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【Ep.10】酔いどれ達の夜

 同期である江久麗亜(こうひさ れいあ)と二人きりで飲める事になったので、俺―――福留太一は拠点地下にあるバーに赴いた。このバーは部隊に所属する人なら誰でも利用できる為、酒好きな隊員達の(いこ)いの場になっていた。

 入店すると既に麗亜はカウンターに座っており、俺の姿を見るなり元気良く手を振ってくれた。俺は彼女に促されるまま隣に座る。

「うぃーす、レイちゃん」

「遅いぞ、太一!」

「いや、お前が早いんだろうが……」

 俺は呆れながらそう言う。

 麗亜とはここに入隊した時から一緒に仕事をしてきた仲で、配属変更前は同じ前線2班で共に戦った。配属が変わって班が分かれてからはあまりゆっくり話す機会も無かったので、こうして飲む事が出来て嬉しい限りだ。

「まぁ、いいじゃん!とりあえず乾杯しようぜ!!」

 彼女はグラスを持ち上げてこちらに向けて笑顔を見せる。彼女の顔を見て軽く頷くと、俺も同じ様にして自分のグラスを持ち上げ、「お疲れ様」と言い合い乾杯をしてから酒を口に含む。先に麗亜が話を振ってきた。

「そういやぁ太一、お前の班に新人が入ったって聞いたけど?」

「ひよりちゃんの事?」

「そうそう!」

 羽田ひより―――俺が所属する第4班(ALEC-4)に半年前から配属された新人の女子だ。

「彼女は凄くいい子だよ。ちゃんと言う事聞いてくれるし、何というか……先輩である俺よりしっかりしてる。戦闘技術の成長も速いし、まさに期待の新人って感じだよ。あと凄いのが、彼女の使う武器が、お前と同じ大鋏って事か?」

 実際、ひよりはとても優秀だった。まだ入隊して間もないにも関わらず、その実力は既に最前線でも通用するレベルに達していた。特筆すべきは、彼女の武器素質がこの部隊でも数少ない大鋏である事だった。俺の知り得る限りでは大鋏の素質を持っているのは彼女と麗亜くらいだ。

「ほえー、マジか!いつか会ってみたいな……」

 そう麗亜は言う。彼女もまた、同じ大鋏を使う者として何か感じるものがあるのだろう。それに、ひよりもかつて自分を助けてくれたヒーロー本人と再会できたならどれほど喜ぶだろうか。想像するだけで微笑ましくなる。俺は少し微笑みながら酒をもう一口飲んだ。


「あのさぁ……麗、ちゃん…」

「どしたん?」

 酒が回ったせいか仄かに赤らんだ顔で物憂(ものう)げな眼をしながら太一が私―――江久麗亜に問う。気付けばもう2時間近く酒を飲んでいた。酒に弱く、2,3杯飲んだだけですぐに酔ってしまうのは彼本人が一番分かっている。だからちゃんと介抱してくれる人とでないと酒を飲まない事にしているのだ。太一と一緒に酒を飲んだ事があるのは私と彼の恋人である如月梓(きさらぎ あずさ)だけだ。

「俺、ちゃんとやれてるかな……」

「んだよ、急に弱音吐いて」

「俺さぁ、後輩の手本になるよう努力はしてるんだよ……だけど、いっつも上手くいかなくて……それで気付いたら後輩に引っ張られちゃってるし……俺って、やっぱ頼りないって見られてんのかなぁ……?どう思う、麗ちゃん?」

 私は彼の背中に手を置くと、優しい声色で言った。

「あんたは上手くやれてると思うよ、太一。一番長くあんたの傍にいた私が言うんだ、自信持てよ。大事な人の為に命を張れる所、私は凄いと思うぜ?本当にあんたって見る度思うけど……」

 私がそう言いかけた時、太一が此方を見て言った。

「"静さんに似てる"……だろ?それ、前も言ってた…忘れたのか?まさかお前も既に酔ってんじゃね?」

「馬鹿、あんたよりは酒強いっての!」

 私はそう言い返し、半笑いの表情を此方に見せる太一の背中を強く叩く。彼は勢いよくカウンターに突っ伏した状態になり、そのまま動かなくなった。ふと彼に顔を近付けると静かに寝息を立てているのが聞こえた。

「どうすんだよ、これ……」

 困った様に呟く私をカウンター越しにマスターが微笑ましく見ていた。

 胸に抱えた思いを酒に溶かして、酔いどれ達の夜は今日も更けていく。

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