68. 2人の兄
ぺしぺし。……ぺしぺし、
『おそと、はれる、おいしい、てんき、あそぶ、さんぽ』
う、うう~ん朝か? やっぱり家のベッドは寝心地がいいな~。
「シロもおはよう。今日も元気だね」
軽くストレッチをしたあと朝の散歩となる訳だが、最近はもっぱらオリゴン大山脈めぐりだ。
とはいっても、高い所で4000m級の山が連なっているので山を越えたりはしていない。
ここ数日はシロに乗っかって、迷宮都市の周りを様子見も兼 回っていることが多いだろうか。
それでも外周となると30km程はあるので、もの凄いスピードで回っていることはわかっていただけるだろう。
散歩の後は、温泉施設で汗を流して館へ戻っていく。
「おうカルロか、おはよう。この前持って来てもらった『さつまいも』はなかなかいい感じだぞぉ。秋には収穫できるはずだ」
「アルバートお父様、おはようございます。これから畑ですか? あんまり無理はなさいませんように。お水はたくさん飲んでくださいね」
そう言いながら、2リットルのペットボトルをふたつ手提げ袋に入れて渡した。
もちろん、中身はシロが浄化した聖水が入っている。疲労回復にも効果があるといいな。
「おお、いつもの旨い水だな。これは助かる、ありがとう。では行ってくる」
「はい、お気をつけて」
お父様は相変わらずである。
館を出てから町に至るまでの林を開墾し、今は大きな畑がいくつも出来あがっているのだ。
こちらでは、小麦の生産が主だが 胡椒や唐辛子の生産もどんどん拡大している
それに先程言っていた、”さつまいも” や ”じゃがいも” といった芋類。最近では、トウモロコシ や サトウキビ なども幅広く生産するようになっているのだ。
この穀物を原料にお酒をつくっていけば、収入面でもかなり安定していくだろう。
そしてお酒といえば、蒸留酒になるだろうか。
実際あちらからの技術で細々と作っている所もあるし、こちらでも何とかものにしていきたい。
今度、ガンツに話を持っていってみようと思っている。――鍛冶仕事しなくなるな。
とまぁ、お父様はいつもどおりであるのだが、この割を食っているのが2人の兄たちである。
長男のアンソニーは、昨日帰ってきてからまだ顔を見ていない。もちろん病気している訳ではないのだ。
最近は執務室にこもってしまう事が多いそうだ。まあ、アンソニー兄は真面目だからな……。
全部自分ひとりで抱え込んでいるのだろう。今度 嫁を貰うそうだから、頑張っているのかもしれないが、身体が心配だな。
では、このオットセイ……じゃなかったオークの〇〇を原料にして作ったヌンケル皇帝液を1ダースプレゼントしておこう。
そして、次男のテリュースは今も ダンジョン・スパンク の迷宮都市に滞在している。
そこで王国から来ている臨時の代官に付いて、迷宮都市の運営などを学んでいるらしいのだ。
こちらも出来たばかりの町で、てんてこ舞いらしいがこちらよりは余裕があるみたいだ。
まあ、町自体も大きいし まだ1/4程しか稼働していないしな。
しかし、いつの時代もそうだが、夜の産業は根付くのが早いものだ。
それでテリュース兄はというと、昼は頑張って仕事を熟しているのだが、夜は夜で頑張っているようなのだ。
まあね、今まで田舎町に居たからね。楽しみといえば町の飲み屋でおばちゃん相手に ”くだを巻く” のが関の山だった訳ですよ。
それが どうですかここは、飲み屋には素人同然の若いおねーたま。
少し高いけど、「キャバクラ」みたいな所や、獣人族を集めた「ワンニャンハウス」。極めつけは、嬉し恥ずかし「らんらんランド」まであるのだ。
これは冒険者でなくとも行きたくなるでしょ。やっぱ男の子だもんね。
はっちゃけたい気持ちも分からなくもないのだが……。
この間の休みの日、僕らが温泉施設に来るのをエマと出待ちしていたことがあるのだ。
そして、来て直ぐに僕は脱衣場に連れて行かれ、
「カルロ、折り入って頼みがあるのだが……」
「え~、お金はかしませんよ! エレノア母様にきつく言われているのですから」
「うん、それは知ってる。だけど、そっちじゃないんだ……」
「あ~、女の子をはらましたとかですか?」
「ば、ばか、そんな人聞きの悪いこと大声で言うな。違うから」
「じゃあ何ですか? もう、行きますよ」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれ。言うから、なっ なっ」
「…………」
「そ、その、うつされたみたいなんだ……。それで、こっちに治療薬がまだ届いてなくて……」
はぁ~、性病ですか。なるほど そうですか。――まったく。
それは、言いにくいよな、とくに僕は弟だしね。それでも頼むのは、王都ならその薬が手に入るからだろうな。
しかし、おかしいよな。テリュース兄がそんな劣悪な所で遊ぶとも思えないし……。
すると、どこかの冒険者が持ち込んだということか……。これはまずいな、急がないと。
僕はすぐさまテリュース兄をひん剥き診察をおこなった。
すると、淋し~い病気である事が判明したので、廊下に出ていたシロを呼んで治療をほどこした。
そして、テリュース兄を引っ張って迷宮都市に下り立つと、手分けして患者の特定と治療をして回ったのだった。――やれやれ。
カルロの2人の兄。長男のアンソニー20歳、次男テリュース18歳です。双方、田舎育ちで基本的にまじめなのですが、若いと染まるのも早いようです。結構、冒険者には「宵越しの銭を持たない」といった風潮もあり夜は派手に遊ぶようです。そのため迷宮都市には色んな夜の産業が発展しているのです。
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