61. 人見知り
僕、アースレット様、コリノさんは王宮殿内の応接室にて打ち合わせを始めた。
「まず、内偵を進めている魔法省からなんだが、調べてもここ20年ぐらいの資料しか出てこないんだ」
「まあ、会計監査の記録などは10年保管は義務づけてはいるが、他のものは5年かそこらだろうから、100年とか言われても古文書ぐらいしか残ってないのが現状だね」
「なるほど、あれも慣例、これも慣例と言われても容易に覆すことができない訳ですね」
「そういう事になるね。お恥ずかしい限りだが」
「それで、魔法省を牛耳っている公爵家とは ”ドムス公爵” ですよね。その辺はどうなんですか?」
「うん、ドムス公爵家になるのだが」
「この王都の隣り、ドムス公爵領を納めるエルフ族の名門でね。現当主の治世はすでに100年を超えているね」
「えっ、名門? 昔は人族が納めていたと思うのですが……。確か」
「えっ、本当に!」
「はい、本当です。そうですよね、コリノさん」
「……興味なかったから知らない。……でもエルフなら情報が流れてくる……たぶん」
あーぁ。アースレット様が頭を抱えだしたぞ。
なるほど、今回の一件はエルフ絡みなのか~。
しかし、悠久を生きるエルフ族。あまり権力とかに執着はないと思うのだが……。
エルフの中にも ”はねっかえり” がいるのか、もっと他に理由があるのか? その辺は調べてみないと分からないだろう。
ということで、エルフの事はエルフに聞こうと冒険者ギルドに問い合わせたところコリノさんが派遣されて来たようだ。
いや、まあ。コリノさんはベテランだよ確かに、だけどコミュニケーションにねぇ、すこーし難があるんだよね。
僕は慣れてるから問題ないけど、コリノさん人見知りするからね。
それで、王宮側としてはどーしたいのか聞いてみたんだけど、
「王宮側としては、諸侯が力を持つことはなるべくなら避けたいのだが、このままでは魔法文化が廃れてしまう可能性もある。こちらとしては、事実関係を調査した上で改めて対処することにしているよ」
「こちらの掴んだ情報のひとつに、今現在ザーク伯爵領のリマにエルフ達がかなり流入しているらしいんだ。そしてそのほとんどが、ガルーダ大森林からみたいなんだよ」
「知ってのとおり、ガルーダ大森林は魔獣の巣窟なんだけどエルフのコミュニティも多くてね」
「そこでなんだけど、カルロ卿。そこに居るコリノ氏と共にガルーダ大森林に赴き、中で何が起こっているのかを調査してきてもらいたいんだよ」
ガルーダ大森林の調査といっても全部やろうだなんて、それこそ100年掛けたとしても無理なはなしである。
今回はガルーダ大森林内でも、リマの町に程近いエルフが約500人ほど暮らす大型コミュニティの調査になる。
ただ、程近いとはいえ大森林の中を10日程進む荒行である。Aランクの冒険者パーティーでも裸足で逃げ出しそうである。
こんなことは、冒険者にでも頼んでもらいたいが、今現在 手の空いてるAランク以上のパーティーはいないそうだ。かといって、Dランクの僕に指名依頼は出せない訳で。
だから わざわざ、王宮から直接依頼が来ているのだ。”カルロ男爵” への要請としてね。
いつもなら、「学園がありますから」と突っぱねることも可能だが、まもなく夏休みに突入するんだな、これが……。
「わかりました。お引き受けいたします」
そうして、アースレット様が退室されたので、お茶のおかわりを貰いながらコリノさんと打ち合わせをすることにした。
まずは、シロ、ヤカン、クロナを隣りに呼ぶ。
「コリノさん、紹介します。こっちが僕の従魔たちで、シロとヤカンです。そしてこっちが従者の猫人族のクロナです」
僕がそういうと、コリノさんはフードを被ったままシロのほうに視線を向けて……しばらく固まった。
「……シロ……」
ようやく硬直が解けたコリノさんが呟くように言った。
「そうです、シロです。懐かしいでしょう」
「あ、いや。シロも冒険者をしてたから、会ったことはあるのかな?」
すると、コリノさんは無言でコクコク頷いている。
「……あなたは誰?……」
「いやだな~、さっき自己紹介したじゃないですか。カルロですよ。……今は」
「……フフフッ、そう……」
尻尾を振りながら近寄ってきたシロの背中を優しく撫でていた。
頭の上にはピーチャンが鎮座しているので……。
そして、夏休みに突入する今度の休日明けに、王都の冒険者ギルド前で僕らは待ち合わせをすることにした。
王宮を後にした僕達は、コリノさんを送るついでに王都の繁華街までやって来た。
まずは、シロの首輪用に新調した ”マジックベルト” を受けとった。
色は赤、シロがサイズチェンジをしても長さを自動で調節してくれる優れものだ。
さっそく、冒険者ギルドでもらっていた ”従魔認識票” を取り付け シロの首に嵌めてあげた。
ヤカンは通常の革ひもで、すでに首から下げている。
次はクロナだ。いくら本人の希望とはいえ、森の中でメイド服はないだろう。
ということで、あちらこちら回りシャツやパンツ、革のブーツなんかも購入していった。
Aランク冒険者のコリノさんは魔法も少し使いますが主力は弓になります。引手に数本のやを持ちながらの連射は特筆するものがあります。あと、相変わらずの人見知り無口キャラになります。彼女もガルーダ大森林のコミュニティ出身なので、道案内も兼ねているのです。
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