7. バース到着
今回の王都バースへの旅路はアルバートお父様、エレノア母様、僕とシロで向かうことになっている。
馬車に乗り、アストレアの町を発った僕らは ”領都ガルバド” にて領主様にごあいさつ。
そこで、ガルバド領主様にお借りした馬車に乗り換え、オーレン山脈を右手に見ながら王領をめざしていた。
ダンジョンを発見したとはいえ、50日程度では様変わりなどする筈もなく、相変わらずの貧乏世帯である。
それでも方々を駆けまわり、ようやく今回の旅路の資金を捻出することが出来たみたいだ。
この馬車においても、「それでバースに入るのか? あまりに拙いであろう」 と領主様。
ご厚意により、使わなくなった古い型ではあるが、それなりの馬車を貸していただけた訳だ。
王都バースまでの旅の日程はおよそ15日。どのくらい雨が降るかで大きく変わることもある。
雨期などで雨が降り続ければ、道がぬかるみ何日も足止めをくらう事にもなるのだ。
しかし、此度は雨も少なく、意外と順調に旅を続けていた。
僕らを乗せた馬車はオーレン山脈に別れをつげ、いよいよクルーガー王領に入った。
王都まで、あと3日というところでトラブルが起こった。
馬車が急停車したと思ったのも束の間、馬車を操っていた馭者が地面に転げ落ちた。
どうも矢で射られたらしい。
盗賊である。
敵はまだ草むらから出てこないが、気配からして30人程だろうか?
まあ、護衛の一騎もつけていない貴族の馬車が走っているのだ。
盗賊からしてみればいいカモに見えたことだろう。
慌てて浮足立つエレノア母様をなだめ、馬車に結界を張った。
僕はアルバート父様に目配せをして、シロと外に出る。
肩に矢を受けうずくまっている馭者の矢を抜き、治療魔法を施した。
「さてと……」 僕は呟きながら、短槍をインベントリーから取り出すとシロに跨った。
そして20分後(時計は無いので感覚です)。
「ただいま戻りましたー」 と言いながら馬車に帰ってきた。
「おう、ご苦労だったな。話には聞いていたが大したものだ!」
「いえいえ、たかが盗賊でしたので」
「それにしても、服が汚れておらんのう」
「はい、ほとんど魔法で倒しましたので」
「そうであったか。して、後の処理はどうしたのだ?」
「全員気絶させて、生かしたままインベントリーの中です。え~と男ばかり31人いました」
など、馬車の中で穏やかに話しながら、王都へ向け進んでいくのであった。
今、話にも上がったが。今回僕の授かったインベントリーは、生きた人間や動物でも入れられる特別仕様になっている。
しかし考えてみれば、インベントリーの中は基本的に時間停止なので、物でも動物でも問題ないみたいに思うのだがな。
工夫次第では使い勝手がすごく良さそうで、いろいろやってみようと思っている。
途中いろいろ有りはしたが、僕たちは無事王都の門をくぐってバースに入った。
盗賊は、門の前でキッチリ衛兵に引き渡している。
このあと、余罪などを調べるため尋問をおこない、全員が犯罪奴隷に落とされるという。
いわゆる ”鉱山送り” とあいなるわけだ。
僕たちは、貴族街にあるホテルに宿泊し。到着した旨の連絡をするため、王城に使いを出した。
王都での滞在は20日程を予定している。
そして僕の通う学校なのだが、試験が7日後にあり、合格すればそのまま寮に入るかたちとなる。
試験に落ちることはほぼ無いので、それまでの間は入寮のための衣服や備品を揃えていくこととなる。
そして数日後、僕はシロを連れて王都の繁華街にあそびに出かけた。
「いや~、王都は久しぶりだなぁ」
とは言ったものの、見事に様変わりしていて、何処になにがあるかサッパリわからないのである。
――ドン! 「あっ、ごめんなさい」
キョロキョロしていた僕に誰かが当たって来た。
するとそこには、僕にはじき飛ばされて尻もちをついている猫人族の女の子がいた。
年の頃は7~8歳だろうか。
黒髪で薄汚れた貫頭衣を着て、首には細いが首輪をはめている。
ただ、ビックリしたのか見開いている大きな眼は澄んだ緑色をしていた。
「ああ、僕の方こそごめんね~。よそ見をしてたから」
そう言って手を差し出すが、
「だ、だいじょうぶですっ。穢れがうつっちゃうから」
女の子は手を取ろうとしないで自分で立ち上がり。僕にペコリと頭をさげると、そそくさと走り去っていった。
そうして、ねこ耳少女を見送ったあとに正面を向くと、
「おや?」
そこには麻布でできた小さな巾着がポツンと落ちていた。
それを拾い上げ少女の去っていった方を見やるが、もう、姿はどこにも無かった。
「あらら……」
僕は往来の端のほうに移動して、その巾着の中味を確認することにした。
すると中から出てきたのは、何の変哲もないシルバーのリング。
鑑定をかけると、”シルバーリング:敏捷+5:サイズフリー” と出た。
おー、これはなかなかの品だな。
奴隷が持てるような代物ではないし、彼女が盗みをはたらくとは、とても思えないし。
ボロボロの巾着を見つめながら、
「大事に持っていたんだな……」
それなら、少女のもとまで届けてやろうじゃないか!
隣りにいるシロに巾着を見せ、匂いをかがせる。
「さっきの女の子だけど、探せるか?」
と僕が聞いてみると、シロはコクコクと頷きながら尻尾をブンブン振っていた。
盗賊? 知らない子ですね。イベントにもなりませんでしたわー。せめて、姫様でしょう。
姫様はいずこ……。ということで王都バースに到着です。けして、嘔吐リバースではありません。 こうなったら、シロちゃんだより! シロ頼むよ。(∪^ω^)わんわんお!
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