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僕の大ショック

「おーい、凡太。一緒に帰ろうぜ」



 僕が下駄箱で靴を履き替えていると、杏奈が声を掛けてきた。そういえば今日は部活動は休みなので皆一斉下校である。杏奈と一緒に帰るのは久しぶりかもしれない。僕は「もちろん」と杏奈に返す。


 ちなみに杏奈は陸上部に所属しており所謂エースだ。対照的に僕はというと、文化系の部活動に属する写真部に所属している。基本的には各々で活動する、比較的ゆるめの部活なので群れるのが苦手な僕の性分には合っていた。

 ただ高校総体や地区大会などのイベントには撮影係として漏れなく呼ばれる為、意外と体育会系との繋がりは強い。杏奈のいる陸上部の大会も何度か足を運んで彼女や他の部員の活躍をカメラに収めていた。ただし僕の腕前がよろしくないせいか、あんまり広報で写真が採用されたことがないのが悲しいところだ。



「おーい、待ってくれ!!俺も俺も!」



 不意に杏奈の背後から男子生徒が声を掛けてきた。男子生徒は全力疾走してきたのか、息を切らせて顔中から汗が吹き出ている。杏奈は男子生徒の姿を見て、あからさまに面倒臭そうな表情を見せた。



「アンタも一緒に帰るの?良いから先に帰ってよ」

「ええー…つれないじゃん。凡太からも日暮に一緒に帰ろうって言ってくれよ」

「何で僕が。勝手にやって来たのは悠馬ゆうまの方だろ」

「ひどい、ひどいわ!友達だと思っていたのに」



 男子生徒が白々しく泣く真似をする。それを見て僕と杏奈は呆れる素振りを見せたが、すぐに無視して帰ることにした。男子生徒は慌てて僕らの後を追いかけて来る。


 男子生徒の名は友原悠馬ともはらゆうま。僕とクラスは違うが、同じ中学校出身で同じく写真部に所属している。見た目はチャラいが、中身もチャラく撮影係で遠征する際はいつも女子生徒の写真ばかりを(若干盗撮まがいのことをしながら)撮影していた。その結果付いたあだ名が「エロ大名」である。本人曰くそれなら「エロ将軍」にしてほしいとのことだが、「エロ」が付くのは構わないのか…。



「で、何でエロ大名は付いてくるんだ?」

「いやいや、俺も同じ帰り道だから…」

「悠馬の家は逆方向だろ?」

「…!!ま、まあいいじゃないか。たまには寄り道して一緒に帰るのもさ」

「…何を企んでるんだ?エロ大名」



 杏奈の鋭いツッコミに悠馬がシドロモドロになる。どうやら僕らに付いてくるのには裏の目的があるようだ。ということは…。



「もしかしてうちのクラスに来た転校生、朝戸さんのことか?」

「ブッ!!ど、ど、ど、どうしてそれを??!」

「何て分かりやすいエロ大名だ…」

「い、いやぁ…俺としてはだなー。その、クラスも違って面識がなかったとはいえだね、元々は同じ中学だったしー。まあ積もる話もあるんだけどさー、あんまり接点がないから話し掛けられないんだよねー。でも君らだったらさー、何か朝戸さんと知り合いみたいだしー?もしかしたら俺も知り合いになれるチャンスがあるかなーっと思ってさ」



 悠馬の狙いはやはり伊那だったか。全く持って呆れた「エロ大名」である。僕と杏奈はシンクロするように盛大な溜め息をついた。僕らをダシにするつもりか、この男は。そうこうしていると後ろから杏奈を呼ぶ涼やかな可愛らしい女子の声が聞こえてきた。僕らは一斉に振り返る。



「アンちゃーん、一緒に帰ろう」



 伊那が手を振りながら駆けてきた。杏奈はニッコリ笑って伊那に手を振り返し、悠馬は顔を真赤にしながら小さく手を挙げている。そして僕はどうリアクションしていいのか分からず、とりあえず笑顔を作ろうと顔を引きつらせたまま固まっていた。三者三様のリアクションを見た伊那が怪訝な表情を見せる。



「あれ?皆と一緒に帰ってるの?」

「うん。約一名は違うけどな」

「えっ…俺のこと?」

「他に誰がいるんだ?このエロ大名」

「やめて!今、そのあだ名で呼ぶのは!」



 杏奈と悠馬のやり取りを伊那はクスクス笑いながら微笑ましく見ていた。そんな伊那の横顔を見た僕の中に中学自時代と変わらない彼女の表情への安堵と共に、当時のトラウマが蘇り出す。しかしながらこのまま黙っているのも不自然だ。僕は意を決して伊那に話し掛けることにした。



「あ、あの…」

「あ、ごめんなさい。確か初めましてですね。朝戸伊那です」

「えっ…!!??」



 僕に向かって恭しく頭を下げる彼女からの予期せぬ言葉に僕の思考は完全に停止した。

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