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【Ep.28-4】来たれ、汝苦き断罪の時よ

 異常生命体の(ひし)めく研究都市東部。私―――群生圭(むれおい けい)をはじめ複数の隊員がその対処に追われていた。各々武器を振るい、迫る敵を倒していくのだが、隊員達の反応が何処か妙だった。私の近くに現れた隊員が焦りを見せた表情で私に忠告する。 

「此処から北の方には行かない方が良いですよ!何か…何かヤバい奴がいるんで!」 

 その言葉を聞いた私は思わず北の方角を見やる。其処には大きな翼を広げ浮遊する黒い影が見えた。

(あの姿……まさか!) 

 私は影の見える方へと走り出した。後ろから制止の声がかかるも気にせず走る。やがて開けた場所に出た私の視界に飛び込んできたものを見て愕然とした。  


「……鎧の邪神(ファフニール)、まだ生きていたのか…」   


 私達がかつてこの手で討った異常生命体―――鎧の邪神・ファフニール。私の人生を狂わせた存在だ。その下には奴にやられたと思われる隊員の亡骸(なきがら)達が転がっていた。 

「け、けーさま……」 

 同じ班の塩崎(しおざき)にこが、恐怖と怒りが混ざったような表情でこちらを見ていた。私は彼女を優しく抱き締める。彼女の身体は震えており顔色が悪い。無理もない事だろう。彼女もまた奴に人生を狂わされた被害者なのだ。 

「無駄だぜ、圭。どんなに落ち着かせようたってこいつ、ずっとこの調子だからさ…」 

 先ににこと合流していたらしい私の児童養護施設時代の友人である3班所属の太川陽司(おおかわ ようじ)が溜め息混じりに言う。 

「怖いのは私だって同じです。それでも……私達は奴を倒さないといけない。それなら戦意喪失状態のままというのは危険でしょう?」 

 そう言って私は彼女に微笑みかける。すると彼女は目に涙を浮かべて嗚咽しはじめた。 

「にこはぁ…けーさまに助けられてばっかだから……今度はにこが、けーさまを助けなきゃって思ってえ…」 

 泣きながら私に抱き着く彼女の頭を優しく撫でて慰める。その時、私達の方に黒い光線が勢いよく飛んでくる。私はにこを抱き締めたまま光線を躱した。そしてバスターデバイスを起動し大斧(ラージアックス)を展開すると、ファフニールを睨みつける。 

「何処まで私達を…この世界の人々を傷つけ、狂わせれば気が済むのですか!?」 

『我ヲ信じ崇メる者ガこノ世に居る限リ、我は生き続ケる』 

 ファフニールはそう言い、手に持った剣を上に掲げて叫んだ。 


『我ヲ崇め、救いヲ求める者共よ―――ソノ真価を示シ、我に魂ヲ捧げヨ!』    


 その叫びに呼応するように、各方面から青白く光る炎がファフニールの元に集まる。 

「おいおい、嘘だろ……」 

「信者を操って心中させた、という事ですか。力を得る為に此処までの愚行……」 

 青白い炎をその身に纏わせたファフニールは、その下半身を黒い大蛇の様に変化させ咆哮する。そして奴に立ち向かおうとする隊員を、長い身体をうねらせ蹴散らした。その惨状を目の当たりにしたにこは、包丁を持つ手を小刻みに震わせ俯くと、何やら呟き始めた。よく聞くと、"嫌だ"と呪詛の様に連呼している。にこの怒りは、限界に達していた。

「嫌だああああああ!!」 

 そう叫びながら、にこはファフニールの元へ走り出し、その巨体に包丁を何度も突き刺した。 

「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろおおおおおおお!!」 

 攻撃を繰り返す程に彼女の包丁に赤黒い炎が纏われ、やがてそれは巨大な火柱となった。熱さと痛みで奴が叫び声を上げて言った。 

小癪(こしゃく)ナ奴め……コレでも喰らエ!!!』 

 するとにこの目の前に黒い渦が現れた。彼女はそのまま渦に吞まれていく。 

「塩崎君!!」 

 私は彼女を追い掛けて走り出し、彼女の腕を掴もうとするも、自分も巻き込まれてしまった。  


 真っ暗な世界の中、にこは助けを求めて叫んでいた。すると、彼女の元に2人の姿が現れた。彼女の両親だ。ただ、姿は明らかに彼女の両親ではあるが、顔は塗りつぶされた様に真っ黒。 

「パパ、ママ……何でここにいるの…!?」

 にこは恐怖で後ずさりをする。すると彼女の母が優しく手を差し伸べて言った。 

『にこ。救われたいなら、ファフニール様に全てを捧げなさい』 

「嫌…嫌だ!ママは間違ってる!!」 

 にこは乱雑に包丁を振り回す。しかし刺そうにもその姿は幻想の様に消えてしまう。すると次は彼女の父が後ろから言った。 

『間違っているのは君の方だ、にこ。君は私達に従っていれば良いのさ』 

「違う……」 

 にこの叫びにも動じず、迫る2人の姿。更にはその後ろから黒い波が襲い掛かる。 

「嫌だ…嫌だ……」 

 彼女の心の奥に抑えていた殺人衝動が、再び甦る様な感覚に襲われる。 

―――そうだ、あの時もこんな感じだった。 

 にこはかつて、ファフニールに心酔した両親に嫌気が刺し、怒りのままにその手で両親を殺したのだ。

―――やっぱりあのバケモノは、"かみさま"なんかじゃない……  

 にこはそう思うと、両手を強く握り締めて叫んだ。  


「パパも、ママも、2人をめちゃくちゃにしたバケモノも…みんなみんな大っっっ嫌い!!!!」  


 その時だった。彼女の眼前に翡翠色に輝く斬撃が飛び、黒い波を全て切り裂いていく。 

「……塩崎君!」

「けーさまぁ!!」 

 漸く彼女と合流できた。私は手にした大斧をその場に投げ捨て、にこを抱き締める。真っ黒な背景が炎が燃え盛る教会に変わる。炎を見る度に、ファフニールに施設を焼き尽くされた時の記憶が甦り、今は亡き義父(ちち)の最期の事を思う。私に抱かれ、(せき)を切ったように泣く彼女の姿は、あの日の自分に重なる。私は彼女を強く抱き締めると、耳元で囁くようにして言う。 

「大丈夫です。塩崎君、貴女はよく頑張りました……」

「けーさま……」 

「はい、何でしょう?」 

「にこ、けーさまが一緒にいてくれたから……ここまでがんばってこれた……いつだってけーさまは、にこの"かみさま"だった…にこ、けーさまを信じてよかった!!」 

 そう言って、にこは涙目で微笑む。私もつられて微笑み返した。彼女は続けた。 

「どんなに辛いことがあっても、悲しいことがあっても……にこはぁ…塩崎にこは、けーさまを…ずっと、ずっと、ずーっと!信じ続けることを……誓いますっ!」 

「そんな文言、何処で覚えてきたんですか……」 

 私は呆れた様に苦笑いする。するとにこは私の目を見て言った。 

「ほら、けーさまも言って!"ちかいのことば"!」 

「はいはい、分かりましたよ」 

 彼女の強い押しに負けて、私は咳払いをしてから言った。 

「私、群生圭は……どんな困難が立ち塞がろうとも、塩崎にこ君の事を守り、救い、愛し続ける事を……誓います」 

 すると、周囲が白い光に包まれる。私達は眩しさのあまり目を閉じた。 


「畜生……おい、化け物!2人を解放しやがれ!」

 空中に浮かぶ黒い球体を一瞥(いちべつ)し、陽司が杖から火球をファフニールに乱発しながら叫ぶ。しかし奴は余裕そうにその攻撃を弾きながら言った。 

『我ヲ崇めぬ愚か者共ガどうナロウと、我の知ッタ事でハ無い……貴様モ彼の不届き者共ト同じ末路ヲ歩むガ良い!』 

 すると奴は剣を天に掲げる。その剣先には黒い炎の弾が現れ、段々と大きくなっていく。 

「させるかよ!」  

 陽司は奴の元に駆け出し、先に炎を纏わせた杖で身体を殴る。すると黒い炎が霧散して消えた。 

『ナ、何をスル!?』 

 その時、黒い球体が光を放ち崩壊する。中に閉じ込められていたにこと私が解放される。にこは私に抱き着き、私はその手で大斧を強く握り締めた。背後に輝く翡翠色の光に目を細めながらも、私はファフニールを睨み、言った。  


「"偽りの神・ファフニール"……我が聖なる刃を以って、貴様を"断罪"する!罪を悔いる間も無き程に、打ちのめして差し上げます!」  


 大斧の両刃が翡翠色の光を放つ。私はにこを抱き抱えたまま、一直線にファフニールに向けて突入する。私は、飛んでいた。 

小賢(コざか)シイ真似を!!』 

 ファフニールが剣を振り下ろす。その剣撃を斧で受け止め、そのまま力任せに押し返す。奴の剣は斧に押し負けて折れる。 

『馬鹿ナ!!』 

 動揺した様子を見せるファフニールに対し、今度はこちらから仕掛ける。高らかに大斧を天に掲げると、両刃を纏っていた光は天使の翼の様な形を成す。そのまま勢いよくファフニールに向けて斧を振り下ろす。翡翠色の光は奴を切り裂き、黒い飛沫が私達にかかる。その中に黒く煌めく石の様な物が見えた。それを見たにこがデバイスを起動し包丁を展開する。黒い飛沫が包丁に集約され赤黒い炎を纏うと、私から手を離し黒い石に向かって飛び出し包丁で砕いた。 

「これで……終わりだあああ!!」 

 ガラスが割れるような音が響くと共に、黒い飛沫が灰に変わる。そのままファフニールは叫び声を上げて消滅した。   


「や、やったあああああ!!」 

 勢いよく着地をしたにこは両腕を突き上げて高らかに叫んだ。私は微笑んで彼女に手を差し伸べる。 

「お疲れ様です。塩崎君」 

 彼女は私の手をしっかりと掴んで勢いよく上下に振って言った。

「いやいやぁ、ほとんどけーさまのおかげだよぉ~」 

 すると陽司が拍手をしながら私達に近づき言った。 

「やっぱすげーわ、お前ら!特に圭、何というか……神々しかったぜ。新たな神の誕生を見た、ってやつ?」 

「あ、"新たな神"ですか!!私が!?」 

 私は驚きの声を上げて言った。面と向かって"神"なんて言われるとやはり恥ずかしい。 

「だってほんとーの事だもん!けーさまはにこの…いや、みーんなの"かみさま"だもんねー!!」 

「塩崎君まで……」

「せーのっ、圭様!圭様!!ほらお前ら、もっと声出せ!」

 陽司の煽りに合わせ、私達の戦いを見ていた隊員達が揃って"圭様"コールを繰り返す。私は頭を抱えて呆れ調子に言う。 

「陽司、やめろ!戦闘が終わったら、後で説教だからな……」 

「勘弁してくれよぉ、な?"圭様"?」 

「陽司ぃ……!」 

 陽司に詰め寄る私。その様子を見て皆が笑っていた。

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