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【Ep.14】冥と人、その2つを繋ぐ者

 これから話すのは僕―――苗場時雨(なえば しう)の過去、そしてこの世界の全てだ。


 関東某所に存在する壁に囲まれた研究都市。政府と連携した研究センターのある"Φ(ファイ)シティ"を中心に、壁周辺の区域を第1から第20区域に分けて研究センター直下で管理されている。日々巷を騒がせている異常生命体は主に研究都市周辺で目撃されており、殲滅隊(ALEC)が管理区域外への異常生命体の侵入を阻んでいると言ってもいい。

 その研究都市の東部―――"セクション・Δ(デルタ)"には、約30年近く前に時空接続ゲートが設置されている。学会で提唱されている世界構造に関する仮説の一つである"多元世界理論(世界は複数並行する世界から成るとする理論)"を証明するべく、並行世界や別次元の宇宙、果ては異世界の存在の調査の為に建設された。しかし、度重なる実験事故による帰還不能者が多発した事により現在は稼働を停止している。


 この接続ゲートにて確認された並行世界の一つに、冥界と呼ばれる場所があった。殲滅隊の上位捜査班が"セクション・ヌル"として調査を進めている場所だ。

 人は死んだら何処へ行くだろうか。天国か、地獄か、はたまた新たな生としてこの世に再び生まれ落ちるのか。

 主に"転生"という観点において、提唱される説で共通する点がある。それは『生前の記憶を消去する』という点だ。死者の魂から生前の記憶や感情を切り離し。何の穢れもない状態で輪廻転生をする。その切り離された記憶や感情はそのまま消えるのか。それを聞かれたら僕は"No"と答える。切り離された記憶は新たな形を成し、元の所有者である主の事も忘れ独立した個として生きる。死者から切り離された記憶や感情の変位形、それが"冥人(ネザリア)"だ。冥界は死後の世界ではなく、冥人の住処なのである。


 そんな冥界に一人の人間が迷い込んだ。正確に言えば調査中の事故で帰還不能となった人間がいた。それが僕の父―――苗場早霧(さぎり)である。父は研究センター所属の調査員だった。早霧は再び元の世界へ帰れる日を願いながら冥界を彷徨(さまよ)い続けた。そんな中、彼は一人の冥人に恋をした。後の僕の母であるアヤメだ。二人は恋に落ち、やがて結ばれた。しかし幸せは長く続かない。早霧はセンター支給の環境適応スーツを着用していたが、年を跨ぐほどの長期滞在は想定されておらず、スーツの機能は滞在から1年経った時点で失われていた。普通の人間である彼が冥界で普通に生きられる筈もなく、僕が生まれてすぐに彼は死んだ。

 冥人は顔が黒塗りされたようになっていたり、魔力に近しい力を持っている事を除けば殆ど普通の人間とは変わらない。温厚な性格で平和主義者だ。人間との混血だった僕は普通の冥人の様に顔が無い容姿ではなく魔力も微量(元々母のアヤメが魔力の強くない個体だったこともある)が、それでも僕は受け入れられていた。


 冥人は争いを好まない種だとは言ったが、それもある日を境に変わった。僕が人間で言う成人になった頃だった。とある冥人が反乱にも近しい行動を起こしたのだ。冥人は人間の魂から切り離された存在、ならば"人間"に戻る事も可能なのではないかと主張を始めたのだ。その冥人の意見に賛同する者は多く、彼の手で繋げられた冥界と此岸(しがん)の扉を介し、冥人達は此岸に侵攻し、"人間が人間である要素"―――つまり人間の魂を奪い、蹂躙(じゅうりん)し、食らった。しかし実際生まれたのは何だ。人間どころか人の形を成した恐ろしい怪物を世界に解き放ってしまったのだ。

 

 冥界と此岸、2つの世界を繋ぎ生まれた存在として僕はこの事態を止めないといけない。詭弁を流布した不届き者をこの手で始末しないといけない。だから僕はこの世界にやって来た。そして、異形と化した冥人を殲滅するこの部隊を見つけ、入隊したのである。

 神話では、神と人間の間に生まれた存在の事を"英雄"なんて呼ぶらしい。"英雄"は名ばかりの存在に非ず、何かしら書物に残り語り継がれるような偉業を残している。しかし、現代では語り継がれる偉業を成すのは難しい。たとえ書物に残らずとも、歴史の闇に葬られたとしてもいい。僕はこの手で、2つの世界を救ってみせる。

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