70. エマも一緒
こちらに帰郷して10日。いつまでも、のんびりやっている訳にはいかない。
王室からの依頼は、『ガルーダ大森林の様子を見る』だったのでこれは既にクリアされている。
しかし、内容が分かってくると何やらムズムズしてきて落ち着かない。
そこで僕は様子見を兼ね、ザーク伯爵領にあるリマの町に行ってみることにした。
ロイド様の話によれば、ここを納める ”ザーク伯爵” は魔法省の重鎮であるようだ。
例のドムス公爵派に属しており派閥内での序列も高いという。
というのも、ここザーク伯爵領が王国において「重要拠点」になっているからである。
そして、リマの町を出た東の国境付近には大きな砦が築いてあり、ガルーダ大森林から溢れ出してくる魔獣の駆逐を行なっているのだ。
これを担っているのが、精鋭 クルーガー王国騎士団である。
リマの砦には、3隊ある王国騎士団内の一隊が常駐しており、魔獣の警戒及び駆逐任務にあたっている。
「よう、ガンツ。どんな感じだ」
「おお、カルロか。出来上がっておるぞ。鞘もガタがきておったんで新調しておいたぞ」
今日は調整に出していた愛用のバスターソードを受け取りに来ているのだ。
長年使っているせいで、柄や鞘が痛んでいたのだ。
そして、『ようやくこいつを使えるようになったのだな』と、感慨もひとしおである。
受け取ったそれは外装が一新されており、一見 違うもののように見える。
だが、鞘から抜き放ち構えてみると、ついニヤリと顔がほころんでしまう。
うん、良いな。やはりこれだよな。
「どうじゃ。最初は違和感はあろうが、他に何かあるかのう?」
「全然なし。また使ってやれるのが ただ嬉しくてな」
「おうおう、泣かせることを言ってくれるわい。それはワシが鍛えた中でもトップクラスじゃ。今、同じ物を作れと言われても無理かもしれん」
「ああ、大事に使わせてもらうよ。それで、いくら払えば良い」
「そんなもんはいらん! ただ、今度帰って来たら、その『蒸留酒』の話を詳しく聞かせるのじゃぞ」
「ああ、それもあったな。そろそろ始めないと寝かせる期間も必要だからな」
「そうじゃ。また一緒に呑みたいじゃろうが」
僕は眺めていた剣を鞘に納めると、カウンターの上にウイスキーを1瓶おいて、
「また、来る」
と言い残しガンツの工房を後にした。
邸に帰った僕は準備を整え、リビングでみんなの集まるのを待っていた。
ただ、ひとつ問題が残っている。そう、エマたんである。
服の裾をガッツリ掴んで離してくれない。――どうしたものか。
「あら~カルロ、もてもてね~。最後の夏休みなんだから、妹と素敵な思い出をつくるのも良いものですよ」
「そうでしょう。クロナちゃんもそう思うわよね~。あなたにとっても妹になるのですからぁ」
「はい、エレノア様。わたしが責任をもって面倒を見ますからどうぞ、ご安心を」
「まあ、クロナちゃん。私のことはお母様でいいのよ~。娘が1人増えて私も嬉しいわ~」
「はい、お母様。その……嬉しいです!」
「…………」
あ~ぁ、クロナのやつ エマと手を繋いでしまったよ。
……まったく母様には勝てる気がしない。はぁ、仕方ないか。
僕はもう諦めて、クロナにエマの旅支度を頼むのであった。
それから、一緒に同行するエルフ姉妹であるが、姉のキリノさんはこの10日でいろんなことを学んだようだ。
今は、妹と同じような冒険者の出で立ちである。
まあ、この美人姉妹は何を着ても似合いそうではあるが、あのス〇フキンだけはやめてほしい。
そして、妖精だから要らないとか言わないで、パンツもはいてほしいのだ。
おお、クロナとエマが戻ってきたな。シロが荷物を預かっている。
「それではエレノア母様、行ってきます。 帰りは10日後ぐらいになると思います」
「はいはい、いってらっしゃい! おみやげは気にしないでいいから、エマも行儀よくするんですよ」
「はい、エマ 良い子にしまーす」
「じゃあ、これね」
エレノア母様はエマとクロナに大銀貨を1枚づつ渡している。なるほど、お小遣いか。
すると、キリノさんとコリノさんにも渡している。――そして僕にも。
「これで良いわね、仲間外れはなしよ。みんな気をつけて行くのよ、いってらっしゃい!」
僕は、もらった大銀貨を見ながら、『やっぱり、敵わないや』と心で呟き、そっとポッケにしまった。
ダンジョンによる転移とシロによる転移魔法を併用し、僕らはこの前訪れたリマの町へと続く街道に出てきた。
コリノさんが言うには、南に1キロ程行けば砦とリマの町が見えてくるということだ。
僕らはリマの町を目指し街道に沿って歩き始めた。
「カルロ兄さま、見えてきました! あの壁のところですよね?」
シロに跨り先頭を行っていたエマが、こちらを振り返り訴えてきた。
「ああ、そうだ。左のが砦だな。僕達は町の方に行くから、右のあれだな」
すると、街道の先にチラチラと動く物体が目にはいった。
はて、魔物だろうか?
まだ100mはあるだろうか、向こうも此方に気づいたようでじわじわ距離を縮めてきている。
「カルロ氏、あれはゴブリンのようだね」
キリノさんは、そう言いながら背負っていた弓を下ろし 保護していた布を解いていく。
エマの方は短槍を手に持ち、シロは既に走り出していた。
エレノア母様の強力な後押しで同行することになったエマ。確かに学園最後の夏休み、何か思い出も必要でしょうが……。体よく、押しつけられたのかもしれません。だってあのまま行かれたら、ギャン泣きのエマを誰が面倒みるのでしょうね。真相は分かりませんが……。まあ、楽しく行きましょう!
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