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33:不良皇子の真実

 直接誠英に聞いてみようとは決めたものの、人の秘密に触れるのだ。どうしたって緊張してしまう。

 そんな落ち着かない気持ちのまま魄祓殿へ戻り厨房に立っていたら、いつの間にか夕食の食材は肉も野菜も全て細かく刻まれていた。

 仕方がないので予定を変更し、そのまま餃子にする事に決める。小麦粉を練って皮を作り具を包むという工程も、意識を逸らすのにちょうど良い。


 日没には間に合ったものの、いつもより帰るのが遅くなってしまったから、夕食の準備が誠英の帰宅に間に合うか少し心配だった。

 けれど無心で作ったからか、どうにか間に合わせる事が出来た。後は焼くだけという頃に、タイミング良く誠英は帰ってきた。


「いい香りだな。今日は焼餃子か?」

「はい。誠英様のお好きな大葉(ダーイェ)も入ってますよ」

「それは楽しみだな。酒が進みそうだ」


 非常に聞き辛い事を尋ねるつもりでいるけれど、酒が入るのは果たして良い事なのか悪い事なのか。機嫌の良さそうな誠英を見ていると、より一層清乃は悩んでしまう。

 とはいえ、先延ばしにしても仕方がない。食後になるだろうけれど、頃合いを見てどうにか切り出さなければ。


 そんな事を思いつつ料理を並べて、あまり食欲が湧かないまま誠英が食べ進めるのを眺めていると、様子がおかしいと気付いたのだろう。誠英は不意に箸を置いた。


「清乃、どうかしたのか?」

「え……。いえ、あの」

「ずいぶん不安そうだ。料理なら問題なく美味いが、聞きたいのはそういう事ではないのだろう?」


 誠英は珍しい銀髪ではあるけれど、切れ長の瞳は驚くほど混ざりのない漆黒だ。見つめられると、全てを見透かされているような不思議な気持ちになる。

 清乃は覚悟を決めて切り出した。


「実はその、お聞きしたいことがあって。……誠英様のお母様のことなんですけど」


 諫莫と同じように、誠英もなぜそんな事を聞くのかと問うてくるかと清乃は思ったけれど、誠英はゆっくり目を伏せただけだった。


「そうか、知ったか」


 重く呟くと、皮肉げに誠英は口角を上げる。次いで向けられた瞳は、清乃がこれまで見たことのない冷たさを感じるものだった。


「さて、どこから話そうか」

「あの、私が何を聞いたのか、お聞きにならないんですか?」

「聞かなくても分かるからな。母が妖怪で、私が化け物の子だという話だろう? その通り、事実だよ」


 何の感情も窺えない平坦な声音は、強固な壁を作られているようだ。母親の事は誠英にとって絶対に触れられたくない事だったのだと清乃は気付いたけれど、もう後の祭りだった。


「私の母は九尾狐(ジゥウェイフー)という狐の妖怪だ。私には皇帝と妖怪の血が流れている。人ではないから、髪だってこんな色だ。恐ろしくなったか?」

「恐ろしくなんてありません。私の世界には、色んな髪色の人がいるとお話したはずですよ」

「……そうだったな。では、これは?」


 いつもの誠英に戻ってほしい。妖怪との子だからといって、清乃はどうとも思っていない。

 そんな気持ちで即答したけれど、次の瞬間息を飲んだ。誠英の頭から三角の狐耳が飛び出して、ふさふさの尻尾まで現れたから。


「これで分かったか? 私は人ではない。化け物と呼ばれて当然なんだ。……わかったら明日の朝、諫莫の元へ行け。崙雀閣の女官としていられるよう、計らってくれるはずだ」


 清乃が固まったから、ショックを受けていると誤解させてしまったようだ。スッと立ち上がった誠英に、清乃は慌てて手を伸ばした。


「待ってください!」

「何のつもりだ?」

「その尻尾、触らせてもらえませんか!」

「……は?」


 誠英は唖然としているけれど、清乃としては大真面目だった。目の前で突然耳と尻尾が生えたのだ。どうなっているのか興味は尽きない。


「お前、私が怖くないのか?」

「怖くありません。私が聞きたかったのは、怖いからじゃないので」

「ではなぜ?」

「誠英様はお辛くないのかなって思ったんです。ここに閉じ込められていたんですよね?」

「……どうしてそう思う?」


 清乃はしっかりと誠英の腕を握ったまま話した。屋敷の掃除中に牢格子の部屋を見つけていた事、そこに誠英が閉じ込められていたのではないかと思っている、という事も。


「危なくないって分かって今は出してもらえたんでしょうけど、この屋敷に住むよう皇帝から命じられているんですよね? でもそんなのって、辛いんじゃないかと思うんです」


 化け物と忌避されているから、屋敷を手入れしてくれる者もいない。そして荒れ果ててしまっても、居を移す事も許されないのだろう。

 そう思って清乃は話したのだけれど、意外にも誠英は笑った。


「はは。何だ、私を心配してくれたのか」

「そんなにおかしなことですか?」

「おかしいだろう。この姿を見ても怖がらないなんて」

「私の世界には、もっと変な仮装をする人もたくさんいます。むしろ可愛いですよ」

「可愛い⁉︎ お前の世界は一体何なのだ」


 清乃はやった事はないけれど、ハロウィンの時期に綺羅蘭が仮装イベントに参加しに行くのは見た事がある。

 その時綺羅蘭は小悪魔の仮装をしていたけれど、綺羅蘭を迎えに来た竹井はフランケンシュタインで日野は血塗れのゾンビになっていた。それと比べたら狐耳と尻尾なんて可愛いだけだ。


 清乃は真面目に話しているというのに、誠英がついには爆笑し始めたから唖然としたけれど、冷たい空気が霧散した事は良かったと思えた。




おかしい。シリアスになるかと思ったのに、書いてたら誠英が爆笑してました。

次話、誠英視点になります。


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