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82. ミュウ

 あれから僕たちは、シロと共に魔獣(まじゅう)が進行している各地を廻り、大森林の方へ押し返していた。


 具体的には、魔獣たちの先頭に回り込んで シロが威圧(いあつ)をかけ敗走させていたのだ。


 それから ”ミニ龍” をクロナたちへ預けた後、2日かけて『青の岩場』からアズライト鉱石をせっせと ダンジョン・スパンク へ運び入れていた。


 といっても、僕とシロ 両方のインベントリーを使用することができたし、持っていく場所はダンジョン間の ”地脈” の上までで良かったのだ。


 そして3日目の午後。ここ ダンジョン・サラ にみんなを(むか)えに来たのだった。


 僕が海の家に入っっていくのが見えたのだろう。クロナをはじめ、エマ、ポンタ、ミニ龍とみんなが集まってきた。


 ん、キリノさん?


 中のちゃぶ台で、練乳たっぷりの氷イチゴを食べていたよ。


 コリノさんは冒険者なので、1人でリマの町に残っている。


 「カルロ様、お帰りなさいませ!」


 と、クロナは頭を下げて挨拶(あいさつ)をしてくれる。――嬉しそうだ。


 ――ひしっ!


 これはエマである。


 後ろからは、ポンタに乗ったミニ龍も一緒に追いかけてきていた。


 ……なるほどな。


 これなら、”はいはい” しかできないミニ龍も普通に移動することができるからね。






 そしてエマは、ミィー、ミィー、鳴いているミニ龍を両手で抱えあげると、


 「カルロ兄さま、『ミュウ』はとっても可愛いのです。エマが育ててもいいですか?」


 「へっ、育てる。エマがか? それに、もう名前まで付けたのか」


 「ダメですかぁ~?」


 ううっ。……誰だよ! エマに『上目づかい』なんか教えたのは?


 僕はクロナを見た。……普通だな。


 って、ことは。振り返ってキリノさんを見た。……確定!


 キリノさんはスプーンを前に突きだしニヤニヤしていた。サムズアップのつもりだろうか。


 「ダメですかぁ~?」

 

 うううっ。なんという破壊力(はかいりょく)! ――あざと可愛い!


 「み、みんなに手伝ってもらって、大事に育てるんだぞ」


 「やたっ!」


 まあ、実家の方が目立たなくて良いかもな。


 アズライトは向うに運んであるし、温泉もある。エマと泥風呂で遊びそうだが……。






 さてと、後はこれだな。


 「エマ、『ミュウ』を連れておいで。この台の上に乗せるんだ」


 「はーい、カルロ兄さま。これで良いですか?」


 「いや、逆だ。仰向(あおむ)けにな」


 「おし、では、始めるぞ」


 ミニ龍の『ミュウ』は訳もわからず仰向けにされ、うねうねしている。


 「よしよしミュウ。少しの間 大人しくしているんだぞ」


 僕はミュウの体を触診(しょくしん)と鑑定を使いながら調べていく。


 う~ん、退化(たいか)ではなさそうだ。後ろの腕が有るべき所には(うろこ)が無いな。


 つまり、生まれ持っての奇形(きけい)なのだろう。


 さて、上手くいくと良いが。前には腕が生えているのでイメージはつけやすいか。


 ……よし!


 「シロ、いくぞ! リカバリー!」


 ”リカバリー” が発動したと同時に 腕の有るべき箇所(かしょ)(まばゆ)い光につつまれた。


 そして光が、じわじわと体に吸い込まれていく。


 すると 、さっきまで存在しなかった二本の腕が、始めからそこにあったかのように生えていた。


 ミィー、ミィー、


 ミュウは、鳴きながら元気よく4本の腕を動かしている。






 ふぅ、どうやら上手くいったようである。


 「ほれっ! もう、行っていいぞ」


 ミュウの体を腹ばいに戻してやった。


 「あー、浮いたー。ミュウちゃんスゴイ!」


 喜んでいるエマ。


 ミュウの方も、まだ体の制御(せいぎょ)がうまく利かないようだ。おたおたしながらエマに向かって飛んでいる。


 ただ、今回の ”リカバリー” 使用において、僕はとんでもない事をやらかしているのだが。


 この時点では、まだ知る(よし)もなかった。


 そのあと僕らはというと。


 エマの希望で、各階層に下り駄菓子(だがし)やスイーツ集めに精を出し。


 夕刻には、リマの町の領主邸へ足を運んだ。






 大人数で押し掛けてきたにもかかわらず、快く夕食をご馳走(ちそう)してくれた。


 そして、食事の後は 待ってましたとばかりに応接室へ呼ばれた。


 僕は用意してもらった客室にみんなを残し、シロだけを連れて指定された部屋を(たず)ねた。


 「カルロ(きょう)、今回はお疲れ様。無事に帰れてよかった」


 「恐れ入りますフランツ様。この度は大事な時に留守をしてしまって心苦しい限りです」


 「いやいや魔獣の進行もこれからが本番だからね。それに、南の草原ではとんでもない魔獣がいるそうじゃないか」


 「本当に心配したんだからね!」


 いやいや、そんなことヤローに言われても全然嬉しくない。


 「そうですか、ご心配をおかけました。そして、やるべき事も やってきましたよ」


 「やるべき事って、具体的には何をやってきたんだい?」


 「はい、端的(たんてき)に言ってスタンピードを起こしたと思われる起点(きてん)となった脅威(きょうい)排除(はいじょ)。それから、出てきた魔獣の大森林への追い戻しです」


 「ま、まさか本気で言っているのかい。ちなみに脅威とは何だったの?」


 「龍でした。鱗が青いヤツです。今回、時期が早かったのは卵の孵化(ふか)が原因だったようです」


 「おそらくですが、卵が(かえ)るのをちょくちょく見に来ていたのかもしれません」


 「ということは、龍が2匹に増えるのかい? それは大変じゃないか!」


 「大丈夫です。排除済ですから、何も問題ありません」


 「じゃあ何かい。その龍たちは始末したのかい?」


 「いいえ、こちらの事情をわかって頂きました」


 本当の事を報告しているのに、何故(なぜ)わかってもらえないんだ?


 フランツ伯爵(はくしゃく)と僕は しばらくのあいだ堂堂巡り(どうどうめぐり)を続けた。




通常の龍は基本は3本指である。そして、さらに強い龍になると前の腕だけが4本指となるのである。しかし、今回の「ミュウ」の場合はカルロの強い思いで前後共に4本になっているのである。(汗)



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挿絵(By みてみん)
 作:七海 糸 さま FA頂きました‼ (リンク有)
― 新着の感想 ―
[良い点] エマちゃんの上目遣いはダメ〜!お手上げです( *´艸`) 何でも言うこと聞いちゃいます笑 ミュウちゃん、ですか!可愛いですね♡ リカバリーしてちゃんと動けるようになって良かったです! (と…
2022/05/23 18:26 退会済み
管理
[良い点] 幼女に小動物を与えると、勝手に名前を付ける……うん、世界の理(ことわり)ですな! 『子龍』改め、ミュウちゃんが飛べるようになって良かった♪ 話し合い(和平の交渉)とオハナシ(物理な威圧…
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