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39:考えてしまうこと

 松本から衝撃の話をされたり、誠英が綺羅蘭に目をつけられたりと色々あったけれど、宴が終わってしまえばまたいつも通りの日常が戻ってきた。

 誠英は翌日こそ疲れが抜けていない様子だったが、清乃が油揚げを使った新作料理を出すとすっかり元気になった。半分狐の妖怪だと分かってからは、だから油揚げが好きなのかと清乃は納得している。世界が変わっても狐の好みは同じなのだろう。


 心配していた綺羅蘭からの接触もなく、予定通り宴から一週間後には綺羅蘭たちは次の討伐へ旅立っていったそうだ。

 そうして気持ちが落ち着いてきた所で、清乃は松本の相談事を誠英に伝えた。


 すると誠英は困惑した様子で「そんな心配をする必要はないと思うが」と言ったから、清乃は異世界人とは子どもが出来ないのかと尋ねたけれどそうではないという。

 ならどうしてそんな事を言うのかと疑問に思ったけれど、「まあ、一応は調べておこう」と無事に請け負ってもらえたので、それ以上問いかけはしなかった。


「では清乃。私は今日も七階にいるから、何かあれば声をかけてくれ。また夜にな」

「はい、よろしくお願いします!」


 調べると約束はしてもらったけれど、誠英の事だ。清乃はてっきり、部下の誰かに頼むのだろうと思っていた。

 けれど意外な事に誠英自ら崙雀閣に足を運び、まだ整理の終わっていない書庫で調べてくれている。


 これまでも朝は送っていってもらっていたけれど、もうさすがに迷わないし顔見知りだって増えたから部外者と勘違いされて門前払いされる事もない。

 一人でも充分辿り着けるのだから、屋敷の仕事をしてから向かう清乃を置いて先に行っても構わないのに、律儀に待っていてくれる所が誠英らしいなと思う。


 ただこれは行きだけの話しだ。帰りは夕食の支度や洗濯物の取り込みなどもあるので、清乃の方が少し早く崙雀閣を出ている。

 いつも何かしら動いている清乃が、唯一自分の時間を持てるのが寝る前とこの帰路の間だ。ぼんやりと歩いていると、自然と脳裏に浮かんでくるのは誠英の事だった。


(あと半年で、誠英様をお世話してくれる人なんて見つかるのかな)


 綺羅蘭たちが旅立ってから一週間ほど経ったこの日も、清乃は誠英の事を考えながら帰り道を歩いていた。

 清乃の後任を探し出さなくても、燦景がやっていたようにきっと祠部の誰かが最低限の事はしてくれるのだろう。それでも誠英の孤独と秘密を知った清乃としては、一人でいいから理解者がそばにいてくれたらと願って止まない。

 そう思うと、今度は松本の言葉が頭を過ぎる。


(先生はこっちに残るかもしれないんだよね。……私はどうしたいんだろう)


 清乃の両親はすでに他界しているし、引き取ってくれた如月家に良い思い出もないから、元の世界には大して未練がない。叔父には恩があるけれど、これまでの献身で許してもらいたい所だ。

 心残りがあるとすれば両親の墓を放置する事になるということと、ようやく見つけたバイトのことぐらいだろうか。


 とはいえ、時間の流れが同じなら帰る頃には一年経っているはずで、バイトはとっくにクビになっているだろう。そもそも高校はどうなっているのだろうか。綺羅蘭の事は休学にしても、清乃の事は退学させられている可能性だってある。

 そんな風に思えば、どうしたって帰りたいという気持ちは薄くなる。


 けれどやはり世界が違うし、清乃の身分だって不安定だ。現代日本と違って職業選択の自由もほとんどないようだし、魔鬼という危険な存在もいるのに清乃には特殊な力もない。一人で生きていけるかと言ったら正直難しく、ここに残るとはそう簡単に決められるものでもなかった。

 それに……。


(いつか誠英様の理解者が現れるかもしれないし)


 もしそうなったとしても、誠英が清乃を見捨てるとは思えないけれど。清乃の目の前で、誰かが誠英の隣に立つようになったらと思うと胸がギュッと痛んだ。


(違う。これはキララが一緒にいたのを思い出しただけで……嫌なのは残っても無駄になることだよ。帰還の陣って開くのは一度だけなのかな? いつでも帰れるなら問題ない。きっとそう)


 胸の痛みは直視せず清乃は思考を切り替える。最近頻繁に起こるこの気持ちを深追いしては、帰る時により辛くなりそうだ。


 せっかく崙雀閣に出入りさせてもらっているのだから、書庫の整理の傍ら召喚について調べてみてもいいのかもしれない。思い返せば、魔鬼を倒さないと帰れないと言ったのは皇帝だった。あの皇帝なら思い通りに事を運ぶために平気で嘘を吐きそうだ。

 誠英に聞けば早いのかもしれないけれど、彼だって全てを知ってるとは限らない。松本の悩みについて調べてもらっている最中だし、それぐらいは清乃が自分で調べるべきだろう。


 そんな事をつらつらと考えながら歩いていたから、怪しい人影が近付いている事に気が付かなかった。まだ陽も落ちていないから、無体を働く者がいるなど考えもしなかったというのもある。

 後ろから突然口を塞がれて、清乃は抵抗する間もなく物陰に引き込まれてしまった。

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