【Ep.21】黒に散りし戦友に花束を
旧前線0班―――現在の上位調査隊にあたる、殲滅隊の中にかつて存在した特別部隊だ。異常生命体の住処とされる"セクション・ヌル"に突入しその実態を調査、そしてセクション内に存在する異形型の異常生命体―――"影獣"を討伐する事が主な任務だ。影獣は此方側に侵攻している異常生命体と違い理性を持たず、本能がままに人間を襲う可能性があり、此方側に影獣が流入されてはそれでこそ取り返しがつかないことになる。0班の結成目的は影獣の完全殲滅だった。
現在第4班の班長である私―――如月梓は、同期である苗場時雨(現第1班班長)と麻英田理雄(現第2班班長)と共にかつて旧0班に所属していた。0班の中でも強さの序列としては私達はトップの方で、班長なんて役職を持たなかったこの班では、自ずと私達を中心に任務が進められていた。確実に任務を完遂し、誰も欠ける事無く影獣の討伐を進められてた。"0班は永遠だ"なんて理雄と冗談めかして言っていた事もあった。しかし、ある日を境に全てが崩壊した。
セクション・ヌルの中でも一段と強いとされる影獣―――"影の大龍"の討伐任務にあたった時の事だ。大龍はその巨体から繰り出される攻撃の破壊力もさることながら、何よりも厄介なのはその再生能力の高さにあった。どれだけ傷を与えようと立ち所に回復してしまう。私達は成す術無く防戦一方だった。結局私達は逃げる事しかできなかった。影の大龍が放つ光線に当たれば一撃で消し炭にされてしまう。隊員達が無残にも散っていく中で、私は時雨達に腕を引かれ、ゲートから元の世界に緊急脱出した。
任務は大失敗、こんな惨状は初めてだ。結局生きて帰ってこられたのは私と時雨、そして理雄だけだった。報告書を書く手が震え、視界が涙で滲む。仲間達の名前を"殉職者"のリストに一人ずつ書く度に心が締め付けられていく。
「あず…辛いのは分かるがな、報告書……」
理雄が私の肩に手を置いて言った。
「あんたは……辛くないわけ?」
私が涙目でそう言うと、彼は少し俯く。私は続けた。
「こうなるんだったら、私もあそこで死んでいれば良かった……!」
感情に任せて机を叩く。彼は顔つきを変えて叫ぶ。
「お前、正気かよ!」
「だって私達は世界を守る為に、命を散らす覚悟で戦ってるのに……私達は逃げたんだよ!私達だけ卑怯に生き残って……」
既に正気を失っていた私を、時雨が優しい声で慰めた。
「死ぬのは怖い事だ、みんなそう思ってる」
「でもっ……!」
「それでも今回みたいに生きたくとも死んでしまった者は現れる。そんな彼らを見て"死んでいれば良かった"と言うのは、散っていった彼らにも失礼だと思う。彼らの分まで、僕らは生きないといけないんだよ」
私は涙が止まらなくなり、時雨に抱き着いた。
あれから数年経った現在。私達は別々の班で活動しているが、今でも拠点地下のバーで飲み明かす仲だ。いつしか理雄が影の大龍への再戦を望んでおり、その際の遂行メンバーに私が率いる4班全員を推薦していた。でも、あの時セクションで目にした惨状は、今でも夢に見るほど辛い想い出にして汚点だ。乗り越えないといけないのは分かってはいるが、もしもまたあの恐ろしい眼光を目の当たりにしてしまったら、恐怖で何も出来ずに足を引っ張ってしまうのが目に見えている。私は彼の意見に一理あるとしつつも丁重に断った。
無理に仇を討とうとせずとも、散った戦友の分まで生きていられるだけで十分彼らへの弔いにはなるだろう。酒の入ったグラスを悲し気に見つめ、私はそう思った。




