56. 推薦
休日に冒険者登録を済ませ、何日か過ぎたある日のこと。
授業が終わって、廊下で待っていたシロとクロナを連れ 僕は寮の部屋に戻ってきた。
そして、クロナのいれてくれたお茶を頂きながら ひと息入れていた時のこと、今日は珍しくお客さんが来た。
ダイアナである。
来て早々、ピーチャンをドッキングさせたシロに飛びつき至福の表情を晒している。
なるほど、もふもふ成分がかなり不足していたようだ。
まあ、それなら心ゆくまでゆっくりと堪能していってくれ。
ベテラン ”もふらー” であるダイアナの もふもふは、シロもピーチャンも気持ちいいらしく僕が呼ばないかぎり離れようとはしないのだ。
他人の従魔や使い魔でも、このように手なずけてしまえるダイアナの ”もふりテクニック” はその辺のテイマー以上であるだろう。
そんな光景を微笑ましく見ていると、ダイアナが僕をジッと見つめてきた。
ん、なに。僕に惚れちゃった?
すると、いつもは寡黙な彼女なのだが今日は珍しく僕に話かけてきた。
「すいせん。……もれた」
んん、なんだ。
水洗トイレの水が漏れたのか?
「ちがう。すいせんがもれたの」
――おわっ! まだ、何もいってまへんで~。
そうか、水仙が埋もれたのか……。
「そうじゃない。もれたの! 推薦が」
お、おう、推薦な。――ってだから、何にもいってないじゃーん!
「魔法学園の推薦だよ」――にっこり。
おお、とうとう先読みまで……。そして何? そのにっこり。逆にこわいんですけど。
「そ、そうか。それは残念だったな。まあ、そう気を落とすな」
「おかしい。ぜったいおかしい。とても ぜったい おかしい。まるっと とても ぜったい おかしい……」
「ちょ、ちょっと待て! うん、おかしいな。それは絶対おかしいよ。……具体的にどの辺が?」
なるほど なるほど、明らかに自分より成績が劣るものが何人も推薦を受けているのに、成績も上位で、実技も上手く可愛いダイアナが推薦を受けられないのはおかしいよ。
と、まあ そんな感じらしい。
思考の中に気になるワードが入っているが今はスルーだ。――僕は藪はつつかない。
「蛇はでるよ?」
――だから、なんでだよ! そんな分かりやすいのか?
コクコクって、頷くんじゃねー!
「ジョーク」――にっこり。
はいはい、もういいです。気にしません。話が進みませーん。
ダイアナ・ババリー Lv.12
年齢 13
状態 通常
HP 26/26
MP 28/28
筋力 15
防御 13
魔防 19
敏捷 12
器用 10
知力 22
【スキル】 魔法適性(風) 魔力操作(5)
【魔法】 風魔法(3) 身体強化(2)
【祝福】 ユカリーナ・サーメクス
ほうほう、久しぶりに確認したけどなかなかいい感じではないか。他のヤツなんて、ほとんどが一桁だよな。
特に魔法系は強化されているから、このまま ”宮廷魔法士” としても通用するレベルだと思う。
「どう?」――にっこり。
「…………」
「どう?」――にっこり。
「……。うん、いいと思うぞ」
「そう」
「ただ、推薦する方もそれぞれ基準があるんじゃないか。よく、わからないがな」
あらら、モフっているシロにしなだれて憔悴したような顔になってる。――なんか可愛い。
「そんなにか。そんなに宮廷魔法士になりたいのか?」
「うん、夢だから」
そうかー、夢かー。
まあ、魔法に関して言えば、ここに来た時から違和感があった。
しかし、不思議と2年以上居るとこれが当たり前のような錯覚に囚われてしまう。
これが教育というものか? なん十年。いや、百年も続けていけば これがスタンダードになるのかもな。
そういう事だよな。だから誰も気づかない。
気づいた者がいても、無視。もしくは踏み潰せばそれでいい。
これは意外と根が深いかもな。
と、いうことで、この国の事はこの国の王宮に聞けとばかりに、やってきました王宮殿。
転移は許可のあったとき限定なので、貴族らしく馬車で王宮に向かっている。
ああ、この馬車はレンタルだよ。1日借りて金貨1枚、馭者がついているのはなかなかのセールスポイントだと思う。
だって、馬とか馬車とか維持費が超大変。
だから、レンタルが一番なんだよね。――超便利!
ただ、門があるたびに止められて検問を受けるのだ。朝出てきたのにもうすぐお昼だ。
一番奥の門の手前で面会の許可待ち、許可を申請したのは無難にロイド様である。
半刻程でようやく許可が下りた。
しかし、何故だか馭者のおっちゃんが驚いている。
どうかしたのか訪ねてみると、ここの門を潜ることはめったにないということだ。
ここまで来たとしても、結局のところ許可がもらえず皆すごすごと帰っていくそうだ。
まあ、ここは王宮殿へつながる最後の門だからな。
普通はなかなか通れないのであろう。しかもこっちはレンタル馬車なのだ。
それが門まで出迎えてくれたのは、顔見知りのロイド様の執事がひとりに、王宮メイド隊がなんと15名。
びっしり3列縦隊でならんでおり一子の乱れも無い。
そして、門番に早く通せと威圧しているのだ。
そんな中、びっくりしている馭者をよそに僕は彼女達に手を振るのであった。
まず、作中のカルロとダイアナの会話は日本語ありきのものであり、実際はありえませんが、2人が似たような言葉あそびをしてるものと思っていただければ嬉しいです。途中で、あ―――っとなった方ごめんなさい。さて、いよいよ魔法教育の問題点を調べていくようです。
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