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10/17

月夜の晩に。

俺たちは、今は朽ちた地上の遺跡の一角にいる。

日も沈み、すっかり暗くなっている。辺りを照らしているのは満月。

対峙するは、『輝く希望』メンバーと幽霊PT御一行様だ。

「あんた達だな?満月の夜に、ここで冒険者を襲っているのは。」

俺は問いかけた。

「何だ。まだ子供ではないか。」

兜だけつけていないフルプレートの亡霊騎士は頭に直接響くような声で語る。

「これを見ても、まだそんな言葉が言えるかな?」

俺は首からかかっている冒険証を亡霊騎士に見えるように見せる。

「なんだそれは?知らんな。」亡霊騎士は言う。

なるほど、冒険者ギルドが出来る前の世代の冒険者達か

それとも冒険者証が発行される前の冒険者達か。

何れにしても遺跡に出現している辺り、相当古い冒険者たちなのかもしれない。

「これは冒険者証といって冒険者が集まるギルドに登録すると発行される証明書。

まぁ色々機能はあるんだけど今話したいのはそこじゃないから端折るぜ。

数字が出ているだろ、これはレベルなんだが一般的には

レベル=同等の年齢の経験者と考えるのが妥当だそうだ。」

冒険者ギルドの受付嬢の受け売りだ。

「28か…ただの子供達ではないようだな。」騎士の亡霊は言う。

「そういう事だ。相手に不足はないだろ?討伐させてもらうぜ!」

俺はそう言うと鞘からオブシダンソードを抜き構える。

「そうか、我が名はアルタイル。

そして我らがパーティールミナスがお相手しよう!」

そう言うとカシュッと金属が擦れる音と共に剣を抜く。

亡霊だから楽に倒せるだろうと思ったが

実体化しているのか面倒だな。

「疾風の如く!その四肢に加速を!ファスト!」

「烈火の如く!その四肢に剛力を!ストリグ!」

クリスは俺にバフをかける。

「其は難攻不落!顕現するは不可視の要塞!ソリディネイト!」

PT全体の防御力強化だっけ、効果時間は最初よりは長くなったと言ってたが

そう長くはもたないらしい。

短期決戦だな。ザッ!俺は跳躍し前方へ回転する力を加え

騎士の頭上に剣を振り下ろした!

騎士は俺の剣戟を受け止めるよう剣で頭上の守りを固める

ガッ!キィン!!剣と剣がぶつかり音がする。

剣は折れた。騎士の。

アルタイルという騎士は俺の斬撃を受け頭から真っ二つになり霧散した。

俺はオブシダンソードを確認する。刃こぼれ一つない。

流石レイズハンマル氏お手製のマジックソードだ。

ドスッ!!突如、俺の右肩に矢が刺さる。

「グッ…」油断した。そりゃそうだPT戦だからな。

「お前…余裕か?私の名はシリウス、狩人だ!お前を狩らせてもらうぞ!」

そう言うと二の矢を番えながら素早いステップを踏むように

こちらに狙いを定めさせないよう動き回る。まさにハンターだな。

「炎の精霊よ!ここに集いて圧して爆ぜよ!エクスプロージョン!」メディアは唱えた。

いい判断だメディア。範囲魔法ならどうかな?

「どうよ!」とメディアが言い放ちドヤ顔を決める頃には

炎と爆風に巻き込まれたシリウスという狩人は霧散していた。

黒い影が現れ、メディアに突進する!

俺は地面を蹴って跳躍しその間に割り込む!

ガキィン!!

「くっ!」剣で防いだため右肩に刺さったままの矢傷に痛みが走る。

「私はっ…!またっ…!守れなかった!!」影の正体は分かった

「お前…さっき…屠ったろっ!アルタイルッ!!」ギィン!!

痛みに耐えつつ相手の剣を払う、アルタイルは後へ飛び退く。

「我が神よ、傷つきしこの者に癒しを…」ナタリーの詠唱が聞こえた。

急いで俺は肩に刺さっている矢を引き抜く!

「ぬぐあっ!!!」矢じりには返しがあるため、とてつもなく痛い。

「ヒール!!」詠唱が終わりナタリーは俺の肩に手を当てると

緑の柔らかな光が肩を包み痛みは消え傷も塞がる。

「正々堂々がモットーの騎士様が復活して早々後衛を狙ってくるとは何事だ!

恥を知れっ!」

剣を構え直し俺は言う。

「私は仲間を守るためなら…何でもするっ!!」

そう言ってアルタイルは何度も打ちかかってくる。

ギィン!!ガギィン!!ガァン!キィン!!

鬼のような形相で剣戟を交わす

さっきより確実に強くなってるだろこいつ…!

ガキィン!!俺は剣を薙ぎ払うとアルタイルとの距離が開く。

「そろそろ、私の出番かしらぁ。私の名前はデネブよ、よろしくネ♪」

後方にいた女魔術師だ横には女僧侶もいる

構えた杖の先には仄かな炎が灯る

それは段々大きくなり青白い大きな火球となった。

あれは相当やばそうだ。

チッ…しかもアンデッドだから詠唱無しか…!

「さよぉならぁ坊やたち。」デネブはそう言うと

俺達目がけて火球を飛ばしてきた。

クリスティーナ、メディア、ナタリーは恐怖で動けなくなっている。

「魔力伝導率が高いって事はだなぁ……」俺は青白い火球に切っ先を向ける。

デネブの魔法は俺のオブシダンソードに青白い光を湛えたまま留まり

俺はそれを受け流すように三人を気遣いながら魔法の勢いのまま後方へ薙ぎ払う。

「こういう事だよなぁ!!」

青色い火球は剣から抜け出し後方の遺跡に着弾すると

数メートル範囲を跡形もなく蒸発させた。

俺は素早く駆け出しデネブを袈裟切りにする。

「悪く思わないでくれ、あんたヤバいからなデネブさん。」

「あらぁ、あなたも、よく見るといい男ねぇ…」

そう言い残すとデネブは霧散した。

「貴様ァァァァ!!!!!!!」そう言うとアルタイルは

狂人のような形相でこちらに向かってくる。

俺はデネブの横にいた女僧侶の首に剣を当てる。

「いいのか?アルタイル

お前そこから一歩でも動いたら、この女僧侶の首斬るぞ」

「アァァァァアアァアァアァァア!!!!!!!!」

憤死しそうな勢いでアルタイルは雄たけびを上げる

こちらへ向かおうとする自分を必死に押し留めているように見える。

「なぁアルタイルお前の気持ち…なんとなく分かるよ…

俺がお前の立場だったら多分同じだ。」

「アァァァァアアァアァアァァア!!!!!!!!」

「聞こえてないか…。」雄たけびを上げているアルタイルは

哀れで見ていられない。

守りたいものを守れないってそういう事だからな…。

剣を首につきつけられている女僧侶は気丈にも語り始めた。

「私はアクルックス。ルミナスの僧侶です。

アルタイル…もうやめましょう…

私たちは貴方を怨んでなんていない

そんな貴方をほっておけなくて

満月の夜こうして貴方の元に皆来てるのよ。」

悲しそうな顔でアルタイルを見つめるアクルックス。

「ァァァァぁぁ…。」アルタイルは正気に戻っていく。

アルタイルは語り始める。

「私達はこの遺跡で魔物達に壁際に追い詰められた。

私はルミナスメンバーの盾となり魔物に抵抗した。

が…私はあいつらを倒せなかった。

魔物達に倒された私が、かすれ行く意識の端に見たものは

ルミナスのメンバーが次々に魔物に惨殺される姿だった。

私は私を怨んだ…ルミナスのメンバーを守れなかった私を怨んだっ!

私は怨念となりこの地に縛りついたっ!

あの日と同じ満月の夜、私はここに足を踏み入れるもの全てを

排除してきたっ!君達を守るためにっ!」

アルタイルは両の拳で地面を悔しそうに何度も叩きながら告白した。

チャキッ…俺はアクルックスの首元から剣を下ろし、鞘にしまった。

「アルタイル、あなたがここに縛られている限り

私達もここに居なければならない

だって貴方を一人にできないから…。」

アクルックスは目を伏せた。

「私の…私のせいなのか…皆を苦しめ続けているのは…」

アルタイルは言う。アクルックスは首を振る。

「私達は誰一人として貴方を怨んでなんかいないわ

皆、貴方が貴方を許してあげる事を望んでいるだけ。

アルタイル…皆と共にあるべき場所へ行きましょう。」

優しい顔でアクルックスはアルタイルに近寄り手を差し伸べた。

その瞬間シリウスとデネブも現れアクルックスに手を重ねる。二人とも微笑んでいる。

「私は…私はっ…!

みんなっ…みんな…すまなかった…ありがとう…ありがとう…」

何度もアルタイルは繰り返し言いながら

涙で顔をくしゃくしゃにして仲間の手を握り返した。

月の光に照らされて4人は徐々に光の粒子となり

月明かりの光源へ消え去った。

「終わったな…。さぁみんな帰ろうか。」

三人は黙って頷いた。逆光でよく見えなかったが皆目を擦っていた。

俺は三人が付いてきてるのを気配で確認しつつも

三人の方を振り返らないようにして町へ帰った。

その足でギルドへ事の顛末を報告した。

ギルドは2か月間満月の夜の遺跡を夜通し見張り

異常がなくなったことを確認し

その後俺たちに報酬は支払われた。

それ以来、その遺跡でルミナスメンバーを目撃した者はいなかった。

気が付けば俺達の冒険者証の数字は32になっていた。

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