57. マヨラー
王宮殿についた僕たちはメイド達の案内ですぐ応接室に通された。
もちろん、その時にねぎらいの言葉と30cm角のケーキ箱を10個、メイド隊に渡すことも忘れない。
メイド隊もその箱の中味がケーキだと分かっているのだが、声ひとつ出さず 僕に頭を下げると一箱一箱丁寧に運び去っていった。
今日のケーキは、ダンジョン産の甘く香りが良い ”いちご” をふんだんに使った生デコレーションケーキ。
そしてもうひとつは、こちらもダンジョン産の和栗を丁寧に処理した ”モンブランクリーム” たっぷりのモンブランケーキである。
さらに、スポンジケーキの間とケーキの上には生クリームの土台に半分に割ったシロップ漬けの栗を敷き詰めてあるという特別贅沢なヤツなのだ。
もちろん、ロイド様他、王妃様たちにも3セットづつ届けるように手配は終わっている。
そして今日は、ロイド様と日本茶を楽しもうと お茶うけにはなんと桜餅を用意していた。
しかし、ダンジョンが小豆やもち米、そして桜まで育てていようとはまったく知らなかったのだ。
それで今度は、春の和菓子の代表格「いちご大福」を注文してきたところである。
日本茶を入れようと、急須や湯飲み。桜餅をのせる白磁の皿などを取り出していると、左手奥の扉が開きロイド様が部屋に入ってこられた。
「はーい カルロくん、いらっしゃい よく来たわね。ケーキもありがとね~」
「ああ、まってまって。そんなかしこまった挨拶なんていらないわよ。それにこのピンク色の物ってなーに。いい香りね~」
貴族礼をしようと立ち上がった僕に、ロイド様が声をかけてきた。
とりあえず、僕はその場でお辞儀をし ご挨拶。
「はい、新作が出来ましたので食べていただこうかとお持ちしました。お口にあえば宜しいのですが……」
「まあ そうなの、嬉しいわ。……でも、もうお昼だからみんなでガゼボなんかどうかしら。春のそよ風が気持ちいいわよ」
「はい! それは素敵ですね。ぜひ、参りましょう」
僕はそう言うと、目の前に準備したものを一瞬でインベントリーへ収納した。
「ふふふっ、収納魔法は便利でいいわね~。魔法袋だと面倒で……」
そして、僕たちは少し丘になった東の庭園へと足を運んだ。
ガゼボに近づくと、入口前に騎士が2名立っているのが見える。はて、誰か先にお見えかな。
立っている騎士に目礼をおくり、ガゼボの中へロイド様とはいる。
「あら、あなた。早くお付きだったようですわね。お待たせいたしました」
「いや、私も来たばかりだ。食堂に向かってたところに連絡が来てね。ああ、カルロ卿 挨拶はいいよ。ここは私とロイドだけだからね」
アースレット王太子であった。
「ふふふっ、何か話があったのではなくて。ここなら食事の時もおしゃべり出来ますからね」
うわ~、お見通しだよ。凄いなぁ、流石はロイド様だよ。
忙しい、王太子のことだ。今日連絡して、今日すぐには なかなか難しい。ロイド様といえどもだ。
それに、昼食に誘われたとしても、食後のデザートをいただく僅かな時間のみである。
それを見越しての、この機転の良さに惚れ惚れしてしまう。――不倫はダメ。
「いや、これはまた。御見それ致しました」
「いいのよ、さあ座って座って。……それで、何かあったの?」
今日の昼ごはんはコンソメのような透き通ったブラウンのスープにカリカリベーコン、葉野菜とオニオンのサラダ、そして焼きたてのコッペパン。
僕はカトラリーの中よりナイフを取り、コッペパンに切り込みをいれていく。
そして、その中にカリカリベーコン、オニオン、葉野菜と詰め。インベントリーよりキ〇ーピーマヨネーズを取り出し、ツラ~とかけた。
「おや、珍しい食べ方だね。美味しいのかい?」
「はい! とっても。よろしかったら、どうぞ」
と、アースレット様にマヨネーズのチューブボトルを渡した。
するとアースレット様。見ようみまねでドッグを作り、ひと口パクリ。
「…………。おほほほほっ、なんだこれは! うまいなんてものじゃない」
「あなた、どうしたのです? 変な声をあげて。そして、お口にクリームが付いてますよ」
「おお、済まないマイハニー。この食べものがなんというか未知の領域でその……食べてみてくれ」
なるほど、マヨネーズを初めて食べるとこんな感じになるのか。たしかに未知の食べたことのない味なんだろう。
「あら! いけますわね。これをカルロさまが? 素晴らしいです。ぜひともレシピを」
「はい、それは問題ありませんが、浄化を使える魔法士はいらっしゃいますか?」
「ん、浄化? それなら魔法士団にいるだろうが。あるいは宮廷魔術師かな」
「それなら大丈夫です。このマヨネーズができた時に浄化をかけてもらってください」
「もしくは、容器に蓋をして冷暗所に1日置いておくといいですね」
「なぜ、そんなことするんだい。ただの調味料ではないと?」
「はい、これは生の卵を利用しています。その生卵の中にはお腹に悪さをする目には見えないような小さなものが混じる恐れがあるためです」
「しかし、1日置けとは?」
「はい、これには植物から採った油を使ってますが、1日程でその油が悪さをするものを排除してくれるのです」
そうして、マヨネーズのレシピを書いて渡すと、アースレット様の目が輝き始めたのである。
これぞ王宮殿にマヨラーが誕生した瞬間であった。
和栗のモンブランケーキ。こちらは渋皮いらずの黄色いモンブランクリームです。ああ、いいですよね。幸せの味ですよ。また、いちご大福も最高でしょ。いちごの酸味とこし餡のハーモニーですよ。3つはいけます! 今回すこし脱線しましたが、次回は魔法のお話です。……たぶん。
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