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僕の大ピンチ

 ファーストフード店でのやり取りから一週間後の土曜日。僕と伊那、そして杏奈と悠馬の四人はダブルデートを行う為に遊園地の入場ゲートに集合していた。


 杏奈は動きやすく無駄の少ないスタイリッシュでシックな装い。杏奈とは対照的に悠馬は髪型をオールバックして見た目の派手なシャツとパンツを着用。元々チャラいイメージだが、それを具現化したような姿だ。そして首からは自前のデジタルカメラをぶら下げている。


 一方伊那は長めの栗色の髪をポニーテールにして、服装は全体的に淡いピンク色にまとめたお嬢様スタイル、それでいて園内を歩き回れるように違和感のないスニーカーを履いていた。


 そして肝心の僕なのだが…少しよれよれのポロシャツにダメージジーンズ、そして薄汚れたようなスニーカーと、この三人の中では完全に浮いた存在になっている。そもそもデートなんぞした経験がほぼないからファッション自体どうしていいのか分からない。

 一応ネットで調べてはみたもののデートに見合う服が家にある訳がなく、それなりの服を買うとなればデートの前に相当な金額を費やす羽目になる。やむを得ず普段着よりは少しマシ程度の服装にしたのだが、きらびやかな伊那の横に並ぶと益々ミジメだ。


 初っ端からテンションの低い僕を尻目に三人は楽しげにどこのアトラクションから周ろうか相談している。個人的に絶叫系は苦手なので勘弁してほしいところだが。



「よし!最初はジャイアントジェットコースターで、次はフリーフォール。その次は回転系を挟んで…お化け屋敷にも行こうか!」

「いいね、絶叫系連発!テンション上がるなー」

「うん、私も今日楽しみにしてたんだ!」



 うわぁ、マジかよ…。三人は遊園地内の地図を見ながらノリノリで話し合っている。僕が口を挟む間もなく、三人は最初のアトラクションへと足を進めた。慌てて僕が後を追うと、伊那が立ち止まって僕を待ってくれていた。



「凡太君、大丈夫?結構広いからハグレないようにね」

「あ、ありがとう」

「じゃ、皆で乗ろうか!」



 ニッコリと笑う伊那を本当に久しぶりに間近で見て、僕は照れ臭さの余りそっぽを向きそうになる。こういうことを誰これ関係なく普通に言えるんだよな。サッと手を出す伊那に対してドキッとしつつ、恐る恐る彼女の手を僕は取った。気づくと先の方で杏奈と悠馬が此方を見てニヤニヤ笑っているのが見える。……むう何なのだ、この辱めは。


 気を取り直して皆でジャイアントジェットコースターに乗ることになった。前の座席に杏奈と悠馬のペア、後ろの座席に僕と伊那のペアで決定したのだが、僕の心は伊那の隣に座れることの喜びよりもジェットコースターへの恐怖の方が勝っていた。震える体を抑えながら何とか平常心を保とうとするが、いかんせん端から見たら不自然でしかない。



「大丈夫か、凡太?無理にアタシ達に合わせなくていいんだぞ」

「い、いや…大丈夫…たぶん」

「凡太君、顔色悪いけど…」

「気にしないで朝戸さん。せっかく来たんだから楽しもうよ」



 僕は空気を読んで無理やりにでもテンションを上げようとする。具合の悪そうな僕を気遣う女性陣に対して、悠馬はというとカメラ片手に道行く女の子たちを撮影していた。このエロ大名が、後で覚えていろよ。と思っていたら頰を膨らせた杏奈が悠馬の耳を引っ張って此方に引きずってきた。



「いででで!!」

「ちょっとはアンタも凡太を心配しなよ」

「うう…せっかくシャッターチャンス…」

「…………後でアンタの好きなポーズで幾らでも撮らせてあげるよ」



 杏奈が悠馬の耳元でボソッと呟くと、悠馬は顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。やはりこの二人、この前からおかしい。といえ、このまま伊那にカッコ悪い所を見られたくない。



「大丈夫!!行こうか!」

「えっ、いいの?」

「大丈夫大丈夫!さあさあ時間が限られてるから早く早く!」



 僕は意を決してジェットコースターへ乗り込むことにした。伊那と杏奈は心配していたが、なあにほんの数分のことだ。数分我慢すればいい話なんだ。一方で前を見ると悠馬が未だ顔を赤らめてボンヤリしている。全く持っていい気なもんだ。とにかく腹は決まった。さあジェットコースターだろうが何だろうが、どんと来い!


 …………………………………………



「大丈夫?凡太君」

「…………だ、だ、大丈夫……」



 気づけば僕はベンチに持たれ掛かりながら伊那から介抱を受けていた。顔面は蒼白で吐き気がする。下手に体を動かすと中から込み上がってくる。さすがに最悪の事態だけは避けたいところだ。なお杏奈と悠馬もしばらく僕らと一緒に居たが、僕の回復を待っていたら時間がもったいないということで先に行かせた次第だ。



「何か飲み物買ってこようか?」

「う、うん…ゴメンお願い」

「コーラ?ジュース?」

「……オレンジジュースで」

「分かった、待ってて!」



 伊那が先の自動販売機へと駆け出す。何というか情けない限りだ。今日はまるでいいところがない。これではリベンジどころか恥の上塗りではないか。杏奈よ、やはりこれはお節介というよりも余計なお世話だったよ。


 ふぅ、やはり断るべきだったか。何か理由をかこつけて早めに帰ろうかな。僕がボンヤリと考えていたとき、「やめてください!」という伊那の叫び声が聞こえてきた。ハッとして叫び声の方向を向くと、伊那がいかにもなガラの悪いナンパ男に絡まれているのが目に飛び込んできた。

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