4. 討伐隊
香辛料である胡椒を栽培する件なのだが。
だいたい、ここらの気候は王国の南に位置しており、とても暖かい。
胡椒の栽培には、すこぶる適しているのだ。
そこで僕は、家の庭を利用して胡椒の栽培を開始したのである。
その隣には鷹の爪唐辛子の栽培もしている。こちらは夏過ぎて秋の収穫になるだろう。
みんなの話によると、
どうも、この手の苗はそれぞれの生産者が一手に独占しているらしく。
そのため、なかなか市場には出回らないということだ。
まあ、その辺は僕とシロが居るのだ。
胡椒などの苗や種は、ダンジョンからいくらでも手に入る。
まず、そんな事にはならないだろう。
僕は、今日もシロを連れて、薬草を納めに町へ来ていた。
短いメインストリートを通って冒険者ギルド(出張所)に向かっているのだが……。
どこか町がザワついている様子だ。んんっ、何か有ったのかな?
いつも閑散としている冒険者ギルド(出張所)に人が集まっている。
「何か あったのですか?」
僕はギルド入口で屯しているハンター(猟師)の人に尋ねてみると。
オーガ4頭、それにオークが少なくとも100頭。そんな魔物による混成部隊が、この町に迫ってきているらしいのだ。
それらはオリゴン山脈の麓に突然姿を現し。
小さな村を飲み込みながら、ゆっくりこちらに向かってきているという。
その進み具合からして、4日程で町に到達するであろうと予測された。
僕は、これらの情報をいち早く、アルバートお父様に知らせるため家路を急いだ。
アストレアの町では急遽、討伐隊が組まれることとなった。
その数30名。
……そんな数で大丈夫なのか~?
討伐隊が打って出れば、町に残るのは僅かな衛兵のみになる。
魔物がいくらかでも町に近づけば、もはや逃げるより他はない。
町を囲っているのは、1.5m程の木製の柵だけなのだ。
いくら貧乏でも、一応は町なのだから空堀ほって、石垣ぐらいは築いておこうよ。
討伐隊は明日の朝、町を発つそうだ。
これから、武器や鎧を物置から引っ張り出して準備に大忙しである。
夕食の後、明日の出立準備を進めるアルバートお父様やアンソニー兄様たち。
僕は居間のソファーに座って、シロをモフりながら見守っていた。
すると、アルバートお父様が僕に話しかけてきた。
「カルロよ、今日はしっかり眠ておくのだぞ。明日はもしかすると町に居られないかもしれないからな」
それを子供に言うのかよ。逆に眠れなくなるだろうが――。
……いや、心構えは大切なのか?
どの道、寝ようとは思っていなのだがな。
みんなが寝静まった深夜。
僕はこっそり起き出すと、子供用の革鎧を装着した。
得物は昔メアリーが使っていた短槍だ。
この短槍はダンジョン・ディレクに作らせた特別製で。
魔法の発動体にもなる ”ミスリル・マジック合金” で出来ている。
準備を終えた僕はシロと共に家門の外に転移。
そこからはシロに跨り、オリゴン大山脈へ向うため、夜の小道を西へと進んで行った。
シロは子供の僕に負担をかけまいと、夜風や虫が当たらないように結界で保護してくれているのだ。
なんてデキたやつなんだ……。
虎サイズになり疾走するシロ。
僕は、そんなシロの背中に頬をあて、いい子いい子としばらく撫でていた。
それから、一刻(2時間)程進んだ所でシロは減速しはじめた。
敵である魔獣の群れが近いのだろう。少しずつ慎重に歩を進めていく。
そして、……居た!
オーク共の集団がこちらに向かって来ているのが遠目に映る。
相変わらず凄いなぁ、この ”ナイトビジョン” の性能は……。
そう、以前に開発した。”変身サングラス” を子供用にサイズダウンして運用している。
機能の方は従来品とまったく同じ。
タッチボタンひとつで光学迷彩とナイトビジョンが起動するのだ。
妙なところに関心しつつも、迎撃態勢を整えていく。
「シロ。獲物は少し残すぞ。そうだな~オーガを1頭、オークは15頭ばかし残すとしよう」
すると、シロはコクコク頷いている。――可愛い。
僕はシロに跨ったままで、ついつい頭を撫でてしまっていた。
よし、行こうか。
「シロ、GO!」 背をポンと叩くと共にシロは駆けだしていく。
しかし、戦闘はすぐに終了した。
シロの縦横無尽の動きにオーク共はまったく反応出来ていない。
圧倒的なワンサイドゲームだ。時間にして10分程で、オークの群れを規定数まで減らす事が出来た。
そして後ろから、――ドスン! ――ドスン! と近づいて来るオーガに対しては、シロと共に魔法で迎え撃つ。
まず前に居た、オーガ2頭をエアハンマーでぶっ飛ばし始末する。
もう1頭はウインドカッターで切り刻み弱らせておいた。
「よし、シロ。こんなものだろう。魔石を拾って引き上げるぞ」
そうして、方々に逃げだしたオーク共は無視して、僕たちは魔石集めに精をだした。
この魔石からも、分かるのだが。こいつらはダンジョンの ”モンスター” なのだ。
おそらくは、オリゴン大山脈の麓のどこかに、ダンジョンが出来ているのだろう。
まあ、今日はおとなしく家に戻って。明日以降、本格的にダンジョンを探す事にしよう。
うまくすれば、温泉でも掘って、のんびりスローライフが送れそうだし。
資源的にも、かなり助かるよな。
これで、アストレアの町も、盛り上がってくれると良いのだけれど。
この世界における、ダンジョンの位置づけは「資源」です。
はたして、温泉はできるのでしょうか……。(ワクテカ!
・”ミスリル・マジック合金”
鋼鉄に20%以上のミスリルを混ぜた合金。
魔法の発動体の他、”魔纏” と言って、魔力を刃に纏わせる事が可能になる。
・”変身サングラス”
光学迷彩、ナイトビジョンをスイッチひとつで起動する事が出来るマジック・アイテム。
初期バージョンの ”グレートサ○ヤマン” が装備していた物にそっくりなサングラス。
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