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65:不良皇子の謝罪

前話の後半に、昨日少し加筆しましたが話の流れは変わりありません。

というわけでよろしくお願いします。




 時折魔鬼に襲われる事はあったけれど、清乃たちは無事に御堂へ辿り着く事が出来た。

 召喚に使われた御堂には神通力が満ちているため、中に入ってしまえば魔鬼の事は考えなくていいらしい。ようやく誠英の腕から下ろしてもらえた清乃は、そこで初めて松本の様子がおかしいのに気付いた。


「先生、大丈夫ですか?」

「菅原さん、皇帝陛下は……」


 たとえ皇帝に怒りや憎しみを抱いていても、その根底には好意が残っていたのだろう。松本は蒼白な顔で震えており、風間から離れられない様子だ。

 だが、どう考えても絶望的といえる返事を清乃は口にする事が出来ない。代わりに誠英が淡々と答えた。


「見た通りだ。皇帝は亡くなった」

「……っ!」


 巨大な龍に一飲みにされたのだから、到底生きてはいられないだろう。それを分かっていても、一度は愛した男が目の前で死んだ事実に耐えられなかったのか、松本は泣き崩れた。


「どうして……どうしてあんな化け物に……」


 松本の肩を風間が抱いて慰めようとするが、嗚咽は一向に止まる気配がない。風間は痛ましげに顔を歪めつつ、誠英を見上げた。


「なぁ、皇子。あんたは知ってるんだろう? アレは何だったんだ? 龍みたいだったけど、俺たちが倒してきた神獣と同じやつなのか?」

「そうだ。黄龍は、この国の守り神のような者だ」

「あの化け物が、守り神……?」

「なら何で、皇帝を……」


 意外な言葉に、ようやく松本も僅かながらに顔を上げた。事情を知らない風間たちからすれば、なぜ国を守る神獣に皇帝が食われてしまったのかと困惑して当然だろう。

 これまで一切事情を説明してこなかった誠英も、ここが潮時だと悟ったようだった。


「我々皇家が神通力を使えるのは、初代が黄龍と交わした誓約があったからだ。だが二十五年ほど前に、皇帝はその誓約を破り黄龍を封じたのだ。代償に喰われても仕方あるまい。尤も、黄龍が出てこなければ私が殺していたがな」

「殺すって、皇帝は父親だろ? 皇子なのにボロ屋敷に住んでたってのは聞いたけど、そんなに恨んでたのか?」

「それも理由の一つだが、私の場合は母の仇だというのもある」

「母親の? 皇帝に殺されたのか?」

「そんなようなものだ。元々、無理矢理手篭めにされたのだからな」

「えっ」

「無理矢理ですって……?」


 松本が驚いた様子で目を見開く。風間が気まずそうに視線を彷徨わせるが、誠英は容赦なく話を続けた。


「私の母以外にも、皇帝に苦しめられた者は多い。私生活だけでなく、政の面でもな。各地を見て回った勇者なら分かるだろう?」

「政治のことは分かんないけど、どこも大変だったのは見たよ。あれは魔鬼のせいだけじゃないってことなんだな?」

「そういうことだ。だから今の混乱に乗じて反乱も起き始めている。皇帝の死を嘆く必要はない」


 言い聞かせるように誠英は話すが、風間も松本も清乃と同じく異なる世界の人間だ。政争で人が死ぬなんて過去の時代のことだと思っているし、クーデターが起きる事があっても遠い別の国での話で全く実感は湧かないだろう。

 だから二人も皇帝の所業が酷い事だと頭では理解しても、心では簡単に納得なんて出来ない。


 誠英はそんな二人に、最後の一押しとでもいうように言葉を継いだ。


「そもそも、皇帝はお前たちにとっても涙を流すような相手ではないはずだ。黄龍を封じたりしなければ龍脈は乱れなかったし、魔鬼も現れなかった。お前たちが召喚される事もなかったのだから」

「なっ……マジかよ……」


 自分たちに関わる事だと思えば、冷静ではいられないだろう。全ての元凶は皇帝だったのだと分かり、風間が絶句する。松本も泣き止み、「本当に私は見る目がなかったのね」と疲れた様子で呟いた。

 ようやく二人が皇帝の死を受け入れた様子を見て取って、誠英は目を伏せた。


「お前たちには関係ないこの国の事情に巻き込んでしまって、すまないと思っている。私のようなはみ出し者の謝罪では意味などないかもしれぬが、皇帝の代わりに謝らせてほしい」


 皇帝の代わりと誠英は言ったが、謝罪は本心からのものだろうと清乃は思った。

 始まりは確かに皇帝の悪行だったが、そこから異界人の召喚に至ったのには誠英たちの計画が関わっている。だから誠英は、召喚に清乃たちが巻き込まれてしまった事を心から悔いていた。事情の全てを明かせなくても、きちんと謝りたかったのだろう。


「すでに皇帝は死んだ。これからはこの国も変わる。あと私に出来るのは、お前たちを無事に元の世界に送り帰すことだけだ。許せとは言わないが、それで手打ちにしてもらえぬか」

「俺は別にいいよ。皇子のせいじゃないしな」

「私も構わないわ。全部あの人が悪かったんだもの。そしてもうあの人は死んでしまった……」


 殊勝に言った誠英に、風間と松本が頷く。清乃はホッとしつつも帰還の時が近づいている事に気が付いて、そろそろ返事をしなくてはと胸元で手を握り込んだ。


「誠英様。私も誠英様に謝ってもらいたいとは思いません」

「清乃……」

「それに、私は……」


 清乃が決意を込めて、誠英のそばに残ると言おうとした時だ。不意に外から爆発音のようなものが響いた。四人がハッとして扉に目を向けると同時、バタンと大きな音を立てて両開きの御堂の扉が開かれる。


「よっしゃ! あいつら、ここには入ってこれないみたいだぞ!」

「ツイてるな。助かった」

「もう、本当ヤバすぎ。なんであんなに追いかけてくるの? マジ疲れたよぉ」


 大量の魔鬼たちに追いかけ回されたのだろう。綺羅蘭たちが、這う這うの体で逃げ込んできていた。

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