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57:朱雀

更新遅くなってごめんなさい。

大変お待たせしました。

投稿ペース取り戻して行けるように頑張ります。




 ここまで何度も魔鬼に襲われてきたけれど、さすがに視界を覆い尽くすような数ではなかった。無数の魔鬼が一気に襲いかかってくる様は恐怖でしかない。

 これではさすがに綺羅蘭たちも対処出来ないのではないか、もうここで終わりなのでは。そんな風に清乃は絶望していたのだけれど、わざわざ倒すために召喚された異界人としての力は伊達ではなかったようだ。


 火口に直撃しないよう気をつけつつ、日野はこれまで見せた事のない特大の竜巻を撃ち込み、竹井と風間も剣に雷や氷の魔法を纏わせて時に放ちながら応戦する。今までサポート役に徹していた綺羅蘭ですら、光の矢のような魔法で攻撃し始めた。

 しかも四人は、ずいぶんと楽しそうに笑いながら戦っている。これだけ強いなら何とかなるかもしれない、とも思ったけれど、それだけ余裕があるのなら綺羅蘭が真面目に戦い続けるはずもなかった。


「きゃあ!」

「あは、ごめーん。そっち行っちゃった」

「如月、何やってんだ!」

「やだぁ、そんなに怒らないでよリュウくん。ちょっと失敗しただけなんだからぁ」


 清乃を痛ぶるように、綺羅蘭は時折わざと魔鬼を追い立てけしかけてくる。燦景が庇ってくれるものの、さすがに数が多すぎるために何度も危険な目に遭った。風間が助けに入ってくれなければ、燦景も全力を出すために正体を現さなければならなかったかもしれない。

 綺羅蘭の浮かべる笑みは嗜虐的で、清乃が多少怪我しても構わない、むしろ痛い目に遭えばいいという思いが透けて見える。嫌われているのは分かっていたけれどここまでとは思わず、清乃はショックだった。


「菅原清乃、大丈夫? 一度引けたらいいんだけど……」

「私は大丈夫だよ。呂燦景こそ疲れてない? ごめんね、私のせいで」

「あんたのせいじゃない。性悪聖女のせいだよ」


 野宿の際に張ってくれていた結界があれば良いのだろうが、当然綺羅蘭はそんなものを用意してくれない。こちらを風間が気にするようになり、四人が魔鬼を倒すペースも落ちている。

 まだどうにか自衛出来る将軍や兵士たちと違って、清乃は完全に足手まといなのだからどこかに身を隠すべきなのだろうが、魔鬼は四方八方から押し寄せてくるから身動きも出来ない。


 心配してくれる燦景のためにも、清乃は無理矢理笑顔を作る。打ちのめされている場合ではないのだ。必ず生きて帰って、誠英に会うのだから。


 気を取り直した清乃は、傷を負った兵士の手当てをしながらじっと戦況を見守る。

 どのぐらい時間が経ったのか、さすがに綺羅蘭たちにも疲労が見え始めた頃、ようやく向こう側が見える程度にまで魔鬼の数は減ってきた。


 これまで囲まれて身動きが取れなかったのだろう朱雀も、羽ばたけるようになったらしい。火口の中心部から舞い上がり、灼熱の炎を吐いて魔鬼に攻撃し始める。

 全体を俯瞰して見ている清乃からすれば共闘といって差し支えないように思えたけれど、戦っている綺羅蘭たちはそう思わなかったのか顔を歪めていた。


「ボスが動き出したぞ!」

「まだ雑魚は片付いてねーってのに、面倒くせー!」

「もうこのまま一気に畳みかけちゃおう?」

「そうだな。日野、如月、援護を頼む! 行くぞ、竹井!」


 風間と竹井は綺羅蘭に補助魔法をかけてもらうと、日野が魔法で切り開いた道を駆け出した。突然躍りかかってきた二人に、朱雀は驚いた様子で身を翻す。


『何をするのじゃ! おぬしらは、妾の援護に来たのではないのか⁉︎』


 グギャアア!と牽制するように鳴いた朱雀の声が、不思議と清乃には意味のある言葉に聞こえた。唖然として、清乃は皆の顔を見回す。

 けれどどうやら、風間たちにはただの鳴き声にしか聞こえていないようだった。


「風間、合わせるぞ!」

「分かった!」

『やめろ! やめんか!』


 怒り狂った様子で、朱雀は風間たちにも攻撃を始める。なぜ清乃にだけ言葉が分かるのかは謎だけれど、今はそれどころではない。清乃は慌てて声を上げた。


「待って、みんな! 朱雀とは協力出来るはずだよ! 私に話をさせて!」

「はぁ? 馬鹿なこと言ってんじゃねーよ、委員長!」

「そうだよ清乃。変なこと言って邪魔しないでよね。シュンくん、リュウくん、やっちゃえー!」


 誠英たちの狙いは四神の説得だったはずだ。話を聞いてもらうために弱体化させる必要があり、清乃たちを召喚したはずだった。

 だから倒さなくて済むのならと思って言ったけれど、それを知らない綺羅蘭たちが聞くはずもなくて。日野と綺羅蘭からは睨まれ、風間と竹井には無視されてしまう。


 それでも諦めきれず、清乃は声を張り上げた。


「朱雀もお願い! みんなと戦わないで話を聞いて! 皇帝はあなたたちを裏切ったの!」

『そなたには神通力があるのか。じゃが、意味が分からぬな。大体、妾だけ戦わぬわけにはいかぬ。剣を向ける愚か者には消えてもらうぞ!』


 威嚇のような甲高い鳴き声を上げて、朱雀は業火を風間たちに向ける。

 戦いを止める術はないのかと悔しく思っていると、燦景が宥めるように清乃の肩を叩いた。


「今はまだどうにもならないよ。諦めな」

「でも、こんなのって」

「朱雀なら大丈夫だよ。死ぬまではいかないから」


 そうは言われても、と清乃はハラハラしながら戦いを見守った。

 風間たちも風魔法を使えば飛べるらしい。いつの間にやら朱雀と風間たちの戦いは空中戦へと変わっていた。

 激しい戦いに巻き込まれる形でどんどん魔鬼の数が減る中、朱雀の炎も徐々に弱まっていく。そうしてついに風間が、朱雀の翼を断ち切った。


『ギャァァァァ!』

「よし、やったか⁉︎」


 火口に向けて、朱雀が落ちていく。風間と竹井は距離を取ってその様子を眺めたが、日野が一歩前に出た。


「風間にばっか良いところ取られてたまるかよ!」


 日野は巨大な氷柱を浮かび上がらせ、朱雀に狙いを定める。いくら何でも、あんなもので貫かれたら朱雀も危ないだろう。清乃は決死の思いで日野の背に飛びついた。


「待って、日野くん!」

「邪魔すんな、委員長!」

「キャアッ!」


 思い切り振り払われて転げた清乃に、日野は舌打ちすると容赦なく氷柱を朱雀に向けて放った。

 尖った先端が深々と突き刺さり、火の粉のように羽が飛び散る。そのまま落下して火口へ落ちた朱雀の姿に、清乃は真っ青になった。


「よっしゃ、終わったー!」

「やったな、日野」

「みんなお疲れ様ー! すっごくカッコ良かったよぉ!」

「委員長、大丈夫か?」


 ガッツポーズをしている日野に、空から降りてきた竹井と綺羅蘭が駆け寄る。彼らを横目に、呆然として火口を見つめる清乃の元に風間が来たのだが。


「リュウくん、清乃なんて放っといていいよ。その子、ボスを庇おうとしたんだよ? 化け物なのに」

「そうそう、オレの邪魔しやがってさー」

「確かに話をしようっては言ってたけど……本当なのか委員長?」

「化け物じゃない。朱雀は神獣だから」


 蔑んだ目で綺羅蘭たちに睨まれて、風間も戸惑った様子で聞いてきた。清乃は拳を握りしめて顔を上げる。

 真っ直ぐに答えた清乃を、綺羅蘭が鼻で笑った。


「やだぁ。まだそんなこと言ってるのー? あんなに襲ってきてたの見てたでしょ? 私たちが戦わなかったら清乃も死んでたってわかってる?」

「それは……」

「頭下げて感謝してよね。役立たずで足手まといなのに、最後の戦いに連れてきてあげたんだからさぁ」


 望んでこの場に来たわけではないけれど、綺羅蘭たちに守ってもらったのは確かだ。言い返したくても出来なくて、清乃は黙り込む。

 ――その時だった。


「キャア!」

「うわ、何だ⁉︎」

「地震⁉︎」


 足元がグラグラと揺れて、危うく火口に転がり落ちそうになった清乃を燦景が支えた。慌てふためく綺羅蘭たちは、次いで驚きの声を上げた。


「おい、みんなアレを見ろ」

「やだ……何あれ!」

「どうなってんだよ! ボスを倒したら雑魚も消えるはずだろ⁉︎」


 数が減っていたはずの魔鬼が、地中から次々に姿を現す。そんな中でも揺れはいつまでも収まらず、火口からは真っ黒な煙が噴き出していた。


「噴火が始まるぞ!」

「総員、即時撤退!」


 燦景の叫びに、将軍たちはすぐに負傷兵を抱えて動き始めた。

 清乃も燦景に手を引かれ立ち上がる。そのまま駆け出そうとする清乃を、風間たちが取り囲んだ。


「委員長、待ってくれ!」

「菅原、お前何か知ってるんだろう。どういうことなんだ!」

「そうだよ清乃! なんで噴火するの⁉︎ みんな気をつけて戦ったじゃない」

「もうMPもほとんどないのに、どうしろって言うんだよ!」

「そんなこと私に言われても困るよ! とにかく今は逃げよう!」


 山頂から少し下った所に、ボス戦前の休憩に使った洞穴があった。山体が崩れるような大爆発でも起きない限り、噴石も溶岩流も防げるだろう場所で、いざという時はそこに逃げ込む手筈になっている。

 魔鬼とて、噴火に巻き込まれればひとたまりもないはずだ。今はとにかくこの場を離れるべきだった。


 とはいえ揺れは激しく、一人では歩くのもままならない。燦景に支えてもらいながら、清乃はどうにか綺羅蘭たちと共に逃げ込む事が出来た。

 だが、将軍たちは間に合わなかった。彼らがやって来る前に、一際大きな揺れと共に噴火は始まってしまった。


 幸い、神山の噴火は爆発を伴わない溶岩流がメインとなるもののようだった。遠くから兵士たちの悲鳴や叫び声が聞こえてくる中、風間たちが残り少ない力で結界を張り、魔法で気温の調節なども行う。

 不安な思いをそれぞれに抱えながら、清乃たちは噴火が落ち着くのを待つしかなかった。

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