75. 領主邸
夕刻にはまだまだ早いと思ったが、僕らはリマの町へ引き上げてきた。
西門から町へ入ろうとしていると衛兵の1人が僕を見つけ、
「これはカルロ様、今お戻りですか? ご苦労様です」
と言って、ビシッと敬礼をしている。
どうも、昨日の練兵場にいた衛兵らしい。周りの者は『何やってるんだ』と驚きの表情でこちらを見ている。
「どういうことだ?」
近寄ってきた同僚らしき衛兵が聞いてくる。
「おう、こちらの方はカルロ男爵様 ご本人だ。昨夜、”フレメンツ隊長” と一緒に練兵場に居られた方だ」
フレメンツ? ああ、隊長(人族)の時はそう名乗っているのかな。
「「し、失礼しました!」」
あ~あ、デカい声で答えるものだから、周りの衛兵まで敬礼しちゃてるよ。
「ああ、今はご覧の通り冒険者だ。過剰な反応はよしてくれ、やり辛くなるから」 (小声)
「はい、了解しました」 (小声)
そして、そのまま冒険者ギルドに立ち寄り各手続きを終え、宿屋に戻って見ると玄関口には大きな2頭だての馬車が止っていた。
あちゃ~、もう来てるじゃん。
そう思いながら宿屋に入ると、
「あ、帰ってきた! ちょっとあんた……じゃない、カルロ様。領主様のところの馬車がお待ちですよ」
「ああ、そうみたいだね。迷惑だったでしょ、すいません」
「そ、そんな迷惑だなんて、これで少しはハクが付くってものですよー」
宿の女将は顔をひくつかせながら、たどたどしく応答していた。たぶん ”畏まる” ことが苦手なのだろう。――申し訳なかったかな。
すると、食堂の椅子に腰掛けていた初老の男性が僕に声をかけてきた。
「カルロ男爵様とお見受けいたします。わたくし…………」
領主邸の執事さんであった。
今帰ったばかりなので、準備してくる旨を伝え2階の部屋にあがった。
さて、着替えるとするか。
僕は冒険者装備って訳にもいかないだろうな……。
仕方ないので一般的な貴族服にしておく。
クロナとエマは、お揃いで作ってもらったオフホワイトのノンスリーブ・ワンピースだ。
とても涼し気で、夏の装いにはピッタリである。
そして、僕が出していた姿見鏡のまえでエマがニヤニヤしているのだが……。
クロナと並んでエマはご機嫌だ。それというのも 僕お手製の、
『猫耳カチューシャ』を付けているからなのだ。
プラチナブロンドの髪に合うよう 白のモコモコ素材で作っている。
――とっても可愛い。
ついでに尻尾も作っているのだが、ベルトで固定させるタイプのため今回は見送っている。
ようやく準備が整い僕らは馬車へと乗り込んだ。
――モワッ とした熱気が襲ってくる。これでは執事の人も大変だな。
僕はシロに頼んで、すぐ馬車の内側に遮熱の結界を施した。
「おやっ、これはどういう事ですかな?」
「遮熱の結界ですよ。暑くて大変なご様子なので」
「これは、あい すみません。わたくしのために……」
こうして、馬車に揺られながら領主邸を目指すのであるが同じリマの町中である。 到着するのにそれ程時間はかからなかった。
領主邸へ入った僕らは、客用の控室にて夕刻まで待つようになるのだが、
「やあ、いらっしゃい! 今日はよく来てくれたね。歓迎するよ……あれ同胞が2名ってキリノ……さん?」
「うん、……ああ、フランツじゃないか! ひっさしぶり元気かー」
「あれ、知り合いなんですか? キリノさん」
「うん、知り合いもなにも、こいつが赤ん坊のころから知ってるぞ。小さい時はワルガキでな、女性の沐浴を覗いては見つかってよく叱られてたよなぁ」
「うぐっ、そ、そんな事もあったかな~。忘れちゃったよ」
「あ~そうかい、まだあるぞぉ。こいつはなぁ、隣りのコミュニティのみーちゃんに入れ込んで……」
「ああ~~~! わかった わかったから~。そのくらいで。ねっ」
そうか、キリノさんとフランツさんは知り合いなのか。
それにしても、世間は狭いというか何というか……。
いや それよりも、ガルーダ大森林内にあった幾つかのコミュニティがこちらに避難しているわけだから、必然的に知り合いばかりになるよなぁ。
それから少しの間、フランツさんはいじられつつも大森林の状況などの情報交換をおこなっていた。
そして、昨日の盗賊の件についても教えてくれた。
あの3人は魔法士隊の落ちこぼれ組で、騎士隊が ”魔獣討伐” に出払っている時を狙っていろいろやらかしていたということだ。
もちろん、裏で手引きする者もおり、同僚合わせて10名近くが今回の件に関わっているという。
当時者の3人は取り調べが済み次第、犯罪奴隷としてオーレン山脈の鉱山送りになる。
また、例のオークに関してはテイマー数名が絡んでおり、こちらも確定次第に厳罰がくだるだろうとの事だ。
まあ、フランツさんにしてみれば身内の不祥事で顔に泥を塗られた訳だ。
当たり前なのだが、なかなかに容赦がない。
ただ、それでもエルフの場合は期間が設けられているようだ。
これは人族も同じなのだが、一応50年が刑期らしい。だが、殆どの者が刑期が終わる前に亡くなってしまうという。
そして、そのまま夕食会になったのだが、特にこれといって特筆するようなこともなく 僕らは宿屋へ戻ったのだった。
エマには初めての夕食会。クロナとお揃いのワンピースもカルロが夜なべして作った猫耳カチューシャも、とても嬉しく良い思い出になったことでしょう。フランツさんはキリノさんに頭が上がらない感じなんですかね~。今夜はひとりで寝たカルロでした。(∪^ω^)何かおきるお? (疑問形じゃん!
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