?そこはかとなく中二病の気配を感じる。
パーティー名二つ目 卍 俺たち世界最強 卍
卍もあるのか…(困惑)
馬は合いそうだが、絶対めんどくさいやつらだな。お断りだ。
最後は…と 輝く希望 か
ほーいいじゃないか、こういうのでいいんだよこういうので。
えーPT構成は、錬金呪術師LV7・魔術師LV8・神術師LV5か
うん、丁度前衛が居なくて募集してた感じかな。ここにしよう。
「PT『輝く希望』への加入を希望したいのですが。」俺が言うと。
「丁度あの待合室にいる、3人が『輝く希望』メンバーですよ。」
そう言って受付嬢が掌を向けた先にいたのは
同い年ぐらいの女の子3人だった。
おいおいおいおい、前世ならケモバニアファミリーとかで
遊んでるレベルの子達だぞ!冒険者とかマジか!
「『輝く希望』のみんなー勇者さん加入希望ですってー!」
受付嬢は『輝く希望』メンバーに促す。
3人はすぐに立って、こちらへ向かって来た。
「初めまして!私は錬金呪術師クリスティーナです!」
「勇者様、私は魔術師メディアです。よろしくお願いします。」
「お初にお目にかかります、神術師ナタリーといいます。お見知りおきを。」
矢継ぎ早に自己紹介されたものの、俺は三次元女は苦手だ。
イエスロリータノータッチ。ロリコンであることは認めよう。
だがそれは二次元に限った事で三次元はストライクゾーンから大きく離れた暴投ボールだ。
思案していると。俺の自己紹介を爛々とした眼差しで三人は待っている。
「俺の名はアルトゥール。勇者だ。アルと読んでもらって構わない。」
キャーという3人女の子の黄色い声。
前世では味わった事のない。変な気分だがこれはこれで心地いい。
暫く三人で相談して、ナタリーは言った。
「勇者様と言えば当然リーダーになって頂きたいのですが。これは三人の総意です。」
残り二人は頷く。
「うーん、でも俺は後から入った身だし、リーダーってどうなの?」
俺が問うと。また三人で相談している。女って年齢問わず内緒話好きだよなぁそう思っていると。
「やっぱり一番頼もしく見えるのはアル様です。ぜひともお願いします。」
残り二人も頭を下げる。
んーどうすんだよ俺…これ陰キャの俺がプロジェクトリーダー任されてるようなもんだぞ。
ええんか?でも頭下げられてるしなぁ。
不適正だったら代わってもらえばいいし、とりあえずやっとくか…。
「わかった、気は進まないが、最善を尽くしてみる。」俺が言うと。
三人は手を取り合って喜んでいる。こういうのを見ると年相応だなと実感する。
「それでは歓迎会をしましょう!」クリスティーナは言った。
「私たち行きつけの、お店があるんです。行きましょうアル様。」
メディアは言った。
「えーと様付けは何かこうしっくりこないのでやめてくれないかな?」
俺は言った。
また三人で話し合っている。
「それではアルさんでいいでしょうか?」ナタリーは言う。
「それが妥当かな。よろしく頼むね。みんなニックネームとかないの?」
「私はクリスで。」錬金呪術師クリスティーナは言った。
「私は略称はいらないと思います。」魔術師メディアは言う。
「私も短いですからね。」神術師ナタリーは言った。
一通り自己紹介が終わると三人贔屓の店へランチを食べに行く事となった。
食事をとりながら皆の、もう少し詳しい自己紹介があった。
「君たちのお奨めなだけあるね美味しかったよ!」
礼を言うと皆は嬉しそうだった。
カウンターに会計に行くと「銅貨8枚になります。」と店員は言った。
「丁度一人銅貨2枚ですね」ナタリーは言った。
「ん?、俺が払うよ。」俺は銅貨を8枚テーブルに置いた。
「いけません!そういうのは、きっちりしないとだめです!」
ナタリーは少し語気を荒げて言った。
「じゃあリーダー命令。今回は俺の奢り。そのかわり今度奢ってよ。」
そう言うと渋々承諾したようだ。リーダー命令だからな。
三人とも頭を下げて「ごちそうさまでした。」と俺に言った。
良い子達じゃないか。このPTならやっていけそうな気がするわ。
「それじゃ今日は顔合わせって事で、明日から活動する?」聞いてみた。
「はい!」三人は返事をした。
「じゃ今日は解散、明日の朝、冒険者ギルドで落ち合おう。」
そう言って解散した。
前衛1人となると、攻撃は俺に集中するか。革鎧ぐらい購入しておくか。
その足で武器防具屋へ向かった。
「へいらっしゃい!おっ!君、先日の坊やだね。稼いでるかい?」
「まぁぼちぼちですね。軽い革鎧あります?」
「あぁさっき丁度冒険者が軽量化の魔法のかかった革鎧を売りにきた。
これだよ手に取ってみるかい?」店主はカウンターに置いた。
確かに軽い、全部手に取ってみても紙ぐらいの重さしか感じない。
コンコンと叩いてみると、ちゃんと革の感触がある。
「親父さん、剣も鉄より強いのある?」と聞いた。
「鋼の剣かねぇ。価格は銅貨200枚、鎧は銅貨800枚」
しめて銀貨一枚だね。持ってるのかい?」
「あぁ、ちょっとしたレアを拾ったからね。」テーブルに銀貨を一枚置いた。
「やるねぇ!毎度あり!ここで身に着けてゆくかい?」
「そうするかな。ちなみに鉄の剣の下取りとかはあるの?」聞くと。
「銅貨5枚ならいいよ。」と言うので、腰から鉄の剣を抜き取り銅貨5枚を貰った。
ベルトには鋼の剣を挿し革鎧を着てみる。
以前のような旅人の服のような柔軟性はないものの
軽くていい感じだ。
「親父さんありがとう。また機会があったら買いに来るよ。」
そう言うと「贔屓にしてくれるとありがたいね!」そう店主は言った。
宿に帰ると夕方には少し早い時間だったが、シャワーを浴び
椅子に座って寛いだ。何か思ったのと色々違ったけど、なるようになるか。
そう思い目を瞑っていると少し寝ていたようだ。
一階に食事をとりに行き、部屋に戻った。
さぁ明日から『輝く希望』での活動だ。
期待半分不安半分を胸に抱きながら眠りについた。