77. スタンピード
僕らはギルドマスターの到着により皆でギルド長室に移動して協議を始めていた。
するとそこに、下のホールより響き渡る悲鳴、絶叫、怒号。
どうやら、冒険者ギルドに騎士団からの早馬が到着したようだ。――ようやくか。
ギルド職員の案内で、騎士団の伝令が部屋に通された。伝令は疲弊しており肩で息をしていた。
僕はすぐに、濡れタオルと水の入ったジョッキを渡してやる。
「カルロ卿すまないね……。伝令ご苦労! 慌てなくていい、スタンピードが起きていることは知っている。落ち着いたら知っている事を残さず報告してくれ」
フランツ伯爵はソファーに腰掛けたまま、伝令隊員に労いの言葉をかけた。
伝令隊員は与えられた水を一気にあおり顔の汗を拭うと、
「ありがとうございます閣下。だいぶ落ち着きましたので報告させていただきます」
「ああ、頼むよ」
伝令隊員の報告によれば、今朝早くよりゴブリンが散発的に出没。
日の出と共にその数は増える一方で、調査を始めていたという。
そして先程、これは『スタンピード』であると判明。急ぎ各方面に伝令を走らせたということだ。
発生場所は訴えていた通り、リマの町より南へおよそ20キロの地点。
ガルーダ大森林より出てきている魔獣の数は現在1200体程であり、さらに増加中とのことだ。
魔獣の動きとしては、ガルーダ大森林より飛び出すかたちで西へ真っすぐ伸びており、砦の石垣にぶつかることで北と南へ分かれているらしい。
北側には砦があり騎士団が迎え打つ形になっている。南に進んだ魔獣は石垣を回り込む形で街道が通る草原地帯に放たれてしまう。
これでは、近くの村や宿場町は ほぼ壊滅してしまうだろう。
それに、中には石垣を越えてくる魔獣も確認されており予断を許さないという状況だ。
「初動が早かったお陰で、近隣の村などにはすでに早馬が到着して 避難を開始しているだろう」
「この町に於いても、商人を中心に西門より避難をさせておる」
と、さすがだなフランツ伯爵。
早めに商人を出しておけば、商人が手ぶらで戻るはずもない訳で……なるほど、ただ腰が軽いだけの領主様ではなかったようである。
一方、砦には騎士団、魔法士団あわせて2300名が詰めている。
騎士団は王国所属の第三騎士団で総勢2000名。
中でも純粋に騎士と呼ばれるものは150名程度で、あとの構成は騎士の従士達や強弩隊、司祭などの治癒術士などがあげられる。
こちらは日頃から魔獣の討伐を任としているので、ある程度は持ちこたえてくれるだろう。
そして我々 冒険者なのだが、これより このリマに居るDランク以上の冒険者には『緊急招集』がかかる。
これは冒険者ギルドの規約にもうたってあるのだが、
『戦争時以外における災害などが起こった際、ギルド員を招集し強制依頼を発布することが出来る』ということになっているのだ。
拒否権はあるものの、病気、ケガを除いては退会するしかない。もちろん再加入は認められない。
そして、すでに『緊急招集』は掛けられており、順次説明を受けてカウンターで手続きをおこなっている。
強制依頼の内容は、もちろん今回のスタンピードに関係したもので、
『明日の夜明け、食事を済まし南門に集合せよ』
というもので、武器に関しては、槍、弓、矢などは貸出をおこなうようである。
「カルロ卿は冒険者であるが私のもとで動いて欲しいのだが 如何か?」
「はい! 僕はそれで構いません」
「ブライト君もそれでよろしいか?」
「それは、もちろんです。ギルドのもとでも閣下のもとでも同じく町を守る訳ですから。そのように手配しておきます」
「それにカルロ様。今回は貴重な情報をありがとうございました。これで出来るだけ多くの備えをして望めます」
ギルドマスターのブライトさんと横に居たカムランさんが揃って頭を下げる。
「うん、これから大変になるけど、力を合わせて立ち向かいましょう」
「有難いお言葉です。どうぞご武運を」
「ありがとう。そちらもね」
「よーし、話はついたね。カルロ卿、準備もあるから夕刻にはボクの館に集合だからね……」
「と、いうことで、今夜から3日間はクロナと一緒に『ダンジョン・サラ』で過ごすこと」
「イヤ! エマもシロと戦うの」
「あー、お菓子食べ放題だぞ~。いっぱいあるぞ~。チョコレートもアイスクリームも」
「アイス! アイス食べたい。エマ、アイスクリームに行くの~」
興奮して、行先がアイスクリームになってるぞぉ。まあ、アイスは1日に1コだけどな~。
すると、何故か、キリノさんの手が上がっていた。
……まあ、キリノさんは現在の冒険者ランクはEで、雑用の依頼は出ているけど強制ではない。
子供だけだと、たしかに不安ではあるかな。
「では、キリノさんにはこの子たちの世話をお願いします」
昼食を済ませた後、宿を引き払い みんなでダンジョン・サラのリビングへ転移した。
そして、久々に登場した黒猫にみんなの事をお願いしておく。
この黒猫は、ダンジョン・サラが作り出した ”アストラルボディ” で、本人曰くベヒモスの幼体であるという。
こうして僕は、 夕刻まで ”海の家” にてゆっくり過ごしていた。
「予断を許さない」ドラマなどでもたまに出てきますが「予測不能」ということです。そして騎士が出てきましたが「騎士」になれるのは貴族出身者です。これが「従士」なら平民出身でもなることが出来ます。基本的には1名の騎士に対して従士が10人付くのが一般的です。(この物語では)
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