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彼女の大ピンチ

 自動販売機の前で伊那に絡んでいるナンパ男は悠馬を更にチャラくしたような印象で、若干チーマーかチンピラにも見える。ド派手な金髪にサングラスを掛けて伊那に馴れ馴れしく話し掛けているようだ。伊那は必死に断って逃げようとしているが、ナンパ男は伊那の反応が面白いらしく何度もその行く手を遮っている。



「やめてください!友達がいるんです!」

「いいじゃん、ちょっとお茶くらいさ。友達だって多少は待ってくれるだろ?」

「嫌です!あっちに行ってください!人を呼びますよ?」

「ヘッヘッヘ、そんなこと言って。本当は俺と一緒に遊びたいんじゃないのぉ?」



 これは…由々しき事態だ。ナンパ男は確実に伊那にすり寄ってきており、最悪の場合何処かに連れて行かれる危険がある。誰かが止めに入ってほしい所だが、あいにく近くに警備員らしき人はいない。ナンパ男を注意しようとする人もいるにはいるが、ナンパ男が眼光鋭く睨み付けると怖気づいてしまっている。


 早く助けに行かないと…。僕はジェットコースターで酔ったことなどスッカリ忘れて立ち上がっていた。足は恐怖で震えているが、そんなことを気にしている場合ではない。

 誰かの助けが必要だ。僕は気を落ち着かせて杏奈と悠馬へケータイからメッセージを送ると再度伊那の方を見た。幸い伊那とナンパ男は自動販売機の前から移動していない。



「とにかくやめてください!」

「へっ、随分と強情だなぁ。しょうがねぇな、手荒な真似はしたくないけど悪く思うなよ。たっぷり可愛がってやるからよ」



 ナンパ男がそう言うと伊那の手首を無理やり掴んだ。掴まれた拍子に伊那の手から僕の頼んだオレンジジュースが落ちる。これを見た瞬間、僕の中の理性が吹っ飛んだ。



「やめろ!!!」



 自分でも信じられないような大声を出すと、僕は一目散に伊那とナンパ男の元へ向かった。そして伊那の手首を掴むナンパ男を振り払った。邪魔が入られたことでナンパ男の表情が激しく歪む。



「凡太君!?」

「あんだぁ~?ゴラァ!!このもやし野郎が!ナンパの邪魔してんじゃねえよ!」

「彼女に、手を…出すな」

「ああん!?聞こえねえなぁ??あんだってぇ?」

「彼女に手を出すな!このチンピラ!!」



 恐らく過去一の大声を出した気がする。真近くで叫んだせいかナンパ男は驚いて耳を塞いだ。一方で伊那は呆然として腰を抜かしたようにその場へしゃがみ込んでしまった。



「くぅ~…うるせぇな!!もやし野郎!てめえ、この女の何なんだ?」

「僕の彼女だ」

「は??」

「僕の彼女に手を出すな!」

「………ぶ。ぶひゃひゃひゃ!!彼氏だぁ???このもやし野郎がぁ??冗談にも程があるぜぇ!?」



 ナンパ男が明らかに僕をバカにしたように笑う。余りにも下品な笑いに怒りが込み上げてくるが、とにかく今は伊那を守ることが最優先だ。



「とにかくあっちに行ってくれ。これ以上彼女に関わると只じゃ置かないぞ」

「ああん??誰に向かって口聞いてるんだ、ゴラァ!!」

「やめて!!」



 激昂したナンパ男は僕の胸倉を掴むと、間髪入れず顔面に右ストレートを放った。痛みよりも先に来た衝撃で僕は遥か後方へ吹き飛ばされる。口の中が切れたのか、血の味がする。そして同時に向こうから伊那の悲痛な叫び声が聞こえた。



「凡太君!!」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ、もやし野郎!」

「お客様、何をしてらっしゃるんですか?」

「ああん??………えっ……ええっ?!」



 僕を殴ったナンパ男が振り返ると、いつの間にか警備員の制服を着た屈強な男が三人立っていた。事態を把握したナンパ男は一瞬で我に返る。顔面蒼白になりながら、「いや、あの、これは…その…」と必死に弁明しようとするが、ナンパ男はあっという間に警備員らに取り囲まれた。



「他のお客様のご迷惑になります。それに暴行を加えられていたようなので急ぎ通報させていただきました」

「つ、つ、通報……?」

「詳しくは警備室にて聞かせてもらいます。ご同行いただけますね?」

「は、は、…はい……」



 先ほどまでの威勢は何処へやら。ナンパ男は借りてきた猫のごとく大人しくなり、警備員らに連行されていった。どうやら一件落着なのか…?するともう一人別の警備員が此方へやって来た。



「大丈夫ですか?応急処置にはなりますが、すぐに救護室へ案内します」

「あ、ありがとうございます…」

「貴女も怪我はありませんか?」

「えっ……はい。私は大丈夫です。でも、でも彼が……」

「…僕のことは気にしないで。とにかく朝戸さんが無事で良かった。危なかったね」

「う……うん」



 伊那が目に涙を溜めながら頷く。僕は殴られて腫れ上がった頰を押さえつつ、伊那の肩を借りて警備員と共に救護室へ向かうことにした。救護室へ向かう間、伊那はずっと泣きながら僕に謝り続けていた。



「凡太、イナ!!大丈夫か??」

「ゴメン!警備員を呼んでいたら来るのが遅れて!」



 救護室で手当てを受けていると、息を切らせながら杏奈と悠馬が飛び込んできた。二人とも僕のメッセージを見て行動してくれたらしい。警備員を呼んでくれたのは杏奈のようだった。二人は僕の顔を改めて見てショックを受けている。悠馬は暴行を止められなかった自責の念とナンパ男への怒りからブルブルと震えていた。



「申し訳ない、凡太。お前に頼まれてナンパ野郎の証拠を残そうと動画モードでカメラを回していたら、ちょうど凡太が殴られる決定的瞬間を撮っちまった。本当は加勢すべきだったな」



 悠馬は申し訳なさそうに撮影した映像を僕に隠れて見せる。映像には正に僕が殴られるまでの一部始終がしっかりと収められていた。ちなみに僕だけに見せたのは伊那が見るにはショックが大き過ぎるとの判断だ。現に未だ泣き続ける伊那を杏奈が懸命に慰めている。



「これ証拠に出来るんじゃないかな?さっきのナンパ男、のらりくらりとはぐらかしてるみたいだし。警察に提出すれば逮捕できると思うけど」

「えっ、でもこれ買ったばかりのメモリ…」

「悠馬!!凡太は伊那を守るために犠牲になったんだぞ!友達としてしてやれることがあるだろ!」



 僕と杏奈に諭されて結局、悠馬は先の映像を警察へ証拠として提出することにした。後で聞くところによると、その映像が決定打となってナンパ男は逮捕されたらしい。これで本当に一件落着………とはいかないようだ。



「とりあえず良かった、朝戸さんも無事で……」

「ん、凡太??」

「お、おい!どうした凡太?」

「凡太君!!」



 スッカリ安心しきった僕は手当てを受けている最中に緊張の糸が切れて気を失ってしまった。周りの三人が慌てて僕に呼び掛ける声が何処か遠くで聞こえる気がした。

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