66. 千年を生きる
僕はシロと一緒にエルフのキリノさんが言う、”青の岩場” に来ていた。
これは、凄い!
ホントに青々した岩場が一面に広がっているのである。中には30m超すような大きな塊もあっちこっちに点在している。
この辺りの岩はほとんど全てがアズライト鉱石で出来ているようだ。
再び、ピーチャンに上空へ上がってもらい確認したが、この岩場は1キロぐらい続いている。
昔見た、オーレン山脈にあったものとは規模が違い過ぎる。これなら、龍が100年食べ続けても枯渇することはないだろう。
僕は、アズライト鉱石の欠片を手に持ちながらしばし考えた。
すると、次の瞬間。目の前にあった高さ20mもの岩の塊が消え去る。
……よし、できたな。――収納魔法である。
うん、ちょっとした茶目っ気と好奇心でやってみたのだが上手くいったようだ。
岩があった目の前には、ポッカリと大きな穴があいている。
おそらく、鉱石群の下にはいくつもの空洞があるのだ。
この空洞があるお陰でアズライト鉱石を収納魔法で手軽に収納できたのだろう。
僕はさらに、岩の塊を2つ収納した後みんなの所へ戻ることにした。
「ああ、帰ってきました! カルロさまです」
昼食に使った道具を片付け終え、近くの岩に腰掛けていたクロナがピョンと立ち上がって喜んでいる。
その隣でヤカンも、大きな尻尾をゆらゆら左右に揺らしながら帰ってくる方向に目を向けていた。
みんなを前にして僕がシロから降りると、
「いや~、その変化といい、スピードといい、その犬くんは只者じゃないね~。昔伝説で聞いた『フェンリル』のようだよ」
――そのフェンリルです。
「それで見てきたのかい、”青の岩場” 間違いなく在っただろう」
「はい、確認してきました。凄いものだったのですねー。ビックリしました」
「そうだろう、そうだろう」
「あの量なら、何百……いえ、千年あっても食べ尽くせないでしょうね」
「……そうか、そんなにか」
と、言ってキリノさんはしょんぼり黙り込んでしまった。
「どうか、しましたか?」
「……ん、ああ、ボクたちエルフは千年を生きる種族。大抵の事は静観していれば過ぎ去ってしまうのだが。今回はそうもいかないようだからね」
「そうなんですかー、大変なんですね」
「うん、それで我が同志が皆の避難所にと人族の国で奮闘しているのだが、これは本格的に移民場所を探す必要がありそうだよ」
ん! んん、今何て? 避難場所? …………。
「あ、あの~、つかぬことをお尋ねしますが、その人族の国とは?」
「うん、確か、隣のクルーガー王国だよ」
「ですよね~。それで、その同志さんはもしやドムス領の……」
「うんうん、よく知ってるなぁ。サファイアだろう。あいつは昔から生真面目なやつで、確り計画を立ててやっていると思うんだ」
おお、いきなりビンゴ! だけどチョロすぎない。嘘をついているようにも見えないし、腹の探り合いもしてこない。
……う~ん、ここのエルフは皆こんな感じなのだろうか? 森に囲まれて生活するとこうなるのか?
一番大きいのは人族と接触していない事だろうか……。
それでも、しっかり情報収集はさせてもらった。
情報をもらったキリノさんには、対価として素晴らしい ”午後の紅茶” をプレゼントした。
この清々しい風の通る草原に日除けのタープを張り、簡易テーブルと椅子を設置する。
そして結界を周りに施し、魔獣とうるさい虫ムシをシャットアウトした。
あとは、美味しいお茶といろんなスイーツを頂きながら ゆっくりとした時間を共に過ごした。
キリノさんの話によると、
ある時、突然ドラゴンがやってきたため、近くに位置していたクルーガー王国の町へ一時的に避難しようと動いていたという。
しかし、いざ人族の町に入ってはみたが、そこには同士の姿はなかった。
どうした事かと探りを入れてみれば。
初めての人族の町で、勝手も分からず浮足立っていた所を言葉巧みに騙されたり、うまく誘導されたりで、すでに多くの同士が奴隷に落とされていたのである。
そこで『これではいけない』と、コミュニティから数人が立ち上がり ”人族の町に拠点” を作るべく行動を開始した。
その中に、先の話に出ていたサファイアもいて、特殊な生い立ちであった彼は当時の公爵令嬢に上手く取り入ってハートを射止めたのであった。
特殊な生い立ちというのは、サファイアはガルーダ大森林の南にあった「シルバーランド王家」の王子であったのだ。
今は他国に統合され、残念ながら無くなっているようだが。
元王子の肩書とエルフ特有の美貌があれば、公爵令嬢のひとりやふたり篭絡するのも頷けるというものだ。
ああ、何となくだが全体像が見えてきたな。
これは、あれだろう。
自分の手の中にある魔法士隊や宮廷魔術師以外の戦力を大きく削り、エルフによる避難計画が露呈した際、王国軍に対抗しながら森に逃がすのように考えていたのだろう。
う~ん、エルフとしてみれば死活問題にあたるけど、全くもって手前勝手な考えであることは変わらない。
もし、クルーガー王国が他国より攻められた場合。
諸侯の軍は苦戦を強いられるだろうし、現存の魔法士隊や宮廷魔術師がどれだけ体を張って守ってくれるだろうか。
甚だ疑問が残るところだ。
人族の時間の感覚、エルフの時間の感覚はかなり違っているのでしょう。お互いに数人混じるぐらいなら許容できても、集団になるとやはり難しいのかもしれません。まあ、架空なことなのでお気楽に受け止められるのですがね。
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