72. クエスト
リマの町に到着して次の朝。今日はこの町で実際にクエストを受けてみることにした。
とはいえ、このあいだEランクに上がったキリノさんのポイント稼ぎのお手伝いだ。
受けた依頼は、これも懐かしい常設依頼の「薬草採取」である。
僕もDランク依頼の「グレーウルフの討伐」。これを受ける事にした。
これは、グレーウルフ他、ウルフ系を5日以内に1匹以上討伐して証明部位を提出するというもの。
冒険者の数も多く、取り合いになったりもするらしいが問題はないだろう。
ん、クロナ? 今日も朝からギルドは大賑わい。この中を連れ回すのはさすがに無理だと思い表で待機させている。もちろん、シロとエマも一緒にだ。
依頼の受付を済まし冒険者ギルドを出る。すると、すぐに真夏の日がじりじりと照り付けてくる。
しかし、表で待っていた仲間はみんな涼しい顔をしている。
これは、シロが結界魔法をみんなに付与してくれているお陰だ。つまり、結界魔法の応用で、熱を適度に遮断しているのである。
その他、虫除けの結界なども森や草原ではとても有難いのだ。
南門からリマの町を出た僕らは、街道を通って南下する。
しばらく行くと、大きな草原地帯が広がっており、そのど真ん中を街道がすーと真っすぐ伸びている。
これより左の草原へ突入していく。奥に見えているのはリマの砦から伸びている石垣である。
この高さ8mの石垣が砦から50キロ程左右に伸びており、リマの町の生命線となっている。
しかしながら、この程度の石垣では ガルーダ大森林から溢れてくる魔獣は到底防ぎきれない。
どうしても、南側から侵入を許してしまうのだ。
そこで、我々冒険者の出番という訳だ。
魔獣といっても大半は、大森林の外縁にいるゴブリンやウルフといったものでそこまで強くはない。
ただ、ウルフ系は群れていることが多く、情報を確り把握しておかないと途中で逃げ帰るハメになる。
んん、居たな! ウルフ6匹だ。1匹のブラックウルフが5ひきのグレーウルフを引き連れて行動しているようだ。
この情報は、もちろんピーチャンからのものだ。何の障害物もない草原地帯は上空から丸見えなのだ。
さてと、ささーとパラライズで片付けようと思っていたら、
「カルロ兄さま、エマがいきます! 昨日は何も出来ませんでした」
う~ん、確かに昨日は怪我されても困るから、引き上げさせたんだっけ。
少しかわいそうだったかな。
「よし、わかった。シロと一緒に行ってごらん。クロナも補助を頼むよ」
「「はい!」」
おお、いい返事だ。
クロナも昨日はしょげていたし、うっぷんが溜まっていたのかも知れないなぁ。
すると、お三方はものの5分程でお戻りあそばされましたわー。
まあ、過剰戦力過ぎたよな。
みんなで現場へ行き、状態を確認する。――なかなかのものだ。
倒すのに魔法は使っていないし、殆どが首や顔を狙っている。
「うん、いい倒し方だ。これなら毛皮も高く買い取ってくれるだろう」
「やたー! シロがね首か目を狙うんだって教えてくれたの。ねー」
エマは嬉しそうに言いながら、シロの首をワシャワシャ撫でていた。
「じゃあ、これからはボクたちの出番だね!」
キリノさんは手にナイフを持ち、コリノさんとウルフの解体をはじめた。
さすがは森に住むエルフ、6匹のウルフがあっという間だ。
しかも、場がほとんど汚れていない。――たいしたものだ。
残った残骸はキレイに焼いたあと、デカくなったシロに穴を掘ってもらい土にかえした。
さて、お次は薬草取り。
この辺は草原で数も少ないし、他の冒険者も多いので厳しいだろうな。
かと言って、「絶望の丘」では魔獣も出てくるだろうし めんどくさい。
僕は少し考えて、シロに移転先を告げた。
おお、「勇者の洞窟」久しぶりに来たが変わらないなぁ。
僕らが今来ているのは、タグ村の近くにある洞窟。リマの町からだと、少し北へ行った所である。
タグ村に続く街道沿いの林の中にあるのだが、この辺りは殆ど荒れていないのだ。
なぜなら、この洞窟の近辺には「現状維持」と「認識阻害」の魔法が、かつて ここに住んでいた勇者により施されているのだ。
今は誰も住んでいないし、部屋はあるが中には何もない。洞窟の奥に門松が飾られているだけなのだ。
あとは、この近辺をシロの鼻を頼りに薬草の群生地を見つけ、サクサク摘んで回収していくだけである。
そして、結構な数の薬草を手に入れたのだが、これを一気に持っていくと間違いなく問題になる。
その説明もかなり面倒なので、冒険者ギルドには3日に分けて提出することにした。
その後はゆっくりと洞窟で過ごし、夕刻になって南側の門からリマの町へ入った。
「おい、隊長を呼んで来い」
僕の冒険者証を確認していた衛兵が隣の同僚に声をかけた。
「済まないがこっちに来てもらえるか」
冒険者証は返してもらえそうにない。
「カルロさま、……」
「クロナ、悪いけどみんなを連れて宿に帰っててくれるか」
「でも、……」
「僕は大丈夫だから。……な」
「は……い」
そこでクロナたちと別れた僕は、衛兵に言われるがまま詰め所の方に連れていかれる事になった。
今日は冒険者らしく、みんなでクエストを受けました。リマの砦の石垣は左右で50km。長いようだけど、そうでもない。あの有名な万里の長城、当時の長さはなんと2万キロ。途方もない長さだよね。それはそうと、カルロは詰め所に連れて行かれてどうなるのか?
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