転生貴族の選択
「今までお疲れ様でした」
気がつくと、真っ白な空間の中、神々しい光を放つ女性の前におり、話しかけられていた。
「いきなりごめんなさいね、私はあなたにとても感謝してるの、だがら最後に一つくらい望みを叶えてあげようと思ったの」
ようやっと、ぼやけていた頭が透き通っていく。
『最後』
そう、私は死んだはずなのだ、最後というのだからそれはそうなのだが、それならば死人に望みを聞くなど、なんとも残酷なことをしてくれる。
「無いのならそれでもいい、でも思い出してみて、何かはあったんじゃない」
私は貴族の家に生まれた、貴族とはいえ、私の家は他の貴族と比べても貧しく、贅沢など許される環境ではなかった。
私はあの家に、女として生を受けた時から、望みなど持ってはいけないと教えられた。
今にして思えば、政治の道具として使われることになる自分を本当に思った言葉だったかもしれないが、今となってはもうどうでもいい。
そう、過去を思い返していると、ある一つの、何度も繰り返した思いが頭に浮かんだ。
「そういえば、誰もいない場所で、静かに暮らしていたいと思ったことがあります」
もし、あそこから逃げ出せたなら、そう考えない日はなかった。
まぁ逃げることはできたとしても、自分ひとりで生きていくことなんてとてもじゃないができないのだが。
「じゃあ、それを叶えてあげる、生きていられるように、物質具現化スキルを追加してあげる」
え、ちょっとまって。そう言おうとした時にはもう遅かった。
その瞬間にはもう、どこともわからぬ森の中にいたのだから。
やけに木がでかい、というか地面が近い、もしかして背が縮んでいるのだろうか、そう考えていると手の中に鏡が出現した。
見た目だけは、生前使用していたものと全く同じだ。
確かあの人は物質具現化といっていただろうか、想像するだけで様々なものがどこからともなく現れる。
能力に驚きつつも、鏡の中の自分を見る。
これが私?
そう思うほどに、生前の姿からかけ離れている。背も140cmほどで、黒髪の、柄も何も無い質素な服に身をまとった幼女がそこにはいた。
私がこのくらいの年齢のときだって、こんな見た目ではなかった、あの人は私のために新しい体を作ってくれたのだろうか、本当になんでここまで良くしてくれるのだろうか。
しかし、こんな事を考えていても意味はない、早急に夜を凌ぐ準備をしなければ。
家、と言っていいのかわからないが、幼少期にスラム街で見たテントを参考にさせてもらった。
私だって初めは普通の家をつくろうとしていた、していたのだが木々のせいでうまく具現化できず、途中で木材へと変化してしまったのだ。
火を炊き、食事の用意をする、能力で作り出した食料が食べれられるのか不安なところもあったが、さすがは具現化能力、想像通りの味だった。
今日は死んだり、いきなり知らない場所でサバイバルが始まったりと色々あって疲れていたのもあり、すぐに眠りにつくことにした。
虫の声、そしてたまに動物の遠吠えが聞こえてくる、こういうところは貴族だったせいか、かなり心細い。
土臭いし、地面に布を敷いただけでのせいで硬い。
眠れる気がしないなぁ、こういうところは早めに変えていきたいな、もう自由に生きれるんだし。
日が出始めて、目を覚ます、寝れないかと思っていたがいつのまにか眠ってしまっていたらしい。
ベットから降りよう、と思い足を伸ばす。
うわっ。
床、というか地面に足をぶつけた、いや、足を下に下げることすらできなかった。
例えるなら階段で後1段あると思っていたら無かった時のような感じだ、こういう時のこの感覚、なんと言えば良いのだろうか。
そう、寝起きとはいえ自分が床で寝ていることは分かっていたはずだ、それなのにこれとは日々の習慣とは恐ろしい。
しかし、目が覚めたときに誰もいないというのは、新鮮だ。
簡単な食事を済ませ、外に出る。
外はまだ霧が濃く、不気味な雰囲気を醸し出している。
今夜は快適な睡眠をとりたい、そのためにもまずは家だ、安心して暮らせるような家がほしい。
昨日は木々のせいで出せなかったが、逆に言えばそれらがなくなりさえすれば家が出せるのだ、ならばその木々を切り倒せばいいじゃない。
具現化能力でおのを取り出し、満身の力を込めて木に叩きつける。
ジーンと手にしびれが走る、結構痛い、それにおのは数ミリしか切れていない、この分だと目標の面積を確保するのに日が暮れてしまいそうだ。しかし、いまの私のより良い生活を求める卑しい心をなめるなよ。
結局私は、その日1日中斧を振り続けた、この日も地面の上で寝ることになったのだが。
目を覚ますと同時に体中に強い痛みを感じた、そう筋肉痛である。薄々こうなるとは思っていたが、まさか1日で来るとは思わなかった。
しかしこれは、若さを実感できて、少しうれしい。
というかこれ、どうすれば良いのかな。
眼の前には、昨日切り倒した木々が転がっていた、転がせばいけると思っていたのだが結局微動だにしなかった。
これが昨日も家を具現化できなかった理由である。
あの時は1日中斧を振り続けていたせいで動かせなかったのかとも思ったが、全然そんなことはなく、全く動く気がしなかった。
というか、モノを生み出せるならモノを消すこともできるのではないか?
具現化という名前からしておそらく無理だと思うのだが、ダメもとで念じてみた、それはもう必至に、天に拝むように。
次に目を開けると、目を疑うような光景が広がっていた、私が切った木がすべて消え失せていたのだ。
あの人は物質具現化能力と言ったがこれができるのならもっと名前を変えていてほしかった。
そうして、ここに来て3日にしてようやっとちゃんとした家を得ることができたのだった、あのころ城の中から見ていた、一般的な家だ。
中身はよくわからなかったので城と同じような内装にしてみたのだが、まぁ一般的な家とそこまで変わりは無いだろう。
久々のベットの上に寝転がり、寝始める、まだ日は高くなんなら起きたばかりであるが、流石に疲れが溜まっていたのか、すぐに寝てしまった。
そういえば、テント生活のときにもなんでベットだけでも出さなかったのだろうか、テントとはいえベットを置くことくらいはできる、もしベットをおいていたのならもっと簡単にことがすんだかもしれないのに。
それから数日の間、家の中で本を読んだり、周囲を探索する毎日を送った。
そんなある日のことだった、いつも道理に森を探索している途中のことである。
生き物だろうか、なにかが動いている音がかすかに聞こえる、風が吹いていないのに葉のなる音が一直線に動いてきているのだ。
身を低くして、見つからないように後退していたときだった。
「ミカ、やっと見つけた」
見つかってしまった、というか目があった。
20代後半くらいの女性は、そう言って抱きしめてきた、何やら言葉にならない声を上げながら涙を流している。
てっきり動物やら魔物やらかと思っていた、この姿になって初めて人とあったが、まさかこんな反応をされるとは思わなかった。
ミカと言っていたが、私ににた人間でもいるのだろうか。
女性におぶられて、どこかに足早に連れて行かれる。
もしかすると、この人が住んでいる集落でもあるのだろうか、そう思い無抵抗でいる、もし危険だと分かれば具現化能力で刃物でも作れば良いのだし。
半時間くらいして、森から抜けると、複数の家々や一面に広がる田んぼが見えてきた、家に入り、女性が私をベットの上に寝かせる。
「森深くまで入っちゃいけないって言ってたじゃない、森の中には危険な動物もたくさんいるのよ」
涙目の女性は、そう言いながらまたも抱きしめてくる、枕元に置かれている写真立てには自分と全く同じ顔の少女が、満面の笑みを浮かべている写真が入っている。
急に胸が苦しくなる。
「でも、生きててよかった、疲れたでしょ、ご飯にしましょ」
そう言って、女性はどこかに行ってしまった、おそらく食料を取りに行ったのだろう。
私は再び写真へと目を向ける、何度見てもやはり私と同じ顔、もしかすると私はこの子供の身体を乗っ取っているのだろうか。
私の勝手な願いのせいで、彼女はどうなったのだろう。
「あなたの代わりとして死んだことになりましたよ」
気がつけばまた、真っ白い世界にいた、眼の前にはまた、神々しい光を放つ女性が立っていた。
「すみません、何とも合わないように結界を貼っていたのですが、あの女性に突破されてしまって、あなたの願いを叶えられなくて、ごめんなさい」
そんなことはどうでもいいい、今の私には聞きたいことがあるのだ。
「ミカさんはどうなったのですか」
もしかしたら、私と同じように誰かの体に入っているのなら良いのだが。
「違いますよ、あなたも本当は分かってるんでしょ、あなたの代わりに死にました」
頭が真っ白になる、本当に私の代わりに死んでしまったのか。
「死んだらどうなるんですか」
「どうしてそんなにミカに負い目を感じているのですか? あなたは今から自由に生きれるじゃないですか」
「質問に答えてください」
「あなたも分かっているのではないですか、人を生き返らせるんだったらそれなりの代償が必要でしょ、 あなたのその能力と同じですよ」
「能力? どういうことですか」
「説明してませんでしたっけ、物を作り出すのにどこかの魔素を使っているんですよ、使うたびに何処かでは大なり小なり異常現象がおこってますよ」
よく見るとそう言う女性の顔は薄ら笑いを浮かべていた、もしかすると楽しんでいるのだろうか。
結界を抜けられたというのも、もしかするとわざとなのだろうか。
「お詫びとしてもう一つだけ願いを叶えてあげましょう」
「それって、ミカさんを生き返らせるとかってできますか」
私にとってそれは救いだ、あんなこと願わなければよかった、あのまま死を受け入れていればこんなことにはならなかったのに。
「できますけど、代わりに誰かを殺すことになりますよ、それでも良いですか」
そうだろう、そしてその犠牲に選ばれるべきは当然私だろう。
しかし、はたから見た自分はどれだけ滑稽なのだろうか、あんな願いをしたくせに、その願いを無にきそうとしているのだ。
でも、そんな中でも別の思いが自分にもあった。死にたくない。
「それで、願いは何?」
「それはもちろん・・・」
そうして、真っ白い世界から徐々に色が戻っていく、眼の前には母親がおり、私の名前をよんでいる
読んでいただき、ありがとうございます。
差し出がましいとは思いますが、感想をいただけたら幸いです、特に批評をしていただけると嬉しいです




