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62:複雑な想い

「清乃とは恋仲だ。問題ない」

「だから、急にそんな事言われたって信じられないんだよ! いいから委員長を離せ、セクハラ皇子!」

「大きな声を出すな。清乃が……ああ、起こしてしまったか」

「えっ、ごめん……じゃなくて!」


 清乃が目を覚ましたのは、風間の怒鳴り声が響いた時だった。さすがに狐耳と尻尾はしまっていたようだが、未だに誠英は清乃を離していなかったらしい。

 目の前にある美麗な誠英の顔と、その向こうにいる焦っている風間を見て、置かれている状況に気付いた清乃は慌てて誠英の膝から降りた。


「あ、あ、あの、ごめんなさい。寝てしまって!」

「ほら、委員長だって困ってるじゃないか!」

「清乃、嫌だったか?」

「嫌ってわけじゃないんですけど、恥ずかしくて……!」

「嫌でないなら良かった」


 羞恥で顔を真っ赤にした清乃の頬に、誠英は堂々と口付けてくる。恥ずかしくはあるものの、触れてもらえるのは嬉しいから振り払ったりはしない。

 照れるばかりの清乃を、間近で見てしまった風間は愕然としていた。


「え、マジで委員長、この人と付き合ってんの?」

「うん……」

「マジかよ……」


 よほどショックだったのか、風間は「先生といい委員長といい、やっぱり皇子だからなのか?」「同じアジア系だし、顔なら俺だって負けてないはずなのに……」などと、聞き取れないほどの小声でブツブツと呟き出す。誠英はなぜかそれに満足したように笑みを浮かべている。

 そんな二人の様子に首を傾げていた清乃は、あっと声を上げた。


「そうだ、風間くん! 体はもう大丈夫なの?」

「ん? ああ、それは大丈夫。委員長がゲットしたレアアイテム使って、生き返らせてくれたんだろ? ありがとな」


 風間はかなり前に意識を取り戻していたそうで、どうやって助かったのか誠英に教えてもらったらしい。全ての怪我が治って生き返るというのはとんでもない話のはずだけれど、元々ゲーム感覚だったからかすんなり受け入れられたようだ。

 その時に誠英が皇子である事や清乃を心配して助けに来たことも聞いたけれど、清乃を抱きしめたままの説明だったから、つい怒鳴ってしまったのだと謝ってきた。


 そんな姿勢で説明されたら怒っても仕方ないと清乃は思うし、何ならさっさと下ろしてくれてたら良かったのにとも思う。けれど、もうこれ以上恥ずかしい話を繰り返したくはなかったから、気にしなくていいと伝えて流す事にした。


「それで、これからどうするんですか?」

「準備が出来次第、城へ戻る。混乱しているだろうが、陽妃を迎えに行ってそのまま帰還の陣のある御堂へ向かう事になるな」


 外の様子を見張っていた燦景を呼び戻し、清乃たちはとりあえず腹ごなしをする事にした。

 清乃の荷物はもう手元にないから、風間がインベントリから出してくれた干菓子ぐらいしかないけれど、少しずつ齧りながら話を聞く。


 魔鬼は清乃たちのいる神山だけでなく都でも増えているはずで、城はその対応に追われているだろうだと誠英は話す。実際にはそこに誠英の協力者たちも加わって、皇帝を倒す動きになっているのだろうが、そこまでは誠英も話さないし清乃も言わなかった。

 だが意外にも、話を聞いた風間は困惑した様子で眉根を寄せた。


「俺たちは魔鬼を倒すために呼ばれたんだろ? 放って帰っていいのか?」

「清乃から聞いたのだろう? 神獣を倒してしまったのだから、魔鬼を完全に防ぐ手立てはもうない。殲滅するにはこれから何十年と戦い続ける事になるだろうが、残るつもりなのか?」

「いや、それは……」

「無理をする必要はない。この世界へ呼んだのは我々の勝手な行いだ。本来、こちらのことはこちらで済ませるべきなのだ。お前たちにはお前たちの世界があるのだから、気にせず帰れ」

「……そういうことなら、分かった」


 穏やかに、けれどきっぱりと誠英は風間に話す。風間は綺羅蘭たちのように悪い人間ではないが、だからといって自己犠牲を尊ぶような聖者でもない。本気で残るつもりはなかったのか、どこかホッとした様子で頷いた。


 今後の動きについて一通り話を終えると、誠英と燦景は転移陣の用意をしてくると洞穴を出て行った。清乃と二人きりになると、風間は改めて清乃と向き直った。


「なぁ、委員長。前に委員長が女官をやめたくないって言ってたのは、もしかしてあの人が好きだったから?」

「うん……」

「なんだ。なら、そう言ってくれたら良かったのに」

「ごめん。でもそんなに大っぴらに言うわけにもいかなかったから」

「まあ、そうだよな。相手は皇子だし」


 風間は苦笑していたけれど、なぜそんな確認をしてくるのか清乃にはよく分からない。

 うまく話を繋げられないことに清乃が気まずさを感じていると、風間は心配そうに問いかけてきた。


「委員長はさ、あの人がいるからってこっちに残るなんて言わないよな?」

「それは……」

「如月のこともあるし、親父さんが殺されたこと、帰ったら訴えるだろ?」


 まさに今悩んでいた事を突きつけられて、清乃は口籠る。そんな清乃に、風間は畳み掛けるように話した。


「俺さ、聞いたこと証言してもいいよ」

「風間くん……」

「委員長の親父さんが死んだのって、いつ?」

「八年前だよ。私が小学三年のとき」

「八年か……。殺人の時効ってなかったと思うけど、証拠とか残ってんのかな? 俺の証言だけじゃ弱いかもしれないけど、一緒に警察行ったりは出来るからさ。だから親父さんの敵討ち、ちゃんとしよう。俺、協力するから」

「うん……ありがとう」


 なぜこんなにも清乃を気にかけてくれるのかは分からないけれど、清乃にはずっと味方がいなかったから風間の申し出は嬉しかった。もし誠英を好きになっていなかったら、心の底から感謝を言えたかもしれない。

 けれど今は、まだ気持ちの整理がついていないから言えないだけで、心の底では誠英のそばにいようと決めている。もちろん叔父と叔母にきちんと罪を償わせたいと思うし綺羅蘭のことも許せないが、やっぱり誠英と触れ合えばその温もりから離れたくないと思うのだ。父の事は一生胸にしこりは残るかもしれないけれど、誠英と会えなくなる方が苦しいはずだ。


 だからどうしても、返事は曖昧なものになってしまった。その声音から、清乃が口にしない決意に気付いたのだろう、風間は辛そうに顔を歪める。

 けれどこれ以上話すつもりはないようで、転移の準備が出来たと燦景が呼びに来るまで互いに無言の時間が続いた。

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