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92. あれは……

 クリスマスと名付けられた忘年会(ぼうねんかい)は、集まった家族や家人達により大いに盛り上がって終了した。


 そのあと僕らは、みんなの寝静(ねしず)まるのをまって王都のスラム街へと向かった。


 王都中のストリートチルドレンに温かいスープとあまーい(いも)、そして(わら)()み上げたブーツ。


 まったくささやかなプレゼントなのだが、これが精いっぱいなのである。


 決して金銭や人手の問題ではない。


 この子たちにはこれ以上の物は渡せないのだ。このスラムという場所では……。






 年が明け、祝賀(しゅくが)のあいさつを行うべく僕はクロナと王宮へ参内(さんだい)している。


 国王様との対面を済ませ、僕たちは謁見の間(えっけんのま)を退出して廊下(ろうか)へ出てきた。


 するとそこには、王宮メイドが2名待機しており こちらに頭を下げている。


 「カルロ様、新年のご挨拶(あいさつ)をありがとうございました。早速(さっそく)ですがロイド様がお呼びでございます……」


 僕は、待機(たいき)させていたシロ達を連れ、ロイド様にお会いするため案内された応接室に入った。


 お茶飲みながらしばらく待っていると応接室の扉が開き、


 「カルロくん、呼び立ててごめんなさいね~。伝えておきたい事があったのよ」


 「いえいえ、年明けからロイド様のお顔を拝見(はいけん)できて こちらこそ光栄に存じます。これは些少(さしょう)でございますがお年賀(ねんが)にとお持ち致しました」


 「カルロくん、相変わらず受け答えがジジくさーい。でも、ありがとね! いつも気を使ってもらって」


 「うわっ、重っ! なにがはいっているの?」


 「ハハッ、良しければお口よごしにどうぞ。(うち)の父が作った芋を加工したものになります。……こちら『芋ようかん』でございます」


 白磁(はくじ)の皿に芋ようかんを3切れのせ、竹楊枝(たけようじ)と共にお出しした。


 「まあ、ありがとう。さっそくいただくわね。……これ良いわね! この上品な甘さが(くせ)になりそうだわ」


 そして、すかさず湯呑(ゆのみ)に緑茶をいれて差し出した。


 「あ――、さすが! 分かっているわね~。私もこっちだと思ったのよ」


 「お()めにあずかり光栄です。それで、お話というのは?」


 「うん、ちょっと待ってね、もうひとつ頂いてからね」






 「ふぅ、美味しいわ。また、すごいものを持ってきたわねぇ。うふふっ」


 「さて、今日呼んだのはね…………」


 ロイド様からのお話は、昨年()れにアルバートお父様に(うか)ったものと大差はなかった。


 だが、スラミガ帝国の(ねら)いはローザン王国ではなかった。


 クルーガー王国やローザン王国の北方海域(ほっぽうかいいき)には大きな島が3つ存在している。


 この3つの島は結束(けっそく)しており、他方(よそ)からは『ザルツ連邦(れんぽう)』と呼ばれている。


 広さでいえば、3つの島合わせるとクルーガー王国の1/3程になるようだ。


 そして、主な産業としては漁業、そして貿易(ぼうえき)である。


 近年では貿易に力を入れており、足の速い中型船を利用した『対外貿易(たいがいぼうえき)』が盛んに行こなわれている。


 そして、スラミガ帝国が海軍を使い侵攻(しんこう)してきているのは、ザルツ連邦の本部が置かれている『ザルツ島』であることが明らかになった。


 「まあ、冬場は海が荒れちゃうでしょう。だから、本格的に動いてくるのは春以降になりそうなのよねぇ」


 「それでね、場合によってはカルロくんに偵察(ていさつ)をお願いするかもしれないのよ。まだ、何とも言えないけど、上でドンパチやられるのもねぇ」


 「偵察ですか? いいですよ分かりました。準備もありますので早めに連絡をいただけると助かります」


 「えっ、ホント! 行ってくれるの? 良かったわぁ。もしかしたらローザン王国に向かってもらうかもしれないから、そのつもりでね」





     ▽





 そして、冬も終わりに近づいたある日。僕は従魔たちを連れダンジョン・スパンクの周辺を見回っていた。


 「この(あたり)も雪が解けて無くなってしまったなぁ。どれ、もう少し上まで行ってみようか?」


 「ワフッ!」


 シロは元気よく返事をすると、僕を乗せたまま山の上をめざし駆け出した。


 ウヒョー、早えー。山裾(やますそ)の森を抜けゴツゴツの岩場を()えグングン上へ登っていく。


 おいおい、どこまで登っていくんだよぉ。


 後ろを振りかえれば雲を突きぬけて雲海(うんかい)が広がっている。


 それでも、お(かま)いなしにグングン上を目指す。


 空気もだいぶん薄くなってきたところで、雪原を()けていたシロの足が止まった。


 ようやく気が済んだのだろうか? シロのことだから頂上(てっぺん)まで行くものとばかり思っていたよ。


 すると、何を思ったのか今度は横に走り出した。


 うんっ? さっきまでと違う本気の走りだ! 


 体も大きくなっているし、耳もピンと立ててかっこいい。


 いつもは理由を伝えてくるのに今日はどうしたのだろう?


 まぁ良いさ、そんな時もあるよね。僕はとことん最後まで付き合うからね。






 (つら)なる山の尾根(おね)()うように進んで行くと、それは休火山(きゅうかざん)の火口のような広い場所であった。


 雪で真っ白になった火口に下りていくと 岩陰(いわかげ)に真っ赤な生き物が? 


 いや、違う! あれは血だよな。


 さらに近寄っていくと。――これは酷い。


 まさにそこは血の海。


 その真っ赤な海に沈んでいるのは巨大な炎竜(えんりゅう)であるようだ。


 しかも2匹いる。もう一方はまだ息があるようで、(わず)かに動いていた。


 仲間割(なかまわ)れをして、この2匹で戦ったのであろうか? 


 (さら)に目を()らして周りを見てみると、かなり離れてはいるが大岩の下に何かいるな。


 んん、あれは…………。


 シロも気づいたようで そちらに向けて走りだした。




まあ、スラムのような場所では子供であろうがなかろうが、弱いものはすべて奪われる。たとえお金を渡したとしても次の日には無くなっている。寝てる内に探られ奪われるのだ。だから、これが限界なのです。 そして海軍が出てきたということは「戦争」ですよね。春は目の前です。 あと、山で炎竜が血塗れです。何があったのでしょう? シロが向かった先にいたものは?



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