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【Ep.11-3】討神の三銃士

 拠点の廊下を足早に私―――群生圭は歩き出す。その時、3班の会議室の前で太川陽司(おおかわ ようじ)と出くわした。

「おい、圭。今から任務か?」

「はい」

 私が今まで以上に真剣な面持ちでいる事を不審に感じたのか、心配そうに彼は聞いた。

「今回の任務…相当厳しいのか?」

「はい。単独で挑むものではない、と止められた程なのでそうなのでしょう」

「まさか……独りで任務に行くつもりなのか!?」

 陽司は驚愕の表情で叫ぶ。しかし私は顔色を変えずに彼から視線を逸らして言った。

「他のメンバーには任せられない任務なのです」

 そして再び彼に目を合わせると言った。

()()()()()()()を取りに行かないといけないので」

「お、おい…それって……」

 彼の言葉を無視して私は再び歩き出した。それに着いて行くように塩崎にこが走ってきたが、彼女に構う余裕すら私には無かった。


「あの日の忘れ物って……」

 俺―――太川陽司は廊下を足早に歩いて行った群生圭を見送りながら呟く。その後を水色ツインテールの少女が走り抜けていったのを見たが、そんな事は今はどうでもいい。俺は彼の言葉の意味を考えながら会議室に入る。その時、俺はある事を思い出した。彼がその手に握り締めていた地図に付いていた赤い印は、第10区域の空地を指していた。あの空地はかつて俺達が半生を過ごした児童養護施設のあった場所だ。


 もしかして俺達を襲ったあの異常生命体が生きていて、圭は奴を独りで倒そうとしている―――!?


「すいません、俺……行かなくちゃなので!」

 俺は振り返って再び会議室の扉を開ける。

「何処へ行くんだ、陽司!会議が始まるんだぞ!それに今日はまだ任務無いだろ!」

 3班のメンバーがそう止めるが俺は止まる気なんて無かった。

「止めないでください!大事な友人を助けないと……」

 そう言いかけた時、班長代理である江久麗亜(こうひさ れいあ)が俺に近づいてきた。

(まさか、俺を怒ろうと…!?)

 少し身構えるように目を閉じる。しかし、麗亜は優しく俺の肩に手を乗せて言った。

「行って来いよ」

「…え、良いんですか?」

「大事な友達を助けに行きたいんだろ?そんな奴を止める訳ねぇよ」

「麗亜班長代理……」

 不覚にも彼女にときめいてしまった。俺は小さく頷くと、勢いよく扉を開ける。

「行ってきます!」

「あぁ、行ってこい……そして、死ぬなよ」

 麗亜の言葉に背中を押されるように俺は走り出した。 


 地図に記された場所に辿り着いた。しかし何の変哲もない住宅地が広がるのみ。漸く私に追いついたにこが息を切らしながら言った。

「けーさま、歩くの速すぎ……」

「すいません、少し焦っていたのかもしれません」

 私は彼女の方を向くと優しく微笑む。すると彼女の後ろの方に私達と同じ隊服の男が走ってきた。その姿には見覚えがあった。

「陽司!まさか、着いてきたんですか!?」

「あぁ…この話、俺も無関係じゃあないだろ?だったら俺にも協力させろ」

「ねぇ、けーさま…この人誰?」

 そう言えばにこと陽司は初対面だ。私は軽く彼女に陽司を紹介した。すると彼女は眼を輝かせて言った。

「けーさまのお友達って事は"かみさま"のお友達って事だから……よーじさんも"かみさま"?」

「お前、彼女に神呼ばわりされてんの?きっつ……」

「好きに呼ばせてるだけですよ。でも仮に塩崎君の言ってる通りであれば…陽司はどちらかと言うと、天使でしょうね」

 私は冗談めかして笑いながら言った。陽司もその言葉に釣られるように笑う。そんな時だった。私達の前に黒いローブを纏った人々が列を成して歩いてくる。人々は黒地に白で目の様な紋章が描かれた面で顔を隠していた。

「この面とローブ……やはりあの教団がまだ……」

 私達は真剣な面持ちでバスターデバイスを起動し武器を展開する。すると仮面の人々は揃って両手を上げ、呪文の様な言葉を唱え始めた。すると空が暗雲に包まれ、雷鳴と共に鎧姿の長身の男性が禍々しいオーラを纏いながら現れた。その背中には大きな竜の様な翼を持ち、顔面は黒塗りになっていた。その姿を見たにこは包丁を持つ手を震わせ、両眼には涙を浮かべていた。

「あ、あくまだ……」

「塩崎君、辛かったら言うんですよ」

 私は恐怖に震えているにこを庇うように前に出ると、男性を睨み付けて言った。

「あの日貴様に全てを狂わされた事……私達は忘れてはいない」

 その言葉を聞いたローブ姿の一人が怒りの混じった声で言った。

『主神ファフニール様の御前だぞ!言葉を慎め、愚か者!』

「……この怪物が、神と?」

『な、何が言いたい!?』

 私は顔色一つ変えず、長身の男性―――ファフニールに大斧(ラージアックス)を向けると言った。

「神とは、救済と信仰の下にある。他者に信仰される事で存在を成し、信ずる者やその周囲を救済する責務を担う。貴様は多勢の信仰の下にその手で彼らに救済を為した…そう思い込んでいる。しかしその実、貴様のやっている事は救済とは程遠い……言うなればそれは、洗脳だ!」

『ファフニール様!背教徒(はいきょうと)の言う事に耳を貸す必要等ありません!』

「お前には言ってねえ、邪魔なんだよ!」

 慌てた様に言うローブ姿の一人に対し、陽司は杖から大きな火球を放ち吹き飛ばす。その火球は勢いを増しながら突き進み、黒い一団を一掃していく。その様子を見て焦る素振りもなく、ファフニールはこちらを嘲笑うのみだった。にこは半泣きで叫ぶ。

「あんたはにこのパパとママをおかしくした……あんたなんか、"かみさま"じゃない!!」

 それに続けて陽司も叫ぶ。

「あの時(さら)った子供達は何処へやった?答えろ!」

 陽司の問いに奴は答える。

『あぁ…皆、その魂を我に捧げた』

 遠回しに言っているが、それは即ち"全員殺した"という事に等しかった。私は怒りを露わにした表情で大斧の柄を強く握り締めると言った。


「貴様が犯した悪逆非道の数々……やはり看過出来ない。因って我らが手で、"偽りの神・ファフニール"―――貴様を()()する!己の罪を、悔い改めよ!」 


 私の言葉を発端に、にこと陽司も走り出した。

「宗教戦争じゃい、おらあ!」

「ぐっちゃぐちゃに……してあげる!!」

 両親を狂わされ、連鎖的に己の心まで壊されたにこと、安住の地と愛する義親を奪われた私と陽司。境遇は違えど利害は一致している。そんな私達の、数年越しの復讐劇の幕が上がった。


 陽司が火球を数発撃つ。しかしそれを容易く躱すと、ファフニールは翼をはためかせ風を起こす。私とにこはそれをもろともせず突き進む。にこは高く飛び上がり包丁を振り上げて奴に向けて突き刺そうとする。しかし奴の持つ剣に阻まれる。私は大斧を奴の足元目掛けて強く振り抜く。私の攻撃は奴の脚に強く当たり、装甲に傷を負わせた。

『何だと!?』

 隙を見せたファフニールに対し、にこが包丁を両手で持ち、高く振り下ろす。それに対抗しようと再び剣を振るファフニールだが、その行動は陽司の火炎放射によって阻止された。

「やらせねえよ!」

『小賢しい真似を……!!』

「あっはは!いっくぞー☆」

 にこが高笑いをしながらファフニールの脳天に包丁を突き刺す。包丁は奴の兜を貫通して刺さり、その傷口から大量の黒い飛沫が飛び出す。包丁は飛沫を浴びて青白い炎を纏う。彼女は奴の頭部に跨ると再び頭部に包丁を勢いよく刺した。

「これはにこの分!これはパパの分!そしてこれは……ママの分!!」

 そう叫びながら狂気じみた笑顔で何度も同じ箇所を刺し続ける。その光景を見て、私は思わず目を逸らして溜め息を吐いた。いつもならこの位で"過剰断罪(オーバーキル)だ"と言って止める所だが、今回限りは彼女の気が済むまでやらせてあげる事としよう。ファフニールは痛みに苦しみながら叫びを上げると、人の姿を崩していく。地響きが轟く。その揺れで奴の頭部から落下したにこを、私はすぐさま受け止める。

「け、けーさま……ありがとう!」

「おい、圭!あれを見ろ!」

 陽司の指差す方に目をやる。するとファフニールは鎧姿の男から巨大な黒い龍―――の様な翼の生えた蛇の魔物に姿を変えた。

「第二形態を隠してやがったか……」

「どんなに姿が変わろうと、倒すまでです!」

 私は大斧を構え直すと、蛇の魔物に向けて手を伸ばして言った。

「主よ、彼の哀しき生命(いのち)を救いたまえ」 

 すると蛇の魔物の腹部に大きな翡翠色の十字架が浮かび上がる。

「あの十字架に向けて攻撃をしてください。そこが奴の弱点です!」

「了解だ!」

「はいはーい、おっけー!!」

 私の指示に従い二人はそれぞれの武器で攻撃する。私の読み通り、腹部を攻撃された蛇の魔物は苦しみの雄叫びを上げながら、大きな躯体(からだ)(よじ)らせ騒ぎ立てる。

「今だ、圭!やってやれ!」

 陽司の呼び掛けに軽く頷くと、私は大斧を勢いよく振りかぶり、蛇の魔物の腹部、十字架の交差点目掛けて刃を打ち込んだ。

「―――神の名を騙る罪深き悪魔(ファフニール)よ、然るべき場所に還れ!」

 蛇の怪物は悶え苦しむ様に暴れ出し、光に包まれて消滅した。

「……やった、のか?」

「やったやった!!にこたち……勝ったんだよね!」

 暗雲が晴れ、太陽が輝く美しい青空が広がる。私達は喜びの抱擁(ほうよう)を交わした。


 拠点への帰り道。毒気の抜けた晴れやかな笑顔でスキップをしながらにこが私達の前を行く。陽司が呆れたような声色で言った。

「なぁ、圭。お前よくこいつに着いて行けるよな……こういう底抜けに明るいタイプとお前ってあんまり絡まないじゃん?」

「えぇ、そうですね。私はそういうタイプの人間は苦手な方です。でも、彼女は別ですよ」

「別って……どういう事だよ?」

 陽司の問いに、私は笑みを浮かべて答えた。

「彼女を救う、そう誓ったので」

 私がそう言うとにこが此方を振り返り笑顔を見せて言った。

「そうだよ!けーさまはにこを助けるって言ってくれたもん!ね、"私のかみさま"?」

「……はい!」

 私は笑顔で返事をした。


―――義父よ、私は貴方の仇を見事討ち果たしました。そして、私も貴方の様な"誰かにとっての神"に一歩近付けた気がします。これからも私の事を、どうか天から見守っていてください。

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