54. 冒険者ギルド
僕は冒険者登録をするため、王都の冒険者ギルドを訪ねていた。
シロは従魔登録があるため一緒だ。クロナは学園にて待つように言ったのだが、
「わたしはカルロ様の従者ですので当然ついて行きます。ダメと言われても行きます」
最近、押しが強くなったクロナたんなのです。――やれやれ。
という訳で、シロとクロナを引き連れて受付カウンター前に並んでいる訳だが、まだ朝方ということもあり結構混んでいるのだ。
「おい! お前、順番を変われ。子供が集まって何しようてんだ~ あ゛」
「そうだそうだ! とっとと道を空けやがれ」
おーおー、天ぷら…じゃなかった。え~なんだっけ、ああテンプレ テンプレ。
って、いらね――。なんだよ、無視無視。
すると、こちらが何も言い返せないと思ったのかバカ共はさらに、
「な~にシカトこいてんだー。何? ビビっちゃった。ねーボクたち~」
「おうよ、ディレクでならしたDランクの ”ロングスネークトルネード” とは俺達のことだぜぇ」
「今も軽~く3階層を制覇しての凱旋だぜぇ。わかったら、小便もらしてママのところに帰ぇーりな」
クロナは『どーしますか、シメましょうか?』と目で訴えてきているし、シロはピーチャンを乗せてあくびをしている。
さて、困ったな。
威圧したら、ここにいる半分は倒れるだろうし、手を出せば目立つだろうし、うーん貴族という事を示したとしても時間がかかるよね。
僕がクロナを抑えて、考えこんでいると、
「てめーら、それくらいにしやがれ。いい年こいて恥ずかしいったらないぜ」
と、ドスの利いた甲高い声が冒険者ギルド内に響き渡った。
おお、萬屋さんのような……。
声がした方に僕が振り向くと、2歳位の男の子を腕抱きにした狼人族の姿がそこにあった。
黒いざんばら髪を後ろでしばり。
目は鋭いが目下にクマができており、素浪人のような雰囲気を漂わせている。
『おい、イットーさんだ』
『来たよ~。拝みのイットーさん』
『血の雨が降っても知らねーぞ』
『ダイゴくん可愛い!』
周りの者が口々に噂をしているし、割と有名人なのか?
「お、おい。ちょっとヤバくないか?」
「って、ちょっと待て、置いていくな。ちっ、クソが 覚えてやがれ! 」
何か知らないが、”長い物には巻かれろ” 的なグループ名の2人は捨て台詞を残してギルドから出ていってしまった。
ふう、なんとか手を出さずに済んだな。
「あぶないところをお助けくださり、ありがとうございました。えっと、イットーさんですよね」
「おう、てぇーへんだったな。この王都にまだあんな冒険者がいるとわな。また、なんかあったら おっちゃんに言ってきな」
「はい、そうします。本当に助かりました」
「おう、またな。気ーつけて帰んな」
そういうと、狼人族の親子は冒険者ギルドを去っていった。
ふ~ん、あんな冒険者もいるんだなぁ。
あの、父親のことを ”ちゃん” と呼んでいた男の子もなかなか可愛かったな。
名前はダイゴか。今度あったら、「ウィッシュ!」を教えてやることにしよう。
僕たちは無事に冒険者登録とシロの従魔登録を終えた。
王都では珍しい熊人族の受付嬢に挨拶をして、クエストボードでも見て帰るかと踵を返した折、女性に後ろから声をかけられた。
「あの、少々お待ちいただけますか? 確認したい事があるのです」
声がする方に振り返ってみると、受付カウンター越しにこちらを覗いている女性の姿がそこにはあった。
「宜しかったら、こちらへお回りください」
冒険者ギルドの職員であろう若い女性は、豊満な胸をカウンターに押しつけ少々苦し気に喋っている。
…………。
僕とシロ、クロナはギルド奥の個室へと案内された。
声をかけてきた豊満なお姉さんも一緒だ。
「ごめんなさいね。いくつか質問があるからそこの椅子に座ってね」
僕は言われたままに、テーブルの向こう側へ回って椅子に腰を下ろした。
クロナは、両手を前で重かさね 僕の後ろに凛として立っている。
シロは僕が座っている左側にお座りをし、ピーチャンは右肩に移動している。
まさに、鉄壁のディフェンス! ――すばらしい!
なんでも、シロとクロナで話し合いをして、このフォーメーションを完成させたということだ。
だから、ここに来るまでの町中でも このフォーメーションを崩すことはない。
まったく、何やってんだか。
「突然、お呼び立てして申し訳ありません。わたくし、冒険者ギルド・バース本部にてチーフアドバイザーをしておりますコジフと申します」
そう言ってコジフさんは、登録情報が載っているであろうファイルに目を通しつつ 話を始めた。
「今回、カルロ様の冒険者登録並びに、従魔登録をしていただきまして ありがとうございました。それで、今回お伺いしたいのは従魔の記述についてです」
「こちらですが、従魔の登録名は「シロ」で間違いございませんか?」
「ええ、名前がシロなんでそのまま「シロ」で登録しました。それがなにか?」
「いえいえ、登録名自体は何も問題ないのですが、注目すべきはこのシロの種族名になります。ここに『犬』と表記してありますが違いますよね?」
「…………」
「犬ではありませんよね?」
「……なぜ、そう思われたのですか? 何か不都合がありますか」
おそらく、冒険者ギルドにはシロについての記述が残っているのだろう。
これは隠し通すのは難しそうだな……。っていうか、もうバレてますよね~。
やって来ました冒険者ギルド。異世界といえば冒険者だからね。しかもテンプレ付きとか泣ける。助けてもらうのもテンプレだよね~。助けたほうも雰囲気あるよね。子連れの狼人族……ってそのままやないかー。さて、次回はもうひとつのテンプレ。そう、ギルマスの登場です。
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