48. 婚約?
僕とアースレット様は、通路脇の岩場に腰掛け話をすることにした。
「あのー、話というのは……。ダンジョンの事でしょうか?」
「あ、ああ、うん。そうだねーそれもあるんだけどね。実はもうひとつあってね……」
「はあ、そんなに話づらいことなのですか? なんだか聞くのが怖くなりました」
「あ、いや、それほど大した……。いや、大した話だよ。うん」
「えっと、要領を得ないのですが……。大抵の事では驚きませんので、ズバっといってくださいよ」
「……うん、……と婚約して欲しいんだよ」
「あの~よく聞き取れなかったのですが、婚約ですか? 僕がですか」
「そうなんだ、ダメかい? その~、年がかなり離れてるんだけどね。私の兄妹なんだが」
なんだって、アースレット様の兄妹? おばさんじゃん。行かず後家でも押し付けるつもりかな。
「おわっ、そんな顔しないでくれよ。兄妹っていっても腹違いだよ。おばさんじゃないから」
そんな、ベタッとした顔してたかなぁ?
「で、誰なんです? もういいでしょ。ハッキリ言ってください!」
「セーラだよ。あそこにいる」
アースレット様は顔だけ、カメさん滑り台に向けて言い放った。
そうか、セーラか。……セーラ! もうすぐ4歳とかいってたな。7つ違い……。
アリっと言えばアリだろうが、婚約か~。貴族どうしだから無い訳ではないが、どうなんだろう。
セーラは側室の子とはいえ王女だ。降嫁させるにしろ、それなりの家柄がいるんじゃなかったか。
……ああ、そう言うことね。
おそらく、叙爵されるなこれは……。
「で、どうだろう。セーラはあの通り気立てはよく、可愛い、大きくなったらそれは美人になると思うよ」
「どう、って、断れるんですか?」
「いや、無理だろうね。キミの父親にも話が行くし」
「で、僕は何者になるのでしょう?」
「うん、まずは近々男爵だろうね。セーラを救った事と、このダンジョンの功績をでっちあげるから」
おーおー、この王子様、ぶっちゃけてますよ~。いいんですかね。
すると、周りが次第ににぎやかになってきた。どうやら、アースレット様のお話はここまでのようだ。
去り際に、アースレット様は僕の耳元で、
「近々、王宮より呼び出しが掛かるよ。準備しててよ」
「は…ぁ」
僕はそんな気の抜けた返事しかできなかった。
すると、アースレット様と入れ違いになるように、アンとダイアナがスススッと近づいてきた。
「ちょっとー、大変だったんだからね。あなた知ってたでしょう王妃様たちが見えるの」
「だから、言っただろう。大変なことになるよって」
「お陰でいろいろ聞かれたわよ、何処から来たのか、誰ときたのか、なんでいるのか」
「おうおう、それは大変だったな。……乙」
「そうよ、そして何よあの人数。しかも、メイドだらけ。取り囲まれて逃げるに逃げられないし」
「王宮のメイドなんかそんなもんさ。とにかく好奇心が旺盛で噂好きだからな」
そんな感じで、文句をいうだけいったアンたちは流れる温泉プールのほうに向かって歩いていった。
するとそこに、
「あら、カルロくんうちの人見なかったー? どこ行っちゃったのかしら」
「これはロイド様、お久しぶりです。……あれっ、以前に比べて肌ツヤが良くなりました?」
「ええ! さすがね~。わかる、わかっちゃう。最近み~んな言ってくれるのよぉ。あの人以外」
うわぁー、なにやってるんだアースレット王子。褒めろよ、褒めちぎれよ、家のエレノア母様にはあんなに饒舌になっていたのに。
あれか、身内にはこんなん使えるかよー 的な?
「アースレット様なら、先程戻って行かれましたから、今は内湯の方かと」
「まぁ大変! 今日は男湯の方も利用してよいと、通達をだしたのよね~」
「こーしちゃいられないわ。急いで戻らないと。それじゃねカルロくん、助かったわ」
あーあ、行っちゃったよ。助かったと言ってたけど、アースレット様は本当に助かるのだろうか?
ジャグジーバスでシャンパングラス持たしたら似合いそー。よく出てくるよな外国映画で女の子をはべらせてさ。
地でやってたりしてwwwww ――死ぬな! 間違いなく。――アーメン。
さてと、僕はどうしようか? すこし身体が冷めてきたな。
「クロナ、すこし冷めてきたな。どこがいいかな?」
ずっと、僕の後ろに控えて何も話さないクロナに話を振ってみた。
するとクロナは、自慢の黒尻尾をくねくねさせて考えている。――可愛い。
そして、考えが纏まったのか奥の方を指差し、
「あれが良いです。今日は王宮から沢山の人が来られています。だからアレなのです」
何か知らないが、クロナは興奮気味に尻尾をピンと立てて訴えてくる。
こっちの奥は僕が丹精込めて、……いや、洒落で造ったミニジャングルブースがあるのだ。
そのミニジャングルの中には3~4人程入れる岩風呂と、その周りを囲むように1人用の壺湯が5基設置されていたはずだ。
みんな原生林が嫌いなのか、あまり近寄ろうとはしない。
たとえ原生林が鬱蒼としていても、中にはヘビも出なければ虫だっていないのだ。
でも、クロナはよく知ってたな。さすが温泉マイスターだな。
うん、何かあると思ってたんだよねー。まさか婚約ときたか、叙爵はある程度はね。しかし、毎回毎回、来るよねーメイドさん。王宮殿の仕事は大丈夫なのかね~。まあ、何百人も居るんだろうね。コックですら100人はいるだろうから、それを考えれば。さて、次回はクロナは何か狙いがあるのか?
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