勇者VS勇者 後編
翌朝、昨日用意した装備を整えナタリー邸へ向かう。
ナタリーの家につくと外に立っていたのは
スラっとしていて、かわいらしくも品があり凛とした女性が立っていた。
「貴方が娘パーティーのリーダーアルトゥールさんですか?」と問われ
「はい、そうです。」と答えると
「アナスタシア・アイアンウッドと申します、いつも娘がお世話になっているようで
有難う御座います。さぁ中へお入りください。皆揃っています。」
「あっ、はい、お邪魔致します。」そう言って俺は玄関に通された。
アナスタシアさんはナタリーの面影がある。正確に言えば反対なのだが。
ナタリー母親ガチャSSRやん!と思いつつ客間へ入る。
「よく来たね、おはようアルトゥール君。」ギデオンさんは言う。
「おはようございます!」三人とも集まっている。
メディアは他所のお宅だとちゃんと礼儀よく挨拶するんだな。
「皆さん、よろしくお願いします。」俺は頭を下げる。
「みんな準備はいいか?」ギデオンさんの問いに皆はいと答えた。
「よし、では出発するぞ!」一行は乗合馬車乗り場へを向かう。
ギデオン夫妻が先頭で俺達は後をついて行く
これだけは絶対譲れないとギデオンさんは有無を言わさず条件とした
一行は乗合馬車に乗り勇者の遺跡へと向かう。
ナタリーから話は聞いているだろうが、道中三人はギデオン夫妻に
『輝く希望』の活動を話していた。ギデオンさんはそうかそうかと
笑顔で頷きながら聞き。奥さんは優しい笑顔で皆の話を聞いていた。
こうして傍から見ていると、子供の友達たちとの和やかな団らんだけれど
俺の感は今回の件は厄介だと警鐘を鳴らしていた。
乗合馬車を降りると周辺は森だった。
ギデオン夫妻を先頭に皆で森の奥へと入って行く。
30分ほど歩いただろうか。右手に森の切れ目があり
開けた場所にミニピラミッドのような建物があった
頂上部分には人影が見える。
「待て。」とギデオン氏は言うと腕を横に伸ばし皆を制止した。
ギデオン氏は盾を構え剣の柄に手をかけた。
大声が聞こえる
「僕の名前は勇者エルヴァイン!
察するに君たちの目的は調査なんだろう?
近くに来て話そうじゃないか!違うのなら立ち去るがいい!」
人影はそう言うと頂上部に座った。
「よし近づくぞ、だが警戒を解くな…」
そう言うとギデオン夫妻は警戒しながらゆっくりと遺跡に近づく。
俺達も警戒しながら後をついて行く。
ミニピラミッドの端に着くと
ガゴン!ガゴン!ガゴン!と、どういった仕組みかわからないが
石段は沈んで行き平らな石畳になった。
宛らまるで決闘場のようだ。
「まだ話がし難い距離だね、もう少し近づいてくれないか?」
勇者エルヴァインは少し大きめの声で言った。
「俺から離れるな。」ギデオン氏はそう言うと
石畳に乗り、じりじりと距離を詰める、俺達も同様だ。
「よし、この距離なら話ができるね。」
勇者エルヴァインは、そう言うとギデオン氏は近づくのをやめた。
ギデオン氏は盾を構え剣の柄に手をかけ警戒を怠らないでいる。
「何故封印が解けている。」ギデオン氏が問う。
「うん、侵入者がいてね、どうやら全ての結界を解いてくれたみたいだ。
ちなみにその侵入者は僕の封印されていた地下室で倒れているよ。
でも息の根はちゃんと止めておいたから、何か聞こうと思っても
何も聞けないだろうね。」そう言うと、おどけて見せた。
「何故お前はそこから動かない。目的は何だ?」ギデオン氏は尚問う。
「うーん動かないというよりこの小さな遺跡の範囲から出ようとしても
出られないんだ。目的は侵入者の排除だろうね。」勇者エルヴァインは答える。
「何故他人事のように言う。」ギデオン氏は問う。
「僕にはちゃんと意思がある。だけど何者かの支配下に置かれている。
そういう見解だね。だから僕にもよくわからない。」
「では、我々はこのまま王都へ報告に戻ってよいか?」ギデオン氏は問う。
「残念♪君たちは既に、この遺跡に侵入してきた侵入者だ。
排除しないといけないからね。」そう言うと勇者エルヴァインは詠唱の為口を開く。
「最後の審判を告げる雷鳴よ…冥府の鎖を断ち…剣となれ…」
「これは…いかん!!アナスタシア!!」ギデオンは叫ぶ!
「我らが神よ、神威の御盾を我らに宿し給え!ディヴァイン・レジスト!ディカプル!!」
呼応するようにアナスタシアさんは呪文を詠唱。
メンバー全てを淡く青い光が包み込む。
「もう魔法の事は気にしなくてよいです。」アナスタシアさんは言った。
「アポカリプス・レクイエム!!」
勇者エルヴァインが詠唱を終えると
剣の形を成したエネルギーの塊が中空に現れ、パーティーに降り注ぐ!
剣状のエネルギーの雨が降り注ぐ中ギデオン氏は叫んだ!
「王者の咆哮!!!!ウオオオオオオオオ!!!!!」
全身に必勝の機運が満ちて行く。士気を高めるスキルか!
そう思う間に次々と二人はバフを掛ける。
「聖盾の審判!!」
ギデオン氏は盾を掲げ叫ぶ。
「我らが神よ、聖なる恩寵を我らに与え給え!ブレッシング!!ディカプル!!」
アナスタシアさんが唱えると、とんでもなく体中に力が満ちてくる。
その瞬間勇者エルヴァインの唱えた呪文
アポカリプス・レクイエムの剣状のエネルギーの雨が皆に降り注ぐ
剣のようなエネルギー塊が体に突き刺さると思い体をこわばらせた瞬間
青い光に吸収され剣状のエネルギーの塊は消える。
理解不能だが今確かに凄い事が起こっている!
「覇断の剣!!!」ギデオン氏は叫ぶと
詠唱後無防備な勇者に一撃を喰らわす!
勇者は盾と鎧を破壊され後方に吹き飛ぶ!
が、ズザザザザ…と片膝をついた状態で耐えつつゆっくり立ち上がる。
勇者エルヴァインの胸にはザックリとギデオンの剣戟痕が残り
そこから血が大量に流出している。傍から見ても結構な致命傷だ。
「我らが神よ、傷つきしこの者に癒しを、ヒール、クインティプル」
流れるような詠唱と共に勇者エルヴァインは片手を胸に当てると緑色の光と共に
胸の傷はみるみる塞がり衣服だけが切られたような状態に戻った。
「なかなかやるねぇ、おじさん。肺が抉られてたら僕の負けだったよ。」
勇者エルヴァインは軽口を叩きながら剣を構える。
「面倒くさいやつだな。」ギデオンは言うと。
「この代償は高くつくよおじさん!」エルヴァインは跳躍し
ギデオンに斬りかかる。
ギデオンは勇者の剣戟を盾で受け流しながら時に剣で打ち合う。
金属音が辺りに響き渡る。
「何をしているの!あなた達も加勢を!」
アナスタシアさんの声で4人は我に返る。
皆レベルの違いすぎる戦闘に呆気に取られていたのだ。
俺は勇者の後ろへ回り込み、背後から攻撃をしようと試みる。
が、勇者はステップを踏むようにギデオンと打ち合いながら
俺を背後には回らせてくれない。
「クソッ!」
俺は仕方なく横から勇者に斬りかかる。
俺も連撃を繰り返すが、本命のギデオンと打ち合いながら
俺の攻撃はついでに躱しているというありさま。
「うん、一人を相手に複数人で束になってかかってくる
こういう卑怯な感じ僕は嫌いじゃないなぁ勇者としての血が滾るからね!」
ギデオンと俺と打ち合いつつエルヴァインはそう言い放つと
地面を蹴り後方へと距離をとる。
エルヴァインはスッと先ほどとは違う態勢で剣を構える。
「何か来るぞ!気をつけろ!」ギデオンは叫ぶ!
「卑怯者にはお仕置きだね!ストームブレイド・レクイエム!!」
と言うと同時に剣を振るう度に無数の風の刃が嵐のようにPTを襲う。
まるで空間が震えているようだ俺は思った。
ギデオン夫妻にケガはないが
俺は防御態勢をとっていたものの
俺達4人は風の刃に切り裂かれ血だらけになっていた。
でも、風の刃の勢いの割には死なずに済んでいる。
恐らく盾を掲げた時のギデオンの使用した仲間を守るスキルのお陰だろう
しかしながら俺達4人皆致命傷だ。床に血だまりを作る。
「天なる父よ、大天使ラファエルの加護を授けたまえ!アーケリシアヒール!ディカプル!!」
アナスタシアさんは、まるで神への讃美歌を歌うように詠唱をする。
すると全員を眩い緑の光が包み込み俺達の受けた致命傷は完全に回復していた。
凄すぎる!宮廷神官の力量はこれほどなのか!
ギデオンはエルヴァインとの間合いを詰め剣を打ち込む。
当然俺も参戦だ。
「やれやれ、面倒くさいのは、どっちだろうねぇ。」
またしても軽口を叩きながらエルヴァインは俺達と剣戟を交わす。
「だが、お前に後ろはないぞ!」ギデオンは言う。
その通りだ、エルヴァインは自ら遺跡というか石畳の端に身を置いたのだ。
「それならこうすればいい。」エルヴァインは跳躍した。
いや、跳んだというか飛んだと表現したほうがいいだろうか
そして剣を振り上げ自由落下を始める。
エルヴァインの先にいるのは…アナスタシアさんと後衛三人組だ。
「させるかッ!!」
ギデオンは石畳を蹴る。その威力で石畳が部分的に砕ける。
エルヴァインが弧を描くような軌道だとしたら
ギデオンのそれは、ほぼ直線
ガギインッ!!
ギデオンはエルヴァインを盾で激しく殴りつけ地面に叩き落とす!
「勇者とは名ばかりの卑怯者めッ!!」ギデオンは吠える!
「カハッ!」地面にバウンドしたエルヴァインは態勢を整え跳躍し元の位置に戻った。
口元からは血が垂れている。
「我らが神よ、傷つきしこの者に癒しを、ヒール、クインティプル」
エルヴァインは自分に回復魔法をかける。
「内臓をやりに来るとは、なかなかどうして。」
エルヴァインは口元の血を自分の袖で拭いながら言う。
「どうやら魔法結界も張っているようだけど
要はそれを貫ける威力の魔法を打ち出せばいい事だよね?
1人ずつ片付けさせてもらうよ。
おじさん、あんたの盾も楽々貫くレベルの魔法だ覚悟した方がいいね。
さぁ祈りの時間だ僕が神の元へ君たちを届けてあげるよ♪」
ギデオンは俺達の前に立つ。
「そうはさせん!!」ギデオンは身を挺するつもりだ。
俺はギデオン氏に耳打ちをする。
「考えがあります。任せてください。」
そう言うと俺はギデオン氏の前に立ち
オブシダンソードの切っ先をエルヴァインに向け構える。
「おいおい、いったい何の冗談かな?
君が何とか出来るものだと思ってるのかい?」
笑いながらエルヴァインは言う。
「物は試しって言葉があるだろ?やってみなければわからないぞ
卑怯者の勇者さんよ。」俺はエルヴァインを煽る。
エルヴァインの笑みが消えスッと真顔になる。
「雑魚が。そんなに死にたいか。決めたぞ、お前から始末してやろう。」
「沈黙せよ、刹那に宿る星の衝動!ノヴァ・インパルス!」
エルヴァインが手をかざすと、一瞬空気が静まり
音もなく直径20cmほどの青白い球体が現れる。
圧縮された魔力の塊は無音で俺目がけて射出された。
超速度だ。剣を構えてなければ死んでていただろう
オブシダンソードは、切っ先から、その魔力塊を吸収し刀身は青白い光を放っている。
予想だにしない状況にエルヴァインに一瞬の隙が生まれた。
俺は跳躍しオブシダンソードに湛えられた青白い魔力の塊を
近距離でエルヴァインの胸へ向かって剣を薙ぎ払うようにして放出した!
「魔法を宣言したのは間違いだったな。雑魚に倒されるってどんな気持ちだ?」
「お…ま…」胸部が消失したエルヴァインは倒れ動かなくなった。
エルヴァインの血によって形成された血だまりが石畳に広がってゆく。
エルヴァインの胸を貫通した青白い魔力の塊は
そのまま直線状に森の木々を貫き100メートルほどの先の地点で消失した。
終わったな…そう思っていると
胸元の冒険者証が光っている。レベルの数値は67になっている。
エッグ!どんだけの経験値なんだよエルヴァイン!
振り返ると3人の冒険証も光っている。
一応止めを刺した俺に経験値が入ってきたようで
恐らくメンバー三人ともに経験値が入り、同じ数値になっているだろう。
呆気に取られているギデオン氏は、ハッと正気に戻り。
アナスタシアさんを呼び一緒になってエルヴァインの生死を確認する。
「確実に事切れています。」アナスタシアさんが言うと
「やるではないかッ!!私は君を侮っていた!!気に入ったぞ!!ガッハッハ」
ギデオン氏は俺を強くハグしながら豪快に笑った。
まぁオブシダンソードのお陰なんだけどね。
「本当に。アルトゥールさんは機転が利く方ですね。
私も今後娘を安心して託す事ができますわ。」
アナスタシアさんは微笑みながら俺に言った。
何だ?俺はナタリーと結婚でもすることになるのか?
少し困惑しながら、そのままハグされていた。
帰りの乗合馬車の中、三人はギデオン夫妻の実力について
あれこれ聞いていた。
まぁあれだけ凄いと聞きたいよな、俺だって聞きたい。
俺は馬車の外を眺めながら、話の方に耳を欹てていた。
ナタリーの家に着くと、アナスタシアさんは御飯を振舞うと言って
台所へ向かった。
ギデオン氏は奥から冒険者カードを二枚持ってきた。
三人が先ほど馬車の中で見せてと言ってたものだ。
「これが私たちの冒険者時代だった頃使っていた冒険者証だ。」
一枚はパラディンLV156、一枚は上級司祭LV145となっている。
そりゃ納得だわ。夫妻ともに文字通りレベルが桁違いじゃないか…
話によると退役俸禄も少ないので子供を持つため
冒険者登録をし二人でPTを組んで冒険者として稼いでいたらしい。
時にはギデオン氏だけ他PTに入って依頼をこなしていたこともあり
レベルに差があるのは、そういう事だそうだ。
生まれてくるナタリーのために必要な金銭を稼いでいたわけだ。
その頃の冒険者証だという。
三人ともスゴーイ!と声を上げている。
ナタリーは親本人達から何も聞いてなかったのか?
俺も心ではスゲーと思っているが、口に出すのは何なので黙っていた。
「いやーそれにしても意外だった!アルトゥール君!
本当にすまない今日まで私は君を疑い侮っていた!
だが今日の肝の座った戦いを見て私は君が気に入った!!」
俺はギデオン氏に両肩を掴まれながら揺さぶられている。
「ハハ…ありがとうございます光栄です。」
まぁオブシダンソードのお陰なんですけどね。
「これで娘を本当の意味で安心して任せられる!
今後とも娘ナタリーをよろしく頼む!」
二度目だけどこれはナタリーとの縁談かなにかか?
そうして、皆で食卓を囲みアナスタシアさんの料理に舌鼓を打った。
翌日ギデオン氏は王都へ報告に行き、事の次第を理解した王は
ギデオン氏を労い金貨40枚を褒賞として渡された。
その金貨は後にギデオン氏たっての願いで
金貨10枚ずつ俺達の懐に入った。
裏設定
戦闘前の『輝く希望』メンバーは皆レベル28。
勇者エルヴァインのレベルは83です。