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【Ep.4】異常番地のゲームパーティー

 今日は少し昔の話をしよう。


 第4班が結成された当初、現在のように集団で任務に向かうことは少なく、基本的には2人組で行くことが多かった。私―――夕暮佳子(ゆうぐれ かこ)は3歳年下の男性隊員の有栖川英二(ありすがわ えいじ)と組で行動していた。

 彼の銃撃のセンスは一流で、配属試験では私と同じく第1班(ALEC-1)配属レベルの好成績を叩き出していた。ただ、誰よりも自分が目立つ事を優先した"効率的な魅せプレイ"が集団の統率を乱すとされ、"最弱"のレッテルの下に集められた問題児集団の第4班への配属になっている。配属変更の際に私は1班の副班長になるよう上層部から指名を受けていたが、有能揃いの堅物集団の空気感は私には合わないと言って、自ら4班の副班長になる事を志願した。英二とは4班配属の時に初めて知り合った。全身を偽りの鎧で武装したような彼は、嘘が嫌いな私にとっては一番嫌いなタイプの男だ。そんな彼と組む事になった当初は正直嫌だった。自分からプライベートを明かさない感じ(本人はミステリアスキャラを演じたいのだろう)は特に私をモヤモヤさせた。素性を暴く目的で彼と同居にまで踏み切ったのだが、彼の事を知るどころか逆に私の秘めた気持ちを危うく暴かれそうになったりもした。気付いたら私はいつも彼の事を考えてしまっている。別に好きという訳じゃないのに、だ。


 英二は異常生命体殲滅隊の仕事の裏でギャンブルに手を出していた。隊で得た収入の殆どを賭けに散財する日々、しかし彼の持ち前の強運(実態は巧妙なイカサマ)で何十倍もの額に増やしてくる為文句は言いづらい。ギャンブル関係での友人も多く、彼ら伝で異常生命体案件を拾ってくる事も多々あった。

 ある日の事。私達が同居しているタワーマンションの高層階の一室で、英二が真剣な表情でパソコンの画面を眺めていた。

「英二、どうしたの?」

 ペットの猫(白いペルシャの雌、名前はリデル)を両腕で抱えた私は、彼のパソコンの画面を覗き込んで言う。画面には地図サイトが表示されており、更地の真ん中に"目的地"のピンが立っていた。

「あぁ、マイレディ。実はな……」

 そう言うと英二は机に置かれた封筒を手に取り私に渡す。既に開封済みだった封筒を受け取り中身を取り出すと、それは夜のゲームパーティーの招待状だった。話を聞くところによると、英二のギャンブル仲間から一緒にこのパーティーに行かないかと誘いを受けたという。

「しかしこのパーティー、妙なんだ。招待状に記載された住所で調べてみても遊戯場らしき建物は存在しない」

「なるほど……"異常住所"の可能性が高いわね」

 "異常住所"―――異常生命体は持つ魔力が強い個体だと自身が優位に動くことが出来る特殊な領域を生成できる。領域の様相は個体によって様々だが、共通する事は、その領域に重なった区域は異常生命体が起こす現実改変の影響を受け、在るはずもない建物が出現したり在ったはずの建物が消失したりするのだ。それが"異常住所"と呼ばれる区域である。

「この地図サイトの最終更新は今年の5月だ。1か月も経たずに遊戯場ぐらいの大規模な建物が建設されるなんて不自然じゃないか?予告もなしに……」

 確かにそうだ。普通ならこんな短期間で建物は建てられない。何かしら裏があると考えるべきだろう。

「分かったわ。そのゲームパーティー、私も同行する!ギャンブルとかよく分かんないし手を出すつもりなんて更々無かったけど……異常案件なら話は別よ!」

「助かるよ、マイレディ。友人にはパーティーへの出席は辞めるように伝えておこう」

 こうして私達はゲームパーティーへと潜入する事になった。


 数日後の夜。各々正装にを身に纏い招待状にある住所へ向かうと、そこには煌びやかな様相の建物が(そび)え立っていた。

「"GAME HOUSE Hell of Dreams"……初めて聞く遊戯場だな。"Hell of(凄まじい) Dreams()"だなんて、怪しさしか感じない」

 英二は(いぶか)しげな表情で呟く。

「ま、行ってみましょう。ここで突っ立ってても何も始まらないし」

 建物の中に入るとかなりの大盛況だった。漫画かドラマでしか見たことのない景色。正装の老若男女が己の欲望の(まま)に賭け、結果に一喜一憂する。金と欲が渦巻く"大人の世界"ってやつだ。

「すっごい賑わってるわね……ちょっと怖くなってきたかも」

「大丈夫さ。手練れの私が色々教えてあげよう。着いて来たまえ、マイレディ」

 英二がそう言うと私の手を引いて奥へと進んでいった。 


 英二に誘われるままにやって来たのはルーレットの卓。私達は受付で手に入れたチップの入った箱を手に空いている席に座る。

「ルーレット?何か難しそう……」

 私は少し躊躇いがちに言う。

「そんな事はないさ。ルールは簡単だし、チップをテーブルに置くだけで参加の意思表示が出来るから降りるのも気軽だ」

「うーん、わかったわ」

 私は少し手を震わせながら、黒の28の枠にチップを2枚置いた。その采配に英二は驚く。

「おいおい、初心者の癖にストレートアップとか正気かい?」

「え……まずかった?」

「一点張りは当たる確率も低い分リスクが高い。当たった際の倍率は低くなるが、オッドイーブンやカラムで保険をかけておくのが安牌(アンパイ)……」

「ストップストップ!そんな難しい事言われても分からないから!」

 私は慌てて英二の話を遮る。するとディーラーがノーモアベットを宣告する。盤上を回るボールの速度が段々と落ち、黒の28の上に止まった。私のなんとなくの一点張りが当たってしまったのだ。卓にいた人々が歓声を上げて私に注目する。英二が微笑んで言った。

「凄いじゃないか、マイレディ!」

「……ビギナーズラックってやつよ」

 この先も私は英二のアドバイスを受けつつ賭けを進めていく。総合的にはまずまずの結果。程よくチップが増えたところで私は卓を降りた。このまま行くと見境なく無謀な大勝負をしてしまいそうで怖くなった。


 メインホールを軽く歩き回る。いつの間にか私の隣にいたはずの英二がいなくなっていた。別の卓で賭けに興じているのだろう。彼のこれまでの戦績から大きく負ける事はないだろうし、暫くは探さなくても良いかと思った。

 歩いていると目に留まるのは綺麗なカクテルドレスに身を纏った美しい女性参加者達だ。彼女達みたいな所謂麗人と呼ばれる人たちにはそういう煌びやかなドレスは似合うだろう。私みたいなパッとしない容姿の女には到底辿り着けない領域だ。今回の任務の為に英二が選んでくれた水色のショートドレスは私から見ても似合っている様には思えず、むしろ私がドレスに着られている感じだ。

(こんな事で気負ってても仕方ないわ。これは仕事なのよ)

 そう言って気を持ち直したその時、私の視界に女性スタッフに連れられて奥の方へ行くスーツ姿の中年男性が入った。二人の行く先を目で追うと、彼らは一つの扉の中へ消えていった。扉の方へ近付く。"Winner's Room"と筆記体で書かれた光沢感のある表札が掛けられていた。恐らく大勝した参加者専用の特別部屋なのだろう。

(あの部屋……何があるのかしら)

 興味本位でドアノブに手をかけようとしたその時だった。独りでに扉が開き、中から先ほどのスタッフが出てきた。僅かに部屋の奥が見えるかと思われたが真っ暗で何も見えなかった。

「お客様、どうされましたか?」

 スタッフが無機質に言い放つ。その目つきは鋭く背筋が伸びる感覚に襲われる。

「あ、少し迷っちゃいまして……ここに来るの初めてなんです、私」

 そう言いながら引き()った笑顔を見せると私はその場を立ち去った。私は少し違和感を感じた。先程出会ったスタッフの首筋に"♣4"の刺青(タトゥー)が彫られていた。

(あの刺青…何なのかしら?) 

 そう考えながらメインホールを歩き空いている卓を探す。すると何処からか大きな歓声が聞こえた。歓声の方へ向かうとそこはテキサスホールデムの卓だった。この卓にいた人々の注目の的だったのは、何処に居ても目立つ紫色の燕尾服(えんびふく)を着た背の高い男性―――英二だった。彼の手元には多くのチップが山積みになっていた。群がる人波を掻き分け、私は英二が座る椅子の後ろに就いた。

「す、凄いわね」

「まぁな。この位は余裕だ」

 ふと卓を見ると、彼の持つ2枚の手札と場に出ている5枚のコミュニティカードのうち3枚でスペードのロイヤルストレートフラッシュが完成していた。

「えっ!?」

 思わず声が出る。他の客も驚きを隠せない様子だ。するとこの卓を担当していたディーラーが微笑みを見せると言った。

「これはこれは……貴方はかなりの強運の持ち主と見ました。如何です、更なる高み……目指してみませんか?宜しければ後ろの連れのお嬢さんも……」

 英二とディーラーの視線が重なる。英二は真剣な表情になり、声のトーンを少し落として言った。

「乗った。その勝負、受けて立とう」

 英二の宣言に周囲は湧き立つ。私は不安げに英二を見つめる。

「大丈夫なの?」

「問題無いさ、マイレディ。君は私の勝利を信じて着いて来ればいい」


 私達はディーラーに連れられ、"Winner's Room"へと向かった。私はこっそり英二に耳打ちする。

「ここのスタッフ……何だか怪しくないかしら?」

「あぁ、私も薄々勘づいていた所さ。首元の刺青の事だろう?」

 私達の前で歩くディーラーの首筋を見る。彼には"♢7"の刺青が彫られていた。

「あの数字は何か意味があるのかしら?」

「さあな……そこまでは分からなかった」

 そうこうしている内に"Winner's Room"に辿り着いた。ディーラーが扉を開け、部屋の奥に通される。私達は促されるままに部屋に入った。ディーラーの前を通った時、彼が不気味な笑みを浮かべていたのを私は見逃さなかった。

 部屋の中は薄暗かった。暗さに慣れてきた眼で辺りを見渡すがゲーム用の卓らしきものは見当たらなかった。すると英二が驚愕の声を上げて言う。

「マイレディ、これは……!」

 彼の指差す先を見て私も声を失う。そこには私が見たスーツ姿の中年男性が倒れていたのだ。駆け寄って抱き起こし、手首に触れる。気を失っているだけで脈はあるようだ。私は男性を部屋の片隅に優しく寝かせる。

「どうしてこんな事に……」

「彼だけじゃない。他にも同じような人があちこちで倒れている」

 英二の言う通り、室内には気を失って倒れている参加者達がいた。

「こんなの、人間が出来る芸当じゃないわ」

「やはり此処は異常生命体の根城だったか……しかも人間の精気を食い物にしている。厄介なタイプだな」

 私達は腕時計と偽って持ち込んでいたバスターデバイスを起動させると、武器を構え戦闘態勢に入る。その時、背後から足音が聞こえた。振り返るとそこに立っていたのは先程のディーラーだった。

「まさか参加者の中に殲滅隊員がいらっしゃったとは……」

 薄暗い部屋で仄かに彼の刺青が黄色く光っていた。しかし先程まで"♢7"だった彼の刺青は"♢8"に変わっていた。英二は腰に身に着けたマガジンポーチから赤いケースのマガジンを取り出しハンドガンに装填すると、ディーラーに銃口を向け言った。

「何が……目的なのです?」

 するとディーラーは不敵な笑みを浮かべて言った。

「私…いや、我々は()()()()達の魂を喰らいたいだけです。特に強運を持ったニンゲンの魂は美味でしてね……」

 するとディーラーは人型の輪郭を歪め、真っ黒な影の異形となった。その姿は童話のトランプ兵の様。身体には首元の刺青と同じ"♢8"が不気味に黄色く光っていた。ディーラーの正体が暴かれた所で英二が高笑いしながら赤く光る近距離散弾を連射する。対して私は影のトランプ兵に向けて機械槍を突き刺す。その時、私の背後から声が聞こえた。

『オイ、抜け駆けナンテさせナイぜ!こいつらハ俺の獲物ダ!!』

 振り返ると"♠4"を青く光らせた影のトランプ兵が飛び掛かってきた。私はすぐさま機械槍を振り抜き、槍先から雷光弾を3発撃ち込んだ。

「悪いけど……私はどっちの獲物にもならないわ!」

 そう言って私は英二の方へ向き直る。英二は弾種を円盤弾に切り替え、挟み撃ちにしてきた両者に対応する。

「こいつら、私達を取り合っているのか?」

「そうみたいね。でもそんなのは関係ない。全員倒すまでよ!」

 そう言って私は"♠4"に向けて機械槍を突き刺す。するとトランプ兵は叫び声を上げて煙となって消えた。その様を見た"♢7"が嘲笑う様に言った。

『ハハッ、威勢の割ニハ弱かったナ。♠だからアル程度強いかと思ってハいたが所詮ハ低級数……アッケナクやられタな』

「それはあんたもどっこいどっこいよ!」

 私がそう言い放ち雷光弾を撃とうとした。しかし、私の後ろから弾種を再び変えた英二がチャージ弾を一発"♢7"に撃った。大きな爆発音と共にそいつは爆散した。

「手柄を奪うなんて、あんたって本当に最低」

「判断が遅い君が悪いだろう?」

「何よっ!!」

 私達は睨み合う。その刹那、私の視界が急激に降下する。背後からトランプ兵の影からの飛び蹴りを喰らったのだ。

「マイレディッ!?」

「なっ…!?」

 痛みに耐えながら上体を起こして振り返る。そこには先程のものよりも少し大きな影が鋭い槍を持って仁王立ちをしていた。その身体には"♡J"が赤く輝いていた。"♡J"は何も言わずに私に向けて槍先を突き付ける。私は先程の攻撃で足を痛めてしまい動けない。このまま攻撃を喰らうしかないのか―――と諦めたその時、英二が私を抱き締め勢いよく横へ飛んで"♡J"の槍攻撃を避けた。

「え、英二……?」

 私の力ない声にも反応せず、英二は私を抱いたまま"♡J"に銃口を向ける。そして、今まで聞いたこともない位の低い声で叫んだ。


()()()()を傷付ける奴は誰であろうが許さねえ……絶対に殺す!」


 その叫びに呼応するように彼のハンドガンとマガジンケースが金色の光を放つ。マガジンケースはハンドガンに集約され、装填式のハンドガンはレボルバー式の型へと変わる。英二は私を抱えたまま引き金を引いた。すると彼の雷撃を伴った黄金の光線が発射された。

「出力強化―――"高電圧(Ultimate)電磁砲(Voltage)"!」

 放たれた一撃は"♡J"の身体を貫き、一瞬で消滅させた。私は英二から目線を外しながら言った。

「……英二、ありがとう」

「ははっ、"ビギナーズラック"……だよ」

 常に軽薄な雰囲気な英二が、あの時だけは心の底から本気だった。時々彼はそういうところがあるので不覚にも私はキュンとしてしまった。彼に聞こえるか聞こえないかの声量で私は呟いた。

「本当にあんたって……ズルい」


 英二の肩を借りながらゆっくりと立ち上がる。僅かに痛む足を引き()りながらも、私達は静寂に包まれた部屋を見渡す。すると英二が何かを察したように軽くハンドガンのレボルバーを回し前方に向けて一発撃ち、マゼンタに光る光球を生成すると、それを左手で弾いて飛ばす。すると光は奥の物陰に当たり、山積みになっていた物が散乱する。

「うわぁ!?」

 誰かが物陰に隠れていたらしく、軽く叫び声を上げて横に飛び退く。彼はこの遊戯場のスタッフの制服を着ていた。英二はスタッフの彼に銃口を向ける。しかしスタッフは慌てた様子で両手を上げ、必死に弁明をする。

「待ってください!僕は誰も殺していないです!」

 私は英二に銃を降ろすように促すと、スタッフに目線を合わせるように屈む。スタッフの首元には"♠3"の刺青が青く光っていた。

「事情を聞かせてもらえるかしら?」

 私の質問に対し、スタッフは涙目で頷き、身の上を話し始めた。


「僕……いや、僕達は"ジョーカー"という男に仕えています。奴はこの遊戯場のオーナーで、奴の命令でニンゲンの魂を集めるように言われているんです」

「つまり君達は異常生命体の下僕…"影の眷属"という事ですか」

「貴方達はそう呼んでいるのですか……ならばそれでもいいです。僕達はこの遊戯場の参加者から魂を奪ってジョーカーに献上するのが仕事で……」 

そこまで言うと彼は自分の首元の刺青を指差して続けた。

「この刺青はランクみたいなもので、集める魂が多かったり功績を上げたりすると数字の強さが上がるんです。大富豪…ってトランプゲーム、分かりますか?それで一番強い数字が2なんですよ。みんなそれを目指して手柄を奪い合い争っていました。でも、僕にはそんな事できなくて……」

「だから、複数の眷属が私達を必死に取り合っていたのね」

 私達は彼の話を真剣な表情で聞いていた。

「僕だって最初は強くなりたいとか思いましたよ。でも……楽しそうにゲームをして、結果に一喜一憂しているニンゲン達を見ていたら、魂を奪うとかそんな非道な事は出来ないって思ったんです。そうやって悩んでいるうちに他の奴らはどんどん強くなって……僕の数字はいつの間にか最下位になっていました」

「それで…君は私達にどうして欲しいの?」

 私がそう聞くと"♠3"は笑顔を浮かべた。しかしその笑みはどこか悲しげであった。

「この部屋に身を潜めてて、貴方達が殲滅隊の方だと知った時は、正直救われたと思いました。どうか、貴方達の手で奴を……ジョーカーを倒してください!僕も出来る限り協力はします!」

「君に頼まれなくても……私達は(はな)からその心算でしたよ」

「まさか影の眷属に助けを求められるとは思わなかったわ。分かった、やってやろうじゃない!」

「ありがとうございます!恐らく他のスタッフはまだメインホールに居るでしょう。全員やっちゃって構いませんので、よろしくお願い致します!!」

 私と英二は彼に見送られ、扉を開ける。去り際に英二は"♠3"に一枚の紙きれを手渡した。


 武器を構えた状態の私達を見て、メインホールに居た人々が驚きの声を上げる。私はショートドレスのポケットから煙玉を取り出すと、英二に息を止めるように目で促し大きく息を吸って息を止める。そして煙玉をホールに向けて投げ込んだ。この煙玉は民間人を緊急避難させる際に使用するもので、中強度の記憶処理剤が使用されている。異常生命体や影の眷属には記憶処理が効かない為、参加者は遊戯場に居た記憶を消されて続々と遊戯場から出ていく。メインホールに残ったのはスタッフだけになった。

「貴様ら、まさか殲滅隊か!」

 スタッフの一人が狼狽えながら叫ぶ。私は機械槍の槍先をスタッフ達に向けて言った。

「悪いけど、遊戯(あそび)は終わりよ!」

 それに続く様に英二が勢いよくレボルバーを回し銃口を前方に向けて言った。

「さぁ……種明かし(SHOWDOWN)と行こうか!!」

 それを煽りと認知したのか、スタッフ達が輪郭を歪めて影のトランプ兵の姿に変貌した。スタッフルームと思しき扉からもたくさんのトランプ兵が駆け込んできた。"Winner's Room"の扉の前に立つ私達をトランプ兵の集団が囲む。

「いつものやつ……分かるかい、マイレディ?」

「何度も聞いてたら自然と覚えるわよ……了解!」

 英二は私達2人での任務の時、一斉攻撃の前に必ず言う言葉がある。彼の好きな言葉なのか分からないが、何度もそばで聞いている内に私も自然と覚えてしまったし、それを聞かないともう心が締まらなくなっていた。彼の全てに段々と吞まれているのを自覚させられる。いつか何処かで責任を取ってほしい。

 私達はお互いに視線を合わせて小さく頷くと、声を揃えて叫んだ。


「「開演!!」」


 機械槍の柄を強く両手で握り締め横に勢いよく振るい先頭の一団を薙ぎ飛ばす。先頭が崩れるとドミノ倒しの要領で後方も軽くよろけて隙が出来る。そこを狙って確実に影のトランプ兵を一体、また一体と槍で貫いて倒していく。目の前に気を取られていた私の頭上に斧を持ったトランプ兵―――"♢K"が飛び出し襲い掛かる。しかしそれを水色の光弾が貫く。"♢K"はそのまま地面へと落ちる。

「油断したな、マイレディ」

 そう言う英二の背後に迫るトランプ兵に向けて私はすかさず雷光弾を撃ちこむ。

「その言葉、そっくりそのまま返してあげる。油断したわね、英二?」

「おっと、これは手厳しいな……」

 彼は苦笑いを浮かべながらも私を守るように前に出て、迫りくるトランプ兵を次々と撃ち抜いていく。私も負けじと彼の背後を守りつつ応戦する。守られてばかりというのも正直腹が立つものだ。それに私は第4班の副班長、頼りない所を見せていたら他のメンバーに示しがつかない。私達は背中合わせになりながらお互いをカバーし合い、向かって来る敵を着実に仕留めていった。


 最後の一体を同時に打ち倒し、一息吐く。滅茶苦茶になったメインホールを眺めて私は言う。

「ふぅ……中々手強かったわね」

 英二は額の汗を拭いながら答えた。

「あぁ、そうだな。後は……」

「ジョーカーを倒すのみ、ね」

 すると"Winner's Room"の扉がゆっくりと開き、"♠3"のスタッフが恐る恐る出てきた。

「うわぁ、本当に全員やっちゃった……凄いですよ、お二人さん!」

 私達は彼を見据え、武器を下ろす。そして英二がスタッフに歩み寄ると彼の頭を軽く撫でて言った。

「君もよくやりましたね、勇敢な少年(Brave Boy)。事後処理班への連絡、ありがとうございました」

 先程英二が"♠3"に手渡していた紙切れは事後処理班の本部に繋がる電話番号が記されたものだった。どうやら英二は私が記憶処理弾を投げて参加者を避難させる事まで見据えていたみたいだ。認めたくはないが流石は英二だ。そう感心していると、"♠3"は嬉しそうな表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございます!僕、褒められたの初めてで……どういう顔して良いか分かんない、です」

「そんなに難しく考えなくてもいいのよ。嬉しい時は素直に喜べばそれで十分だから」

 そう話していると、突然にメインホールの電気が切れ、真っ暗になった。

「停電!?何が起こったのよ!」

「落ち着け、マイレディ」

「ま、まさかこれって……」

 各々困惑していると、電気が復旧した―――しかしこれまで私達がいたメインホールとは打って変わって、かなりの広さと天井の高さのコロシアムに変貌していた。


 悪魔の様な姿の影で満席になった観客席に囲まれたコロシアムの中心に私達は立っていた。すると荘厳で不気味なパイプオルガンの音と共に、鎖で吊るされたきらびやかな装飾の玉座がゆっくりと降りてきた。その玉座にはトランプのカードからそのまま飛び出したような道化師(ジョーカー)の容姿をした男が足を組んで座っていた。その顔面は異常生命体の特徴である黒塗りだ。道化師の男が姿を現すと観客席は歓喜に湧いた。"♠3"は恐怖に満ちた表情で道化師の男を指差して言った。

「奴が……"ジョーカー"です!」

「あれが……!」

 私達の姿を捉えた"ジョーカー"は苛立ち混じりの声色で言った。

『貴様らカ、俺様ノ享楽の邪魔をスル愚か者ハ……』

 彼の背後には鳥籠が吊り下げられており、その中には青白い大きな火球が漂っていた。鋭く爪が伸びた指先でそれを指し示すとジョーカーは続ける。

『急ニ魂の供給ガ止まったカラ何事かと思ったガ……俺様ヲ裏切るツモリか…"♠3"ヨ』

「オーナー……いや、ジョーカー、あんたがやっている事は間違っている!僕はもう、あんたに従うつもりはない!」

 "♠3"の叫びに会場がどよめき出す。するとジョーカーは怒りを露にした声で叫ぶ。

『俺様ニ逆らう奴ハこの手デ消し去るマデだ!!』

 そして虚空から金色に光る三叉槍(ピッチフォーク)を召喚し玉座から立ち上がると、大きな蝙蝠の様な翼を展開し私達の前に降り立った。飛んだ勢いで帽子が外れ、頭部に二本の角が顕わになった。私と英二は"♠3"を守る様に前に出ると武器を構えた。

「あんたの相手は私達よ!」

「最終決戦と行こうか!」

『良かろウ…』 

 ジョーカーが三叉槍を一回転させる。すると地面に魔法陣が展開され周囲を炎の壁が囲う。私が槍でジョーカーの胸元を刺そうとするが、即座に三叉槍に阻まれる。鍔迫り合いに割って入る様に英二が追尾(ホーミング)弾を乱射して加勢するが、ダメージは微々たるものでしかなかった。悔し気な表情でレボルバーを回転させる英二。鍔迫り合いに押し負けて後方に吹き飛ばされる私と交代するように英二が前に出ると、ジョーカーと距離を詰めて一撃を撃ち込む。

「出力強化―――"爆裂弾(Explosion)"!」

 大きな爆発音と共に橙色の閃光が放たれる。しかしジョーカーは傷一つ負わず平然としていた。

「効いてない、だと!?」

『無駄ダ!』

 そう言うと三叉槍の先に炎を纏わせ英二に突き刺した。咄嵯に彼は回避するも避けきれず、彼の左腕に掠り火傷を負わせた。

「ぐぁっ!」

「英二ぃ!!」

 私は涙目になりながら機械槍の柄を強く握りしめると、槍の全体に電気を纏わせてジョーカーに攻撃を嗾ける。

「これでも喰らいなさい!!」

 私の渾身の一閃がジョーカーの右肩を貫く。右腕が千切れ、黒い煙となり散る。そして手に持っていた三叉槍が落ちる。それと共に周囲を囲っていた炎が収まる。観客席は悲鳴と驚愕の声でどよめく。

『オノれ小娘メぇえエ!!』

 右腕を抑えながら激昂(げきこう)するジョーカー。私は機械槍の先を、英二は銃口をジョーカーに向ける。すると私達の間に、"♠3"が三叉槍の先をジョーカーに向けて立っていた。

『ナ、何をする気ダ…貴様ァ!』

「諦めるんだな、ジョーカー!」 

 "♠3"は真剣な表情で叫ぶ。それに続いて英二が言った。

「彼が教えてくれました。ここのスタッフの序列は大富豪が基準らしいですね……ちなみに大富豪にはこんなルールも存在します。"ジョーカーが場に出ていても、♠3で返せる"……まさか、ご存じないとは言いませんよねぇ?」

『何が言いタイ……?』

「最弱のカードでも、使い方次第で切り札に変わる……って事ですよ」

 そう言って私達は同時に引き金を引く。

「ヴァルキリーサンダー!!」

「出力強化―――"高電圧(Ultimate)電磁砲(Voltage)"!」

「これで終わりだあああああああああ!」

 雷光のビームと火炎砲が一気にジョーカーの身体を貫く。

『おのれ…オノレええエエ!!!』

 断末魔の叫び声を上げながらジョーカーは消滅した。


 コロシアムは消滅し、ただの更地に戻っていた。魂を奪われ気を失っていた参加者も無事に意識を取り戻した。彼らは現場の前で待機していた事後処理班から事情聴取を受けた後記憶処理をされる事だろう。既に朝日が昇り始めていた明け方の空の眩しさに私は目を細める。私はふと"♠3"の方を見る。彼は少し微笑むとお礼を言った。

「あの……二人とも、ありがとうございました!」

「え!?あ、どういたしまして……」

 私がそう返事をすると、"♠3"の身体は少しずつ光に包まれて透けていく。

『もう時間みたいです。貴方達に出会えて、本当ニ…良かっ、タ……』

 彼は笑顔でそう言うとそのまま白い光となって消失した。消えていく彼を見送った後、私は呟いた。

「……行っちゃったわね」

「そうだな……」

 すると英二は私を見つめると微笑みを見せて言った。

「今更になってしまったが、マイレディ……そのドレス、とても似合ってるぞ。私の見立ては間違ってなかったな」

「……いきなりなんなのよ、もう!」

 私は顔を赤らめながら彼の背中を一発叩いた。 

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