【Ep.7-3】託したい想い
博物館での任務を終え、2班班長の麻英田理雄は第4班のメンバーに大きな期待と可能性を抱く。それは彼の過去唯一の汚点に関係があるようで―――
大きな任務を終えて、俺―――麻英田理雄は疲れ切った表情で隊員宿舎の自室に戻る。扉を開けると、俺の同居人である第1班班長の苗場時雨が、2段ベッドの下の方に座っていた。時雨も今日は別の任務に当たっていたようで、その時に傷を負ったのか首に包帯が巻かれていた。先に口を開いたのは時雨だった。
「お疲れ、マエちゃん」
「おう、時雨…お前もな」
そう言って俺は時雨の隣に座る。
「そう言えばマエちゃんが行ってた任務……第4班が救援に来たんでしょ?あずちゃんには会ったの?」
彼が"あずちゃん"と言うのは第4班の班長である俺達の同期の如月梓だ。
「あー、会ったよ。相変わらずって感じだった」
「そっか…それで、任務はどうだったの?」
時雨の質問に俺は一つ溜息を吐いてから言った。
「何とかなった……って言った方がいいかな。俺の班みんなボロボロだったし。4班来なかったら全滅だってあり得たかもしれねぇ。2班の班長なのに、後輩に不甲斐ない所見せちまった……」
「そうだったんだ……お疲れ」
「というか、4班の奴らマジで強いのな。あれが配属試験下位の集まりなんて嘘だろって感じ!もしかしたら時雨の班より強いかもだぜ!」
俺が目を輝かせながら語る。すると時雨は悲し気な表情を浮かべて言った。
「だから何度も言ったじゃない。配属試験なんて形式だけのお飾りだって。戦闘技能を測って順位を付けておきながら、集団規律を乱すようならランクが下げられるし、身内が政府関係者の隊員は金を積んで上位の班に配属なんてことだって平気であるんだよ。君の班にだって、試験順位下の方の子いるでしょ?」
「確かに、言われてみればそうだわ」
時雨の言葉を聞いて納得する。
この部隊は入隊直後に戦闘技能を測る試験を受け、その成績順で配属される班が決まる。上位から1班で一番下が4班だ。4班に所属しているメンバーは梓をはじめそこそこの手練れ揃いだが、"最弱の班"だなんて言われている。
「最弱なんて言われている4班なんて、実態は集団行動に向いてない性格難あり集団でしょ?各々の癖の強さに目を瞑れば、強さはざっと2班と同等って感じ……って思うのは僕だけかな?」
時雨は独り言のように言った。その時、俺はふと何かを思いついた。そして彼に言う。
「あいつらだったらワンチャン俺達が出来なかった事、やってくれそうじゃないか?」
「……どういう事?」
「ほら、覚えてるか?"0班最大の汚点"!」
「あぁ…あれか…0班のって言うよりは僕らのでしょ?」
"0班"―――部隊が現在の配属になる前に存在した特別部隊で、現在の上位調査班に当たる組織だ。異常生命体の住処とされる異空間"セクション・ヌル"の調査を担当する部隊で、かつて俺や時雨、梓が所属していた。その最大の汚点、それはセクション内に居た巨大な異形―――影の大龍との戦闘任務だ。影の大龍の強さに部隊は為す術なく、俺と時雨と梓以外の所属隊員は全員死亡した。結局まだ大龍は倒せておらず、現在の上位調査隊も何度も討伐にあたったが失敗している。
あの時の事は今でも鮮明に思い出せる。自分だけでも生き残らなければと必死に逃げていた時の緊迫感は時々夢に見る程忘れられない。
「あの時の俺達……特にあずは弱かったかもしれない。でも今はどうだ?比にならない位強くなってる。どうだ、時雨?あずを…いや、第4班全員を上位調査班に推薦するっていうのは」
俺の提案を聞いた時雨の顔には驚きの色が見られた。しかしすぐに彼は笑顔になって言った。
「実は僕も同じ事考えてた。でも……」
「何だよ?」
「僕らが推薦したとしても本人が受けるかどうかは分からないよ。それに、あずちゃん…今の方があの時よりも楽しそうに仕事してる気がする。僕、そんなあずちゃんの笑顔を陰らすなんて出来ない」
そう言って時雨は微笑む。俺もつられて微笑むと立ち上がって言った。
「じゃ、この話は無しだ。時雨、先に風呂入るわ」
「うん、いってらっしゃい」
そして俺は笑顔で手を振る彼を見た後、浴室へと向かった。