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異世界の人間はステータスにしか興奮しないらしい

作者: 榎本快晴


「なるほどこれは異世界召喚ですね。任せてください女神様。いただいたチート能力を駆使して、必ずや魔王を倒してみせましょう」


 召喚されてわずか三秒。

 僕はほとんど即座に状況を理解し、目の前に佇む麗しき女性にそう告げた。


「は、はあ……ずいぶんと理解が早いんですね?」

「近年はそういった創作物が溢れていますから。ここまで典型的な形で召喚されれば、どんなに僕が鈍感でも察しがつくというものです」


 見るからに『ここは天界です』と言わんばかりの、草花に覆われた美しい大地。小鳥の囀りや小川のせせらぎが心地よく、僕の新たな人生にファンファーレを送っているように聞こえた。


「さあ女神様、そういうわけで細かい説明は要りません! いろいろあって現世に未練もありません! 遠慮なく僕を異世界に送り込んでください!」

「あの……話が早いのは大変ありがたいんですが、いちおう詳細な説明を聞いていただけますか? リスクも大きな話ですので」


 もはや一秒も待ちきれない思いだったが、そう言われては仕方ない。

 分かりましたと頷いて、女神の話に耳を傾ける。


「お察しのとおり、あなたに依頼したいのは異世界の魔王討伐です。討伐の助けになるよう、私からチート能力の贈呈特典もあります」

「なるほど。それでは早速」

「待ってください。ここから先が大事なんです。今回あなたが行く予定の異世界は、これまで送り込まれた転生者がすべて返り討ちに遭っている超絶難易度の世界なんです」


 ごくりと女神は生唾を呑み、迫真の表情を作ってみせた。


「魂が本来あるべき世界と異なる世界で死を迎えれば、二度と輪廻に戻れません。永遠に存在が失われてしまいます。急かしはしませんので、まずはそのリスクを十二分に考慮した上で――」

「分かりました。行きます」

「決断が早くないですか?」


 その程度のリスクなど、まったく意に介さなかった。

 なぜなら――


「僕は異世界でチート能力で思う存分活躍してモテモテになりたいんです」

「はい?」

「聞こえませんでしたか? 僕はモテモテになりたいんです。一人や二人ではなく何十人も素敵な女性を囲ってハーレムを築きたいんです。そのチャンスを目の前にして、尻込みする理由はありません」


 あぁ……、と女神がため息をついた。

 心の底から呆れたような表情である。


「残念ですが、そうした動機での転生はオススメできません」

「不純だからですか?」

「いいえ。これからあなたが行く異世界で、あなたが異性にモテることは基本ありえませんので」

「なぜ? チート能力で女の子をピンチから救いまくれば、自然とハーレムが形成されるのが異世界の摂理ではないのですか?」

「どこで学んだんですかそんな摂理。あのですね、世界が違えば価値観も違うんです」


 そう言うと女神は眉間に皺を寄せて指を立てた。


「たとえば、あなたの世界には孔雀という鳥がいますね。あれは美しい羽を持つオスほどメスにモテます。蝉なんかも鳴き声の大きさでメスを奪い合うそうです。そうした生き物が人間とまったく違う価値基準をもってパートナーを選ぶように、異世界の人間も地球の人間とは価値基準が違うんです」

「待ってください。それはおかしくないですか? 人間は動物のように単純ではありません。容姿であったり能力であったり収入であったり……そういった複数要素を考慮して伴侶を選ぶものでしょう?」

「それは、あなたの世界における常識です」


 女神は冷徹に切り捨てた。

 人間に近い容姿ながらも、そこには人間を孔雀やセミと変わらぬ動物と断じているような雰囲気があった。


「異世界においては、ステータスのみが異性の評価基準となるんです」

「ステータスが……?」


 はい、と女神は頷く。


「あなたの世界の人間が複合的な価値観で異性を測るのは、明確な指標が存在しないからです。しかし異世界には、人物の価値を示す絶対的な指標――ステータスが存在します。異世界においてステータスこそ、唯一絶対の異性を測る基準なのです」

「待ってください。だとしても……僕はチート能力をもらって凄まじいステータスで異世界に行けるのでしょう? それなら結局モテモテになれるんじゃないですか?」


 女神は残酷に首を振った。


「いいえ。神の与えたステータスは規格外なため『表示不可能』となります。もちろん他者を助ければ尊敬も感謝もされるでしょうが、『表示不可能』というステータスは異世界の人間において完璧に恋愛対象外です。恋愛方面では無機物みたいな扱いを受けるでしょう」

「つまり……僕がどれだけ頑張っても『いい人だけどちょっと恋愛対象にはならないよね』って評価の男で終わってしまうわけですか……?」

「そうなります」


 僕は愕然として膝をついた。

 だが、己を奮起させるように拳で地を叩く。


「なら……! 僕のステータスにチートはいりません! ちょうどいい感じにモテそうなステータスに調整していただくことはできますか!?」

「うーん……特典を下方修正することは簡単ですが、それこそモテるステータスというのも千差万別ですからね……。ステータスは絶対の基準ですが、どんなステータスを好むかはわりと個人差があるんです」


 たとえば、と女神が空中に数値表を投影する。


【神官】

性別:女性

レベル:25

HP:1

MP:9999

攻撃力:1

防御力:1

魔法力:855

素早さ:1

器用さ:1


習得スキル

【回復魔法:極意】【支援魔術:極意】【魔力回復:特大】……



「このステータスをどう思いますか?」

「めちゃくちゃバランス悪いなって思います。ヒーラーがこんな紙装甲だと怖すぎますよ」

「これはいわゆる『あざとい系ステータス』の代表格で、【護ってあげたくなるステータス】とか【放っておけないステータス】などと呼ばれます」

「【護らないと即詰むステータス】の間違いじゃないんですか?」


 ゲーム的に考えてみても、明らかに最悪なステータスの伸ばし方だ。異性へのアピールが最優先すぎて実用性が皆無になっている。


「もちろんこれはあざとすぎるステータスなので、批判的に言われることもあります。【パーティーの姫プレイしたがる奴のステータス】……通称【姫ステ】など揶揄されることが多いですね」

「でしょうね。ネトゲのパーティーにこんな奴きたら即キックしますよ僕」


 姫どころか荒らしである。


「ですがゲームでなく異世界においては現実なので、【姫ステ】してる側も命懸けではあるわけです。矢が一本当たったら死ぬリスクを背負って姫プレイするわけなので」

「そう考えるとこのステータスの子ってちょっと怖いですね……」


 ステータスからぶりっ子な女性のイメージを浮かべていたが、その内面には狂気的な何かが住み着いているのかもしれない。


「ちなみに、一国の王女に実際【姫ステ】の方がいたんですが、配下の士気が尋常でなく高かったそうです。近衛騎士団に神輿を担がせ『貴様らが妾の攻撃力であり防御力であり素早さであり器用さじゃ! 妾に刃風の靡きたりとも届かせるでないぞ!』と鼓舞するので」

「それはちょっとカッコいい姫プレイですね……」


 と、感心したところで気付いた。

 話が本題からずいぶん逸れている。もともと『どんなステータスにすればモテるか』という話だったはずだ。


「女神様。姫ステの話はもういいので、今度は男性ステータスの例を教えてください」

「そうですね……たとえば」


【魔法剣士】

性別:男性

レベル:65

HP:6600

MP:3500

攻撃力:530

防御力:450

魔法力:500

素早さ:280

器用さ:400


習得スキル

【攻撃魔法:上級】【回復魔法:中級】【補助魔法:中級】【体力回復:大】【魔力回復:中】…


「おお。さっきのよりずいぶんとバランスがいいように見えますが」

「これは非常に女性受けが悪いステータスです」

「えっ?」


 一瞬、聞き間違いを疑って女神を二度見してしまった。ここまで即戦力に思えるステータスのどこが悪いのか。


「いわゆる【思考停止ステータス】あるいは【堕落ステータス】と呼ばれるものです」

「どうして。万能型の頼りになるステータスに見えますよ?」


 女神は少し唸って、


「言ったでしょう。この世界においてステータスというのは、あなた方の世界における容姿でありファッションでもあるんです。何の面白みもなく順当にステータスを伸ばす行為は、現実世界でいう『身だしなみに一切気を遣わない人』のような扱いを受けます」

「なんかピンとこないんですが……」

「だらしなくお菓子をたくさん食べては太ってしまうでしょう? このステータスも漫然と考えなく伸ばした【だらしないステータス】とみなされてしまうんです。なんならこのステータスを見ただけで『うわ、クッサ。風呂入ってなさそう』『いつまでも実家住んでそう』と蔑まれることすらあります」

「なんでステータスだけでそんなこと言われなきゃいけないんですか。この魔法剣士の人があまりにも可哀想です」

「まあ、モデルになった魔法剣士さんは四十歳過ぎの実家暮らしで週一しか風呂に入ってなかったんですけど」


 げんなりした。

 そんな説得力のある事実で殴られてはこちらもそれ以上反論できない。


「……っていうか、そんな風に実用性と逸れたところでステータスに余計な価値を見出してるから、この世界は魔王に滅ぼされかけてるんじゃないんですか?」

「否定はしません」


 求愛のため派手な尾羽を伸ばし続けた結果、捕食者にも発見されやすくなって絶滅した鳥の話を聞いたことがある。この世界の人類も、そうした残念な方面に進化してしまったのだろう。


 女神は「ちなみに」と前置いて、


「魔王もこの世界の元人間です。【ステータス上昇速度アップ:極大】【ステータス限界突破】というレアスキルを持って生まれたんですが、あまりに上昇幅が激しすぎるため【気色悪いステータス】【変な病気持ってそうなステータス】【見ただけで吐けるステータス】などと周囲に蔑まれ続け、闇堕ちした結果が今です。本来はレアスキルといえど転生者のチート能力より性能は劣るはずなんですが、それを覆すくらい世界への憎悪が深かったんでしょうね……」

「もうこの世界滅んだ方がいいと思います」


 女神が空中に魔王の姿を投影した。

 荒野にうずくまる巨大な怪物は、ただ静かに『滅ぶべきだ……人間など……』と呟いている。哀愁と虚無感。不覚にも僕は魔王に対して強いシンパシーを覚えてしまった。


「憎悪のあまりこのような姿に変貌してしまった魔王に対し、異世界の人間たちは『やっぱりあいつ変な病気だったんだ!』『ステータスめっちゃキモかったもん!』と確信を深めるに至り……」

「もういいです、女神様。僕はもう……この異世界を救う気にはなれません」

「そうですか……。私としても死地に人間の魂を送り込むのは気が引けましたので、それならそれで構いません」


 そのとき。

 魔王を映していた空中映像に、別の人影が映りこんだ。


『見つけたぞ魔王! 俺たちが相手だ!』


 それは冒険者の一団だった。その数は数十名。徒党を組んで魔王を倒そうという算段なのだろうが、


「ああっ、なんてことでしょう。魔王の力はあまりにも強大……この程度の戦力で敵う相手ではありません」


 実際その通りだった。

 魔王が面倒くさそうに腕を振っただけで、冒険者たちはあっけなく風圧に吹っ飛ばされた。それだけで意識を失った者も多々いる。


 しかし、さきほどから僕の視線は別のところに向いていた。


 吹き飛ばされた冒険者たち。その中の女性メンバーはいずれも――なんか妙に露出度の高い装備を着ていた。いや、女性だけでなく男の方も露出は多い(筋肉丸出し)のだが、そっちはどうでもいい。


「あの女神様。なんであの人たち、あんなに露出多めの装備なんですか?」

「この世界はステータスが恋愛の基準ですので。性的嗜好の対象も当然ステータスとなります。ですので、肌の露出に対する羞恥心があまりないのです。男女の浴場やトイレも分かれていませんし……」

「行きます」

「えっ」


 たった数秒で、僕の心は完全にひっくり返った。


「お願いします女神様。僕はこの世界の素晴らしさを知りました。滅びの危機を見捨てるわけにはいきません。どうか僕に、この世界を救わせてください……」


 滂沱の涙を流す僕に対し女神様は、


「さっきまで『滅ぶべき』とか言ってたくせに、よくその温度感で泣けますね。情緒イカレてないですか? まあいいですけど。じゃあチート能力はどうします? 『表示不可能』のチート能力値にしますか? それとも他にリクエストは……」

「あの魔王と同じレアスキルをください」

「え?」


 僕は泣きながら笑った。

 女神はあくまで冷めた面をしていた。


魔王あいつに教えてやるんです……。この世界も捨てたもんじゃないって。どんなに蔑まれようと見下されようと、別ベクトルで世界を楽しむ術はあるんだって。まったく同じ能力を持つ仲間としてだったら、その言葉があいつに届くかもしれない……」

「倒さずに止めるというんですか?」

「ええ。後発の僕が同じレアスキルを持っていても勝ち目はないでしょう、でも、男としての熱い魂を共有する親友ともになれたら、きっとこの不毛な争いを終わらせることができる」

「なんかゲスのくせにいいこと言ってる雰囲気なのが腹立ちますね。分かりました、じゃあ異世界に送りますよ」


 女神が掌を広げると、異世界に通じるゲートが生じた。


「ありがとうございます。では!」

「あっ! ちょっと待っ……まだゲートの行き先設定が……!」


 女神の慌てる声がしたが、もう遅かった。

 既にゲートに前のめりで飛び込んでいた僕が飛ばされたのは――


「貴様……どこから湧いてきた。む? その異質な気配。さては女神の差し金か?」


 巨大な怪物。魔王の目の前だった。

 冒険者たちはすでに全員倒れ伏しており、僕が一人で魔王と相対している形だ。


「まあいい。女神の手先だろうが何だろうが、我の力には及ばん。虫けらのごとく叩き潰してくれる」

「待て魔王。これを見ろ! ステータスオープン!」


 往々にして異世界では『ステータスオープン』と叫べばその場にステータスが表示されるものである。

 予想的中。僕の正面にゲームじみた四角形の枠が表示され、そこに文字列を記す。さきほどまでと違って異世界言語での表示になっており、日本語ではなくなっていたが、意味は僕にも理解できた。


【初級冒険者】

性別:男性

レベル:1

HP:100

MP:10

攻撃力:1

防御力:1

魔法力:1

素早さ:1

器用さ:1


習得スキル

【ステータス上昇速度アップ:極大】【ステータス限界突破】


 ゴミのような数値だが、肝心なのは一番最後のスキルだ。魔王にもこれで「自分は同じ業を背負った仲間だ」と伝えるのだ。

 ところが、


「ぎゃああああっ!?」


 魔王は悲鳴を上げていきなり大きく飛び退いた。


「どうしたんだ? 僕は仲間だぞ! 怯えないでくれ!」

「だ、誰が仲間だ! そんな風にいきなり生ステータスを開陳する奴などと我を一緒にするな! この変態!」

「生ステータスを開陳……? それはいけないことなのか?」

「当たり前だろう! 普通に捕まるぞ! 夜道でいきなり生ステータスを開陳する変態がよく捕まってるだろうが!」


 しまった。最初からコミュニケーション失敗だ。

 どうもこの世界で、迂闊に「ステータスオープン」してはならないらしい。この魔王の反応は、いきなり服を脱ぐ変態を前にしたときと同じだ。


「いや、待ってくれ魔王! だとしたらこの世界の人間はどうやってステータスを他人に伝えているんだ? さっきの生ステータス画面を写真とかで撮って手渡すのか?」

「しゃ、写真!? ふざけるな! そんな気軽にステータスポルノを量産するな!」


 写真で生ステータスを撮影することはステータスポルノの製造に該当するらしい。まだ僕はこの世界で学ぶべきことが多々あるようだ。


「じゃあどうやればいいんだ?」

「ククク。冥途の土産に教えてやろう。ステータスの書面化は行政機関において、しかるべき所定の様式で発行されなければならない。行政サイドは字体や書式を極めて事務的に整え、性的な雰囲気を極力排さねばならない。それが正しいステータス証明書の発行法だ」

「くっ、まるで住民票みたいだ。エロスの介在する余地がない」


 まあ、もともと僕にとってはステータスなんか最初から興奮の対象外ではあるけれど。


「無論、手書きでのステータス記載など論外中の論外だ。自らの筆跡でステータスを記すなど猥褻すぎる。けしからんカップルの一部には、お互いの手書きステータスを交換してお守りにしている輩もいるようだが」

「それは……理解はできないけど無性に滅ぼしたいですね」

「ほう?」


 魔王は巨大な牙持つ口をにやりと開いた。


「貴様、分かるか? この世界の歪さが……?」

「ああ、よく分かる。人間にはステータスなんかよりもっと素晴らしいものがある。この世界の人間は……数値なんかに囚われて、もっと人間として大事なものを忘れている」

「ならば共に世界を滅ぼさぬか? 貴様のそのスキルがあれば、いずれ我に次ぐ実力者となろう……」


 僕は笑って、しかし首を振った。


「逆だよ、魔王」

「逆? 逆とは何だ?」

「誘うのは僕の方だ。この世界を滅ぼすのはもったいない。一緒に――楽しまないか?」

「楽しむ? 正気か? この腐った世界をどう楽しめというのだ!」

「魔王。君の目にとってこの世界は滅ぼすべき掃き溜めにしか映らないだろう。だけど、それもまたステータス至上主義から脱却できていない証拠なんだ。僕と一緒に来い。そして君の中に新しい地平が拓けたとき――この世界も捨てたものじゃないと思えるようになるだろう!」


 そう言いながら僕は背後をちょっと振り返って、倒れている女冒険者たちの露出多めな姿を見た。心に温かなものが満ちた。


「この我も、ステータスの縛めから抜け出せていないだと? ふざけるなよ、貴様……」

「なら賭けをしよう。僕はこの呪われたスキルを持ったまま、面白おかしく、そして楽しくこの世界を生きてみせる。そんな僕の姿が羨ましいと思ったら、僕と一緒に来い。楽しい人生の過ごし方を教えてやる」


 魔王は微かに唸った。


「後悔するぞ。人間はみな、貴様を蔑んで迫害することだろう。それから我に助けを乞うても、もはや知らんぞ。我は二度も慈悲をくれてやるほど甘くない」

「僕はわりと甘い方だから、君がいつ宗旨替えをしても大歓迎さ」

「……いいだろう。その賭け、乗ってやる」


 やがて魔王は背を向け、荒野の向こうに歩みだした。

 去り際に一つ問う。


「なぜ貴様はそう確信できる? その呪われたスキルを持ってなお、笑って生きることができると……」

「簡単なことだよ」


 僕は笑って答えた。


「人間の本当に美しい部分は、ステータスなんかじゃない。その本当に美しいところをこの世界で心ゆくまで観賞しまくれると――信じているからさ」


 魔王は一瞬だけ立ち止まって天を仰いだ。


「楽観的なことだな。しかし我は……憎さのあまり、敢えて醜い部分しか見ようとしてこなかったのかもしれんな……」


 ずしんずしんと大地を揺るがしながら魔王が去っていく。

 僕は目を細めてその背中を見送った。


 彼もいつか分かるはずだ。ステータスなんかに拘るより、新しい扉を開いてしまえばこの世はいろんな素晴らしいものが見放題のパラダイスなのだということを。

 その日には最高のスケベ仲間として異世界ライフを謳歌しよう。


「次は親友ともとして語らおう、魔王……!」


 これからの華やかな未来に目を輝かせ、僕は拳を握った。


――――――――――――――――……


「まったく……おかしな人間だった。我をここまで愚弄するとは」


 荒野のさらに果て。

 瘴気によって空間の歪んだ魔境と呼ばれる地帯で、魔王はその巨体を地に降ろした。


「だが……我を見ても恐れず、ステータスなど関係ないと言った人間は初めてだったな。少しだけ面白い奴だ」


 がしゃん、と。

 巨体の関節部に裂け目が走り、ガラガラと崩れていく。


 この巨体は強すぎる魔力をセーブするために、魔王が自ら構築している外装鎧である。この魔境にあっては空間そのものが鎧の替わりを果たすので、装備を解除することができる。


 そこから現れた姿は、


「まあ、どこまで強がれるか気長に見せてもらうとしよう。泣いて赦しを乞うてきたら下僕にするのもまた一興かもしれんしな……ふふ」


 世にも美しい少女の姿だったのだが、今は世界の誰もそのことを知らない。


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[一言] 男のモテるステータスって攻撃と素早さに極振り位しか思い付かんな
[良い点] これは続きがめちゃくちゃ気になるやつ! 連載するつもりはないですか?
[良い点] めちゃくちゃおもしろいです。 アイデアも素晴らしいし、テンポ、展開力からオチまで完璧で文章力も高く最高です。 天才すぎます。
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