83. 酒造り
「ちょとそこのキミ、ガンツ見なかった? この ”樽” 頼んだのガンツだよね」
「これはカルロ様、お疲れ様でございます。ガンツ様なら地下蒸留所の奥にいらっしゃいましたよ」
「呼んで参りましょうか?」
「いや、行かなくていい! 僕が直接いくよ。キミたちはこの樽を裏の第2倉庫に並べておいてよ」
「はい、かしこまりました。直ちに」
あの蒼龍スタンピード事件から2年が過ぎようとしていた。
僕が今居るのは、ダンジョン・スパンク の上にある温泉施設。……その隣に併設している蒸留所である。
しかし、この上の建物は 資材や原料などを入れておく為の倉庫であり、肝心の蒸留所は地下の方に建設している。
そこで造った、ウイスキーやブランデーなどは木樽に入れられ、地下において熟成保存されていくのだ。
えっ、魔法省とかエルフさんはどうなったのか?
……知らない、特に興味はない。
依頼であった 「ガルーダ大森林の調査」はスタンピードや蒼龍の件も含めて報告書をあげておいた。
それだけだ……。
あとの事は王国や王室の問題であり、僕にできることなど何もないのだから。
ただ そのあと、大きな騒動や事件なども起こっていないので、穏便に話が進められているのではないかと思う。
王室としても、あまり表沙汰にはしたくないだろうしね。
と、いう訳で今回僕は、「子爵」へ陞爵されることになった。スタンピードを納めた功績が認められたのだ。
とはいえ、表向きは「騎士団による功績」として称えられているようだが。
え~と、ガンツのヤツは……おお、居た!
「お~い、ガンツ!」
ガンツはいくつも並んでいる蒸留器のひとつに梯子を掛け、何かを調整しているみたいだ。
「おう、なんだカルロか。なんぞ用事かのう」
「今のは、何をしていたんだ?」
「おお、こいつか! タンクの原液が減ってきたんでな、蒸気を少し絞ろうかと思ってのう」
「なるほど、それは大事だな」
「じゃなくて、表に「樽」が届いていたぞ。また、違う物を買ったのか?」
「ハハハッ、家の ”せがれ” が良いものを見つけたと言うものでな」
「まあ、ガンツが金を出しているのだから とやかくは言わないけど、本業の方は大丈夫なのか」
「ハハハハハッ、ちゃんとやっとるわい。大丈夫じゃ」
「ホントか? この前ジョルジュがこぼしていたぞ~」
そして、僕は今年で15歳になり成人をむかえた。
そう僕は「法衣子爵」として、王都バースに屋敷を構えなくてはならないのだ。
こっちの酒造りも気になる所であるが、そうも言ってられない。
館の方は決まっていた事なので、以前からしっかりチェックしている。
家人の方は、ロイド様を通じて「家宰」に出来るような人材を探してもらっていた。
「まかせてちょうだい」
と、張り切っていたので問題はないだろう。
この家宰さえ決まれば後は楽なのだ。すべて丸投げすればいいのだから。
「お邸ができましたら、わたしもお掃除とか頑張ります!」
クロナである。
まだ、僕のメイドのつもりなのだろうか? そろそろ人を使う事も覚えてもらわないとな。
そして、今は王都の学園に通っている。
当初は行くの行かないので かなり揉めたのだが、今はおとなしく学園の寮に入っている。
寮室はバッチリ改造しておいたので、快適に学園生活を送れているようである。
「カルロ兄さま、エマの部屋は何処になるのですか?」
エマも来る気まんまんである。
というか、エマはまもなく10歳になる。そう、今年学園に入学するのだ。
酒のでき具合を見に行った帰り、僕はいつものように露天風呂に入っていた。
シロはピーチャンとウォータースライダーに行ってしまったので、白狐のヤカンを撫でながら温泉を満喫していた。
すると、内湯のある建物の方から此方に来ている人影が目に入った。
「やあ、カルロ卿。久しぶりだねぇ。隣に失礼するよ」
「これはアースレット様、ロイド様お久しぶりです」
ご存知、王太子、王太子妃のご夫婦である。温泉場では無礼講ということになっているので、頭だけ下げて挨拶しておく。
「はぁ~、いい湯だね。ここに来るとなんだかホッとするよ」
「そうですね。疲れを取るなら温泉が一番ですから」
「それにしても、あの子は また大きくなったよね~」
と、アースレット様が上を見ながら呟くように言った。
そう、ミュウのことである。
蒼龍の子であるミュウも、この2年で全長30mとなかなかの成長を見せている。
「はあ、ミュウでしょう。もう少し大きくなったら乗れるようになるかもしれませんね」
「家のエマが楽しみにしているのですよ。この秋から学園に通うのですが、連れては行けないですよね」
アースレット様は『何をあたり前なことを』という顔をして、コクコクと首を振るのであった。
エマ・アストレア Lv.14
年齢 9
状態 通常
【従魔】 ミュウ(龍)
HP 39/39
MP 57/37+20
筋力 29
防御 25
魔防 26
敏捷 24
器用 15
知力 30
【スキル】 槍術 (2) 魔法適性(風) 魔力操作(6)
【魔法】 風魔法(5) 身体強化(3)
【称号】 邸のアイドル、ゴブリンキラー、シルフィード、
龍友、盗菓、
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
ミュウ Lv.5
年齢 ー
【契約者】 エマ・アストレア
HP 72/72
MP 91/91
筋力 60
防御 53
魔防 58
敏捷 44
器用 28
知力 52
【特殊スキル】 状態異常耐性 感覚共有
【スキル】 鑑定 (4) 魔法適性(全) 魔力操作(6)
【魔法】 聖魔法(2) 炎魔法 (4) 結界魔法(3)
身体強化(2)
【加護】 ユカリーナ・サーメクス
カルロもようやく成人です。自分たちで造ったお酒は また格別なのでしょうね。地下なら温度や湿度の調整も楽そうですが、どのみちダンジョンにお願いするのなら、何処に作っても一緒のような……。カルロも王都に邸を構えますし、エマは学園へ。カルロの生活は一変しますね。
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