51. 叙爵
あれから……、つまり10階層を攻略してから10日あまりが過ぎようとしていた。
僕もクロナも温泉施設内の新ブースを公開するにあたり、様々な準備をすすめていた。
クロナはもっぱらマッサージ技術向上のため腕を磨いている。
そのため、ジミーのメイドであるカミラ、家のエレノア母様、アストレア家メイド長を務めるアンナ、そしてアンのところのマニラさん。
この4人を毎日ローテーションを組み、マッサージの練習をさせてもらっていた。
僕のほうはマッサージ施設で使う備品の準備。
それに、泥パック用リムーバー、化粧水、保湿クリームなどのケア用品の開発を手掛けていた。
そんな時、いよいよ王宮から呼び出しがかかったのである。
次の日の朝、国王様の計らいで用意してもらった馬車にシロとピーチャン、そしてクロナを伴って乗り込んだ。
王城に着き、しばらく待たされたが なんとかお昼前に叙爵式は終わった。
叙爵の折、宰相様より家名はどうするか聞かれたのだが、僕はまだアストレア姓を名のることを告げた。
しかし、アストレア家は子爵なので、それ以上の爵位に付くときには変えなければならないようである。
僕が臣下の礼を取って、国王様が退出される際、
「セーラの事も頼むぞ。そなたの所ならワシも気兼ねなく行けるからのぅ」
小さく呟くように、そう言われ護衛騎士と共に退出された。
セーラのことがよほど可愛いのだろうなぁ。
また前回に続き、国王様の愚痴聞き係に任命された瞬間でもあった。
略式の儀礼の間を出た僕は、客室に戻ると王太子妃のロイド様に面会を申し込んだ。
長く待たされるものと覚悟していたのだが、どうも昼食を一緒にという事らしい。
そうして、来客用の食堂に案内された僕は、案内してくれたメイドにお礼の言葉と20cm程の紙袋を手渡した。
袋の中身は ”焦がしバターのマドレーヌ” が10個、今回は貝の形に焼き上げられている。
それを受けとったメイドは歓喜の表情で、手首だけを動かし そっと手を振ってくれた。
「カルロく~ん、あまりうちのメイドを甘やかしちゃダメよ。ホントにあなたって子は」
ロイド様は先に来ていたようだ。
「はーい、そんなつもりはありませんよ。ただ、新作ができたのでどうかと思いまして。もちろん、ロイド様にも用意がありますので、のちほど」
「まあ、そうなの。それでは後で頂きましょう。新作は楽しみだわ」
「ああ、それでねカルロくん。こっちが うちの子、今年から学園にかよっているわ。まだ慣れてないと思うから学園であった時はよろしくね」
「はい。僕は男爵のカルロ・ジ・アストレアと申します。よろしくお願いいたします」
「…………」
「…………」
「これ、ノーマット。挨拶はどうしたの? ちゃんとしなさい」
ノーマットと呼ばれた男の子はロイド様の膝に頭を乗っけて此方を見ている。
しかも、見えないところで、”あっかんべ~” をしているのだ。――子供か!
いや、まあ子供なのだが。
学園ではどうなんだろう。おとなしくやっているのだろうか。
昼食を終えた僕らは、ロイド様に連れられるまま、こじんまりとした応接室に通された。
「ゆっくりしてちょうだい。いま、お茶を入れるわね」
ロイド様はそう言われると、手ずからティーポットの蓋を開け茶葉を入れはじめた。
花嫁修業で鍛えたのか、それは見事な所作でお茶をいれてくれた。
それでは失礼して…………。
おおっ、うまい!
これはまた、香りといい濃さといい 絶妙なバランスというか何というか。
「どう、なかなかでしょ。昔頑張ったんだから」
「はい。これは正直おどろきました。すごく美味しいです」
僕は紙袋に入ったマドレーヌをトングで掴み皿に乗せると、ひとつをロイド様へ手渡した。
「うん、美味しい。今日も上手く入れられたわね。さて、今日の用向きは何なのかしら」
「私としては、このマドレーヌだけでもいいのだけれど」
「はい、恐れ入ります。実は…………」
僕は温泉施設の改造のこと、泥パックのこと、そして最後にあのメイド2人の事まで包み隠さずに話をした。
この王太子妃であるロイド様は、至って聡明な方であり、その手腕により ここ王宮殿の使用人達を束ねていらっしゃるのだ。
今回も、これらを敏感に感じ取り このように使用人を入れないように対処されているわけだ。
いやはや、大した人物である。
そこで、僕は変に隠し立てするよりも すべてを正直にお伝えし、こちらの提案を受け入れてもらえるよう話をすすめた。
「そう、あの二人ね。以前からコソコソしていると思ったら……。そうね、あの時もしばらく姿が見えなかったわね」
「まあ、ああいった場所を作ってしまった自分にも責任がございます。ですから、今回ばかりは寛大なる措置をお願いいたします」
「カルロくん、それじゃダメよぉ。あなたは今日から貴族家の当主になったのです、そのようなことでは舐められますよ」
「でも、あなたのその優しさに免じて少し考えてみましょう」
すると、事実確認のためだろうか。
ロイド様は廊下で待機していた執事を部屋に呼ぶと、今回の当事者である2人を直ぐ連れてくるよう指示を出していた。
カルロくん叙爵していきなり男爵です。式のほうは略式の儀礼の間で行われました。ここでは、子爵までの叙爵や陞爵の儀の他、代替わりの承認の儀などが行われます。伯爵以上になりますと、通常の儀礼の間(謁見の間)で行われ、式典の後はパーティーが催されます。
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