59. ヤカン
僕達学園組は、待ち合わせの場所である温泉施設においてロイド様達と合流を果たした。
今日はここ、ダンジョン・スパンク内にある「ダンジョンリビング」へ お邪魔しようと思っている。
ここでいうダンジョンリビングとは、簡単にいうと管理者の居住スペースのことである。
このスペースは広く亜空間に固定されており、管理者が望めば国の1~2つ入るぐらいは拡張することが可能らしい。
初期設定では真っ白な空間が広がっているだけだが、ダンジョンにイメージを渡すことで自由に構築することができるのだ。
さっそくシロにお願いして、みんな一緒にダンジョンリビングへ入った。
だが、あれ? シロのイメージですでに構築が終わっているようなのだ。
そして、そこにあったものとは……。
どこかで見覚えのある ”赤い大鳥居” であった。
さも得意げに尻尾を振っているシロ。
大鳥居の向こう側に見えているものは、これは懐かしい「伏見のお山」であった。
朱色の門や社殿は見当たらないが確かに稲荷山である。鳥居を潜った先の大岩には、立派な ”お稲荷様” が鎮座して……んん。
その真っ白な ”お稲荷様” は大岩をぴょんと飛び下り、スタスタスタとこちらに歩み寄ってくる。
――ごちん!
お腹に体当たりを受けた。――だけど痛くない。
そのお稲荷様は野干であった。
何度も何度も体当たりを受けて、尻餅をついた僕の顔をペロペロと舐めてくる。
「よう、ヤカン。久しぶりだなぁ、元気そうじゃないか」
「久しぶりなんてものではありません! どうして、早く呼んでくださらないのですか?」
「い、いや、そのなヤカンは向うに帰ったとばかり……すまん!」
「そんな主様はしりません! 勝手にどこへでも行ってください」
「まあ、そういうなよヤカン。また一緒に行こう。ほら、大好きなボールもあるぞ。ほれっ!」
この野干はシロと同じく、以前仕えてくれていた従魔なのである。
それに、由緒正しいお稲荷様でもある。
京都伏見にある「伏見稲荷大社」を麓に置く、稲荷山の守護ぎつねだったのだ。
昔助けられた安倍のなにがしの頼みを受け、およそ千年ものあいだ ”お山” を守っていた伝説のお稲荷様なのだ。
嬉しそうにシロと遊ぶヤカンを見やりつつ、ロイド様に声をかけた。
「このくらいあれば、魔法の試し撃ちや訓練には最適ではないでしょうか?」
「…………」
「ロイド様? 如何されましたか」
「……あなたね、どれだけ訓練させる気よ。城にあるような訓練所ぐらいで良いわよ」
「ああ、すいません。魔法を思いっきり試せる場所ということでしたので。てっきり……」
「てっきりって、その先は聞きたくないわね。とにかく、訓練所ぐらい有ればいいわ」
「では、こんな感じで。ええっと、的は50mと100m地点に5基づつ。壊れないようにミスリルで作っておきますね」
「的をミスリルって、まさか純ミスリルってこと? なんて恐ろしい事しているのよ」
「はははっ、ダンジョンですし。外には持ち出せないようになっていますから大丈夫ですよ」
「ああ、そう、もういいわ。……少し頭痛くなってきたわよ」
そういうことで、秘密の魔法訓練所をここダンジョン・スパンク内に設けたのであった。
これは、我々の動きを誰にも察知されなくするという目的があるのだ。
変に魔法出力の調査や訓練をすることにより、相手に警戒されると動き辛くなってしまうだろう。
ゆくゆくは、この「魔法訓練所」も今度作る秘密基地と一緒に温泉施設の地下に移設することにしよう。
さて、準備も整った。
まずは魔法の試射であるが、先陣を務めるはずのダイアナは…………ダメだなこりゃ。
ヤカン(お稲荷様)の太くてなめらかな尻尾に完全にやられている。
首にヤカンの尻尾を巻き付けたダイアナは、口を半開きにし恍惚の表情を浮かべていた。
これは、しばらく此方に戻ってはこないだろう。――仕方ない次いこう。
2番手、ジミーは使い慣れた土魔法を披露。ストーンバレットに続き、大型のストーンランス、そして地面から突き出した針 アースニードル。
アースニードルは土で構成されているため発動が早く、敵を足止めするときに有効だ。
防御においても、そく展開できる土壁 アースウォール、少し準備に時間がかかる ストーンウォールがある。
そして、次はクロナである。初めは軽めの ライト、続いてライトの多重展開で4つまで出している。
それから風魔法の エアカッター、ゴブリンキングをもぶっ飛ばす エアハンマー。そして、矢避けに最適エアウォール。
これらを、クロナはライトを展開させたまま やってのけたのだ。凄すぎるよ本当に11歳か? という感じだ。
そこで、ようやく復活したダイアナが、少し興奮気味に増し増しの魔法を披露した。
属性は風ということで、主力はクロナとほぼ変わらないが、身体強化をした自身の移動時に風魔法を使って加速させていた。
そんな離れ業を披露したのだ。なるほど、身体強化中なので急加速や急制動にも対応出来るわけか。
これには、同じ風使いであるクロナも目を見張っていた。
そして、見学していたロイド様は こんなのあり得ないとばかりに驚愕し、魔法に対しての認識を改めると同時に憤りを覚える結果となった。
うー懐かしい野干の登場です。シロが向こうの世界に戻したとばかり思っていたのですが、こちらに居たのですね。これは頼もしい従魔の復活に例の調査も弾みがつきそうです。そして、ヤカンはこちらでは普通に白狐として見えております。理由としてはこちらの人々は体内の魔力が大きいためです。
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