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僕が彼女を避ける理由

 次の日から僕にとって地獄のような日々が始まった。教室に入るとクラスの男子や女子に囲まれた伊那の姿を嫌でも目にするようになったからである。


 伊那は自身の容姿や人当たりの良さから瞬く間にクラスの人気者となった。そしてそれと共に…例の仕草や甘ったるい言動がかつての僕と同じく「自分のことを好きなのでは?」と錯覚させるらしく、いつの間にかクラス中の男子を虜にしていた。しかも伊那自身は無自覚なのだから始末に悪い。


 一方で何故女子に囲まれているかというと腹の探り合いの意味もあるが、一番の理由は杏奈の存在だった。先にも言ったかもしれないが、性格的にイケメンで姉御肌の杏奈はクラスの女子から絶大な人気を得ている。その杏奈と幼馴染であり、親友でもある伊那に取り入ることであわよくば杏奈とも仲良くなろうという魂胆があるようだ。最も腹の中は伊那への嫉妬で煮えくり返ってるかもしれないが。


 伊那を巡って変わりゆくクラスの中で僕だけが一人、彼女を避けるように過ごしていた。まるで最初から彼女がいないかのように僕は日々を淡々と過ごすことを心掛けた。のだが…。



「おーい、凡太。皆で帰ろうぜ」



 杏奈が例によって下校の際に僕に話し掛ける。無論、その横には伊那がいた。…どうしてこうなる。


 正直放っといてほしいのだが、杏奈からすれば僕が必要以上に伊那を避けているのが不思議でしょうがないらしい。確かに杏奈の気持ちも分からなくはないのだが、余計なお世話とも言いづらい。仕方なく僕は伊那の顔をあまり見ないようにして一緒に帰ることにした。



「…でさ、部活の顧問がさ…」

「フフフ、そうなんだ。いいなー、アンちゃんの部活楽しそうだな」

「イナもやりなよ。うちはいつでも大歓迎だよ」

「うーん、でも運動神経悪いからな」



 杏奈と伊那が他愛もない会話をする横で、僕は適当に相づちを打ちながら早く家に着くことを考えていた。ほんの数十分の距離のはずなのに何倍にも長く感じる。杏奈が居なければ相当気まずいだろう。



「ところで凡太君の部活はどうなの?」

「ふぇっ!??」



 ボンヤリしていたら急に伊那から話を振られ、僕は恐ろしく間抜けな声を挙げてしまった。僕のリアクションに杏奈が笑いを堪えている。しまった、完全に我関せずを通していて油断していた。興味深そうに僕を見る伊那に対してどう返事して良いのか。シドロモドロになる様は悠馬と変わらないではないか。



「えっ、えっと…何というか。杏奈の部活に比べると地味というか…」

「ええー、気になるなぁ」

「えっと、その…」

「凡太は写真部だよ」

「写真部?」



 見かねた杏奈が僕に助け舟を出してきた。いくら覚えられていないとはいえ、幼馴染相手にシドロモドロになる僕が情けなく見えたのだろう。



「基本的には撮影メインの部活だよ。文化系だけど、大会の撮影係も兼ねてるから意外とうちらと付き合いがあるんだ」

「へー、そうなんだぁ」

「う、うん。そう…」



 言葉に詰まる僕の代わりに杏奈が伊那へ丁寧に説明している。自分のことのはずなのに、今の僕にはまるで他人事にしか感じられない。しばらく歩いていると分かれ道に着いた。此処でやっと伊那とはお別れだ。



「じゃあ、また明日ね。バイバイ、アンちゃん。凡太君」

「おう、またな」

「さ、さよなら」



 伊那は手を振って嬉しそうにスキップしながら去っていく。僕らはしばらく手を振っていたが、伊那が曲がり角で見えなくなった途端に杏奈が突然、僕の肩に右手を回してきた。恐る恐る横を向くと杏奈が凄むような表情を見せている。これではまるで尋問のようだ。



「なあ…凡太。イナが来てから何か変だぞ?」

「そ、そう?」

「何でそんなによそよそしいんだ?いくら覚えられていなくても露骨に避ける必要はないだろ」

「そりゃ、そうだけど…」

「イナと何があった?」



 杏奈が核心を突くように僕へ矢継ぎ早に質問をぶつける。杏奈には告げるべきか?しかし杏奈の性格上、伊那に告白の件を確認するのではなかろうか。適当にごまかすか?いや、此処まで来てしまっては逆効果になるだろう。とすれば…



「一つ引っ掛かってることがある」

「えっ…何?」

「こないだエロ大名が言ってたことだ。凡太、あの時エロ大名に何か言わせまいと一緒に逃げただろ?」



 杏奈が更に僕へ詰め寄る。此処まで察しがいいとは…。もはやバレるのは時間の問題か。



「そ、それは。違うんだ。伊那は悪くない、僕が勝手に逃げただけで…」

「………もしかしてイナに振られたことがあるのか?」

「ぐはああぁ!!」



 杏奈の言葉に僕は生気が抜けていく感覚を覚えた。ついに観念した僕はずっと秘密にしていたトラウマの過去を杏奈へ打ち明けることにした。

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