表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/63

【Ep.1-3】常闇の人形館(3)

 "未知の場所に来たらまずは詳しい人に聞け"、俺―――福留太一(ふくどめ たいち)の恋人であり第4班の班長の如月梓(きさらぎ あずさ)から言われている事だ。


 異常生命体の根城だという洋館に入った途端辺り一帯が暗闇に包まれる。さらには一緒にいたはずの班のメンバーも全員散り散りに別れ、この場にいるのは俺一人だった。

(とにかく班の奴らと合流しねえとなぁ。特に新人コンビは最優先で……)

 そう考えながら当てもない暗闇を歩いていく。すると目の前に顔面黒塗りで和装の女性を見つけた。黒塗りの顔面は異常生命体の特徴だ。恐らくこの洋館の主だろう。しかし今の俺にとっては大事な"この場所に関して詳しい人"だ。俺は彼女の腕を強く掴んで言った。

「そこのお嬢さん、俺と同じ服を着た人を見なかったか?」

 そう言って左手に()めた鉤爪の刃の光で俺の服を照らし女性に見せた。しかし女性は何も知りませんと言わんばかりに首を傾げると、そそくさと暗闇の奥に消えていこうとする。俺はその腕を離すまいと強く握り言った。

「もしかして一緒に探してくれるのか?ありがとうお嬢さ……」

 そこまで言いかけたその時、女性が甲高(かんだか)い声を上げて泣き叫んだ。するとそれに呼応するように大きな操り人形の影が俺の下に現れ襲い掛かってきた。突然の出来事に俺は女性を掴んでいた手を離してしまった。俺は操り人形の影を鉤爪で切り裂きながら、女性を追って走っていく。しかし女性の足はとても速く追いつく事ができなかった。

「くっそ、見失ったか……」

 ふと鉤爪で照らされた隊服を見ると、いつの間にか赤黒く染まっていた。恐らく操り人形を倒した時の返り血だろう。俺は一つため息を吐きながら他の隊員を探して暗闇の中を歩いていく。今はただ、他の隊員と手っ取り早く合流する事と迷子にならない事を祈るだけだ。


 どれくらい歩いただろうか。不意に背後から気配を感じて振り向く。するとそこには、私―――羽田ひよりと同じ隊服に身を纏った男性の姿があった。両手に青く光る四本刃の鉤爪を装着している彼は、先輩隊員の福留太一だ。

「福留先ぱ……大丈夫ですか!?血塗れですけど…」

 私は武器を仕舞い太一に抱きつこうとしたが、鉤爪の光で僅かに見えた彼の隊服は赤黒く染まっていた。

「ひよりちゃん!無事で何よりだ。安心しろ、これは全部返り血だ」

 そう言って彼は笑う。私は彼に残りの隊員の所在を尋ねた。

「他の皆とは会いましたか?」

 私の問いに太一は溜め息を吐きながら首を横に振る。

「その事なんだが…どうやら洋館に入った途端に全員散り散りになったみたいだな。お前と此処で合流するまで誰にも会わなかったぞ」

「え!?」 

 どうやら此処にいるのは私と彼だけらしい。

「取り敢えず俺達で他の皆を探そう。着いてこい……と、ここは先輩らしく偉そうに行くべきなんだろうが……ひよりちゃん、俺の傍に居て…離れないでいてくれるか?」

「勿論ですよ!でも、どうしてそんな弱気なんですか?」

 少し弱気な彼の要求に私は疑問を投げる。すると太一は私から顔を背けながら言った。

「いや、実は俺…かなりの方向音痴らしくてな。梓にそう言われたときはマジで恥ずかしくて。よっぽどの事が無い限りは独りで行動するのはやめろって言われてるんだ……だから頼む、一緒に居てくれ!」

 必死に懇願(こんがん)する太一を見て私は思わず笑ってしまった。

「はい!分かりました、絶対離れませんっ!」

 私は笑顔で答える。こうして私達二人は洋館の奥へと歩みを進めた。


 私達の背後から無数の足音が聞こえる。明らかに裸足で歩いているような湿った音だ。太一の鉤爪の刃が放つ僅かな光を頼りに進んでいく。すると何かを察した太一が叫んだ。

「避けろ、ひよりちゃん!」

「うわっ!?」

 私は反射的に横に飛び退く。すると私達が立っていた場所には藁人形の影が飛び掛ってきていた。太一は両手の鉤爪を振るい、藁人形の影を切り裂く。影は黒いインクの様になり四散し消滅した。

「あっ、ありがとうございます……!」

「礼には及ばないさ。それより、この洋館の敵……思ったよりも厄介かもしれない。気ぃ引き締めていけよ」

「はっ、はい!」

 私は太一の忠告に返事をした。そして前に進もうとした矢先、何かのスイッチが入るような音がした。そして私達は突然謎の浮遊感に見舞われる。そしてそのまま下方へ勢いよく落下していく。暗闇の中から私達を嘲るような笑い声が響き渡った。


「痛っ!」

 地面に勢いよく背中をぶつけ、痛みに叫ぶ声が暗闇に響く。背中を擦りながら立ち上がる。私と共に落下した太一は上手いこと着地した為に事なきを得ていた。

「大丈夫か?にしても、一体何だったんだ今のは……」

 太一が呟くと、私達の前方から誰かの叫び声が聞こえた。声の方に走っていくと、刃物らしき物体がこちらに飛んできて地面に刺さった。紫がかった黒い刀身には見覚えがあった。

「これ、湯川君の鎌だ」

「あぁ、間違いないな。ということは、近くにいるはずだ」

「そうですね…行きましょう」

 私は鎌を拾い先に進んでいく。そこには私達が今まで戦っていた藁人形の影とは明らかに違う大きな影に囲まれ、満身創痍(まんしんそうい)状態で倒れる豆吉郎の姿があった。

「湯川君!」

 私は彼の元に駆け寄ろうとするが、大きな影が背後から襲いかかる。私は豆吉郎に向けて大鎌を投げると、鋏を展開して応戦する。影は操り人形の様な姿をしており、上空から糸らしき細い光が煌めいているのが、暗闇に馴れた眼で確認できた。私は鋏を開き、細い光を裁ち切った。するとそれは力無く声を上げながら崩れるように溶けていった。

「ふぅ、何とかなったかな……」

 一息つく間もなく、今度は太一の方に影が集まってきた。私は直ぐ様加勢に入ったが、その時事件が起きた。鋏が壊れ、特殊な形の柄を持った双剣みたいになってしまった。

「えっ、嘘っ!?壊れた!?」

「ひよりちゃん!大丈夫か!?」

 太一は両手の鉤爪を振り回し、群がる操り人形を切り裂いていく。仕方なく私は二刀流の如く影に立ち向かう。ただでさえ戦闘に不馴れな状態なのに、また更に初めての戦術で挑まないといけない。

(初任務(チュートリアル)がこんなハードモードで良いの!?)

「くそがっ!いくら倒してもキリがねぇ!」

 太一は苛立ちながら影を蹴散らす。しかしそれも限界に近づいていた。もう駄目か……と思っていたその時、私達と影の間に紫色の閃光が走り、一瞬にして影の群れが消え去った。何事かと思い後ろを振り返ると、満身創痍の筈だった豆吉郎が大鎌を構えて立っていた。その鎌は私が見たシンプルなものではなく、刀身は少し伸び蔦のような模様が刻まれ禍々しい紫のオーラを纏っていた。その様子はまるで死神が持つそれのようであった。

「……全く、手こずらせないで下さいっすよ、先輩達」

 豆吉郎は鋭い目付きで私達を睨んで言った。

「おいおい、このタイミングでレベルアップかよ、(マメ)っち……にしたって怪我は平気なのか?」

 太一は驚き混じりに豆吉郎に聞いた。それに対し彼は顔色を変えずに答えた。

「痛みは全く感じないっす、不思議なことに。むしろ影を倒せば倒すほど傷が治っていく……」

 確かに先程までの状態から彼の傷が減っている。太一は少し考えた後、何かを閃いたかの様に言った。

「ひょっとしたらお前の鎌の特殊能力かもな。倒した敵から精気を奪って回復する、みたいな?あくまで俺の憶測だけどな」

「すげぇ…」

 豆吉郎は感動した様に呟く。すると太一は私の方を向き、私の持つ武器について聞いてきた。

「ひよりちゃんのはどうなんだ?さっき壊れたとかどうのこうの言ってたけど」

「あっ、そうでした!でも何故か今は元通りになってます」

 私は太一に鋏を見せる。すると太一は少し考えながら言った。

「おーん…鋏については詳しくは知らねぇが、きっと分離できる仕様なのかもしれないな」

「な、なるほど……」

 私は少し困惑しながらも納得といった表情でゆっくり頷いた。これから先の任務でも付き合っていく武器(相棒)だ、この仕様には慣れないといけない。

「よし、じゃあお前ら、皆を探しに行くぞ!」

「「了解!」」

 私達は声を合わせて返事をした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ