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彼女の墓穴

 此処は何処だろう。頭がボンヤリとする。それに右の頰が熱く痛い。触れてみるとガーゼのようなものが貼られているようだ。視界には真っ白な天井のようなものが見える。もう少し落ち着けば何があったのか分かる気がするが…。



「…はい、大丈夫です。先生にも診てもらいました。少し疲れていたみたいで眠っているようです。ウチラはさっきまで警察に説明していました。並野君のお母さんにも連絡して来てもらっています。はい、分かりました。休み明けに改めて今回のことを説明します」



 ん?何処からか女性の声が聞こえる。声の感じから若い女性のようだ。誰かと電話で話しているらしい。確か聞いたことのある声だが…すると、奥の方からパタパタと駆けてくる足音が聞こえた。



「アンちゃん!」

「イナ、もういいのか?」

「うん、こっちはもう大丈夫。……ボンちゃんは?」

「うーん、まだ寝てる。凡太のお母さんとは話したのか?」

「うん。ボンちゃんのおばさん、すごく謝ってた。本当に謝らないといけないのは私の方なのに」



 女性二人が会話しており、一人のすすり泣く声がする。僕はゆっくりと声のする方向に首を傾けた。白いカーテンがベッドの周りを覆うように掛かっていて、二つの人影しか認識できない。だが、この声には確かに聞き覚えがある。頭がボンヤリしながらもカーテンの向こうの人影に気づかれないように僕は静かに聞き耳を立てた。



「ボンちゃんは気づいたのかな?」

「いや、まだ気づいてはいないみたいだ。それとなくアタシの方からプランを振って、改めて再構築できるようにしたつもりなんだけど…とんだ結果になってゴメン」

「ううん、アンちゃんは悪くない。私が回りくどい真似をしたのが全ての間違いだった。ボンちゃんの気持ちを受けずに逃げていた私のせいなのに、結局色んな人を巻き込んで…最悪だよね」

「はぁ…まあ、アタシにも責任はあるよ。今回遊園地に行こうと提案したのはアタシだし、ある意味イナと凡太をダシに使ったみたいなもんだからね」



 一人が自嘲気味に笑った。もう一人は溜め息をつきながらも肩を叩いて励ましている。………しかし引っ掛かる。何だ、この違和感の正体は…。



「要は私たちの再構築を建前に悠馬君とデートしたかったってこと?」

「…………う、まあ、そうかな。「エロ大名」ってずっと弄っていたけど、何かほっとけないというか…。気づいたら好きになってたんだよね」

「…アンちゃん可愛い」

「それは…今は言わないでくれイナ」



 一人が照れ臭そうな声を出して頭を掻いている。もう一人は少しだけ機嫌が直ったのか、笑い方が明るくなった。すると奥の方からドアを開ける音が聞こえてきた。



「杏奈ちゃん、伊那ちゃん。ゴメンね、うちの息子に付き合ってもらって」

「「おばさん」」

「もう遅いし、おうちの人にも連絡したから早く帰りなさい。凡太のことは大丈夫。心配しなくていいから」

「おばさん、ありがとうございます」

「すみません、お休みの日にとんだことに巻き込んで」

「いいのよいいのよ。しかし…あの凡太がね……ダブルデートとはね。全く母として感無量だわ。ま、それはともかく本当に二人ともありがとう。悠馬君も外で待ってるから行ってあげて」

「「はい、失礼します」」



 ドアの向こうから現れた人影は年配の女性らしい。話を整理するにどうやら僕の母親、のようだ。そして先にいた二人の女性は……………………思い出した!!!


 そうだ、僕は杏奈たちとダブルデートをする為に遊園地に行って、そしたら伊那がナンパ男に絡まれたから僕が助けに行ったんだ。で、ナンパ男に殴られて…気づいたら此処にいたんだ。

 ということはだ。さっきの二人の会話を思い返すに伊那は間違いなく僕のとこを「ボンちゃん」と呼んでいた。「ボンちゃん」、懐かしい響きだ。かつて幼馴染の関係だった頃に伊那から呼ばれていた名前。



「でも何か変だぞ」



 僕は思わず口に出した。伊那は僕に関する記憶が全く無かったんじゃないのか?それに杏奈は何故この違和感のことを指摘しないんだ?

 ……導かれる結論は一つ。つまり杏奈と伊那は最初からグル…アクシデントはあったが、仕組まれていたものだった…。



「凡太、起きたの!?」



 僕の呟きが聞こえたのか、いきなり白いカーテンがバッと開かれた。僕は思わずビクッとなって危うくベッドから落ちそうになる。カーテンの向こうには、やはりというか僕の母親がいた。心配そうでいて、それでも安心したような表情を見せている。僕は驚きつつも、とりあえず母親を安心させようと笑ってみせた。

 ふぅ、どうやら確認しないといけないことが山ほどあるな。僕は退院開けに杏奈を問い詰めることにした。

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